第90話 ソリッドギターのゆるい話
いきなりソリッドギター? と思われた方、多分結構いるはず。近年、レスポールを使う人が減ったという世論をあちらこちらで聞く。まあ、僕の持っているヤマハSGが軽量化軽快な音に変化した時代相を見ても、当たらずと遠からずだ。レスポールの音はヤマハSGの音にも近いと言われる。というより、メカ部分はさておき、構造がとても似ていると僕は思っている。SGというネーミング、ヤマハからはアナウンスは聞いたことはないが、多くの人は「ソリッドギター」の略称でしょう、と当たり前のように言っていたのを思い出す。真偽は知らないし、定かではない。ソリッドギターの最大の利点は、ピックアップのハウリングがおこらない、おこりづらいことである。ホロウボディ(箱物筐体)の空洞部分がハウリングの原因と言われるので、板一枚のソリッドギターはそれを克服した形状だ。
とりわけSG2000やSG3000は重壮なボディとサスティンの伸びやかな音が持ち味だが、ソリッドギターなのにホロウボディ(箱物)のような音が魅力なのだという意見も聞く。これはレスポールの最上機種も同じ事が言われている。僕にはそんな聴き分ける力はないので「そうなのかな?」と漠然と思う程度のことだ。
でもなんだかんだ言っても、SGの場合、素人意見で、しかもカタログ通りの模範解答っぽく言うけど、T型スルーネックの合体材質構造とブリッジ近くにあるサスティンブロックの振動余韻音の影響が一番だとは思うけど。現在の製品は 二十一世紀に入ってすぐに模様替えしたSG1802というオールディーズ向けのモデルや他二種類が販売されている。
なのでヤマハSG、現在のシリーズは軽量で機動性に富んだ、エフェクターのノリがいいタイプの音に変わって、全体的にはよりハードロック系の音質に近づけられている。
まあヤマハの話はさておき、レスポールがソリッドギターの最高峰だった頃、アメリカでは三つの有名なソリッドギターが七十年代から八十年代に人気を博した。それがレスポールの他に、ストラトキャスターとテレキャスターである。いまやエレキギターの代表的なシルエット、形状と言えばストラトキャスターという人が多い。
そしてこのストラトキャスターの話を聞いて、同時に、ああ、フェンダー社の話ね、と思う方もいるはず。
エレキギターの老舗と言えば、リッケンバッカーやギブソン、エピフォンと並んで、フェンダーを思い出すはずである。そんな戦後まもなくに、出発したギターバンドのメイン機材であるソリッドギターの誕生時代の界隈を、例のごとく僕が知っているレベルでゆるく語ってみよう。
フェンダーって、ギター弾きなら知らない人はいないと思うレベルのメーカーだ。アメリカでレオ・フェンダー(1909-1991)が創設した楽器製造会社であり、ブランドである。有名な商品としては、既述のようにテレキャスター、ストラトキャスター、そしてジャズベース、ジャズマスターなどが挙げられる。ギターの形状はネットの画像を探して確認して欲しい。ああ、あの形か、どっかで見たことある、とご納得いくだろう。
もともとこのレオさん、演奏者でもなければ、楽器商でもない。面白い経歴の人だ。電気通信技術者で、ラジオの製造販売をする会社の経営者。ばりばりの理系職人である。だから通信技術に長けた人物だった。当時のラジオはミュージシャンの情報源なので、そういった繋がりも多かったのだろう。お客の中に増幅器やPA機器(音響ミキサー装置)などの相談をしてくる者も多かったようだ。
そんな考案機材の中に、ギター・ピックアップという増幅部品があった。ハワイアンやカントリーミュージックで使うスライドギターにこれを取り付けたいというオファーだ。
ピックアップはいわば、ギターのマイクである。集音装置。ちょっと声を拾うマイクロフォンと違うのは、弦の振動を電気信号に変化させてアンプに送り、再び音に変えるという役目を課された部品である。これをギターにつけることで、大音量になって、大きなホールなどでのコンサートにも十分対応する楽器が用意できるようになったということだ。
やがてレオ・フェンダーは、リッケンバッカーにいた工房職人と会社を立ち上げるのだが、儲けにならないと分かるとその相棒はすぐに身を引いてしまう。やがて再び相棒を探していたレオは、ビグスリー、レスポールという友人と出会うことになる。完全ハンドメイドの高級ギターで有名なビグスリーブランドの創始者と、後にギブソンで自分の名義をつけたギターを作ったレス・ポールである。
三人は知恵を出し合い、新しいギターバンド用のエレキギターを開発していた。それまではセミアコと呼ばれるサウンドホールのあるエレキギターが普通だったのだが、穴のない、空洞ではないギターを作ることに三人は達していた。いち早く作ったのはビグスリーだ。金属感のあるボディに木製ボディを組み合わせた複合的なタイプだった。操作盤とピックガードの部分を金属の板で被って未来感を出した筐体である。
それを見たレオは、更にピックアップの改良を行い、集音率を上げた電気屋本来の持ち味のエレキギターを作り上げる。しかもセミプロも使ってくれるように給料取りの一ヶ月程度の値段で、完成製品の品質がばらけない量産品として世に送ることに成功した。それが「ブロードキャスター」というタイプのギターだった。ラジオ通信工房が出発点のレオ・フェンダーらしいネーミング商品である。
これの試作の段階で、研究仲間のレス・ポールに相談して一緒に作らないか、と誘いを出すが、その時にはレス・ポールはギブソン社と業務契約関係にあったために断ることになる。だがレオのギターのあまりの完成度の高さに危機感を感じたのか、レスはギブソン社に相談して、ギブソン社内で自分のソリッドギターを作ることになった。後にこれが丸い筐体、フォルムの「レスポール」タイプである。
結局一人でフェンダーは、生計の面で奥さんの力も借りて、何とかソリッドギターの「ブロードキャスター」タイプのエレキギターを作り始めた。ところがこの「ブロードキャスター」という名称が商標権に引っかかり、改名を余儀なくされる。そこで遠隔状況を見るテレスコープや遠隔画像放送という意味もあるテレビジョンに近い語意からの造語「テレキャスター」という名称に変更して売り出す。もちろんこのエレキギターは大ヒットである。今日でも多くのアーティストが使っていることは言うまでも無い。この姉妹器として登場したのが宇宙や衛星をイメージしたネーミングの「ストラトキャスター」である。成層圏という意味とも言われている。何処までも宇宙や電磁波、放送通信が好きなレオ・フェンダーである。
「ストラトキャスター」の考案者と「レス・ポール」の考案者がこんなにも近しい関係と知った時は僕も驚きだった。そしてフェンダー氏はバンドマン・ベースの泣き所、ウッドベース、即ちコントラバスの問題にも真摯に対処して、「テレキャスター」のノウハウを活かした、持ち運びに便利なエレキベースを考案する。大ヒット製品「プレシジョンベース」の誕生である。これはそれまでフレットレスだったコントラバスの弱点を克服させて、ギターと同様にフレットをつけることで正確な音を出すことが出来て、エレキギターと同じく増幅ピックアップを備えたエレキベースギターの開発に成功する。
このフェンダー社のエレキギターのラインアップが出そろったあたりで、ロックやポップスのシーンは鮮やかな音楽で飾られるようになる。そこに生まれたてのシンセサイザ―の登場も加わり、七十年代の末期から八十年ごろには、ポピュラーミュージックの音色はカラフルなモノへと彩られることになる。
もちろん九十年代にはPCやミディ、サンプリングの発達で、音色はより拡充されて、パソコンだけで演奏も出来るようになる。これをラグタイム時代の自動演奏に準えて、演奏用のPCアプリ画面を「ピアノロール」なんて懐かしいネーミングがつけられている。
今では音楽領域の撤廃も結構進み、楽しい趣味や余暇として今日も人々の心を和ませてくれている。今日の楽器シーン、僕には嬉しい環境に育っている。そんな楽器たちの四方山話のひとつとしてソリッドギターの生い立ちを今回は紹介してみた。不完全な知識のところもあるかも知れないが、そこはおじさんの日記であるから、ご愛敬で許されたし(笑)。ではまた。
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