第84話 音色と楽器

 かつてポータサウンドというポータブル電子キーボードが一世を風靡したことがあった。僕は祖父母に、親戚から頂いた高校の合格祝い金でこれを買っても良いか、と訊ねると、「足りるンなら買わせナ」と二つ返事の良い感触。両親と住んでいたらこうはいかなかったろう。祖父母に感謝だ。県立高校に受かったことで祖父母も嬉しそうだった(田舎はそういうものです)。喜び勇んで、足利と佐野の町の中に電車に乗って出かけた記憶がある。結局、その日には手に入らず取り寄せになった。田舎町の限界? おおよそ一週間後に、現物のあれを手にしたとき本当に感動した思い出がある。

 その半年後に人生初めてのアルバイトでアコースティックギターとベースギターを買っている。今でも覚えている夏休みのアルバイト、時給435円。僕の高校時代は音楽と物語だった。え、勉強? なにそれ美味しいの? 浪人しているので察して欲しい(笑)。第二次ベビーブームの中で受験は結構厳しいモノだった。高校三年になって、自業自得を迎える。この高一の時は本人はまるで脳天気だったけど。


 さてこのポータサウンドのバッキング機能のおかげで、打楽器による拍子、低音の土台となる音色、和音によるポリフォニック(複音)なバッキング、主旋律を弾く音色という構成が音楽の一般的な構造であると理解する。

 この楽器はコードを左手で押さえるとあらかじめセットされたロックやポップス、ブルースなどのアレンジ、典型的なバッキングパターンを演奏してくれるのだ。その演奏に載せて右手で主旋律を弾くことになる。そのバッキングのパターンが打楽器、ベース音、分解和音(アルペジオなど)の電子演奏だった。

 人間の弾くロックやポップスなどのギターバンドなら、それらをドラムス、エレキベース、そしてサイドギターやピアノやオルガンがこなす。

 それに載せて、ボーカルやリードギターないし主旋律を弾く楽器がメロディを奏でるという構成になる。


 もう少し踏み込むと、ブルーグラス(アメリカのフォークカントリーミュージックから派生したジャンル)ならドラムス、ウッドベース、アコースティックギター、そして主旋律はリゾネーターギター(通称ドブロ)やバンジョー、シロフォンなどがメロディを奏でるのだ。

 クラッシックのオーケストラは弦と管楽器がサイドギターやバッキングピアノの役割を果たすが、和音の一音が一つの楽器で行うので、やや大雑把に言えば和音を奏でるには五人の五つの弦管楽器が必要になる(実際にはクラッシックは和音で小節を捉えるような構成ではないし、知らないけどコードって概念で作っていなさそう)。音を厚くしたければ、もっと多くの楽器が必要となるし、オクターブ違いの楽器を増やしたりもする。例えばフィドルとビオラとか、フィドルとチェロなどだ。しかもはじきっぱなしのギターや鍵盤と違い、これらの弦楽器は強弱や長い音、そしてメロディーめいた和音もいける。アレンジにもよるが、なんなら主旋律を交代しながら引き受けることや持ち回りで受け持つことも多い。

 ギターバンドの間奏のギターソロは、ボーカルから主旋律を受け継いで交代していると考えれば、ここでいっている話と似た構成だ。

 オーケストラやビッグバンドジャズの醍醐味は、幾重にもなるメロディ音色の交代、ここにある。絵画でいうなら総天然色なのだ。色とりどりの楽器の音がひとつに集まる。墨絵やデッサンとは違うカラフルな24色絵具かな? 何者も音色の味はこう言ったオケの類いには敵わないと僕は感じる。

 トリオジャズやカルテットジャズは、唯一違う意味で音色に味があるんだけど、これは僕の個人的な嗜好性なので一般的な話ではない。モノトーンではない三色ないし四色で表現できる世界なのだ。


 結局、ピアノとギターがなぜ重宝されるか、というのはここに挙げた楽器構成に関係してくるのだが、要はポリフォニック・インストルメンツ、複音楽器なのである。和音を出して、複数の音を奏でることが出来る万能楽器ゆえにポピュラー化したという話も多い。

 対して笛や管楽器などはモノフォニック(単音)の楽器なので、メロディを奏でるために使うことが多い楽器ということになる。勿論、バッキングを単音でやるような曲もあるので、一概に決めつけはしないけど、おおむねポピュラーミュージックだとそういう使い方が多いという傾向がある。と、趣味人の僕は考える。


 最後に楽器音再生装置、すなわちオーディオについて。スピーカーにはなぜサウンドホールがあるのか、という話だが、音を逃がす空気穴である。ギターなどにもある。科学の世界では音は空気の振動である。低音ほど音ではなく揺れになってしまう。低音が壁を伝うのは皆さんが周知の通りで、カラオケボックスなどで一度は感じた覚えがある人も多いだろう。そんな風に振動が内部にこもらないように空気ダクトとして作ったのが、スピーカーのサウンドホールということだ。昔やってたオーディオメーカーのアドバイザーのアルバイトの知識がそこそこ活きる回である(笑)。

 これをまた出力のあるアンプに直結したスリーウェイのスピーカーで再生すると臨場感が半端ないのである。性能の良いオーディオの醍醐味は楽器の味やライブ盤なら臨場感とそのままマッチする。

 僕の音楽好きは、入学祝いの電子キーボードに始まり、軽音の部活、オーディオのバイトと結構凝った領域までいった。

 僕は演奏下手で、才能がなくて本当に良かった。趣味にしておいて良かった。そう思うのは、凝り性の僕に歯止めをかけるのが、そう自己抑制をかけるのは大変だからだ(笑)。おかげで物語や文学畑の隅っこにて、楽しくひっそりと生息しているのが定位置となった。余は満足じゃ(笑)。ではまた。

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