第77話 カリメロとチョビン
エンドレスにショパンの「ノクターン」をリピートして、ステレオでかけつづけながら、この文章を書いている日曜日の朝。今日は幼少期の思い出話をひとつ。
今は亡き京都の親友と一緒の小学校に通っていた頃、僕のあだ名は「カリメロ」だった。そう、あのアニメ。タマゴの殻の帽子を被った黒いひよこである。知っている方は知っている。五十歳以上の方は覚えているかな? イタリアのCMキャラクターの原作を日本でアニメ化したモノである。
その当該の親友は「星の子チョビン」と言われていた。チョビンは王子様である。アニメに描かれている実体としてはチョビンもカリメロも容姿はほぼ変わらない。三頭身のデフォルメされたようなフォルムである。
キャラとしては、チョビンは勇敢に何にでも挑む、はねて弾む鞠状の球体宇宙人。要はヒーローなのだ。一方のカリメロはくよくよしては、ガールフレンドのプリシラにいつも叱咤激励をうける鈍くさくてトロいヤツ。優しいけど頼りないって感じ。
僕の級友たちは上手くあだ名をつけたものだ。まんま、僕と彼の性格である(笑)。
その親友とは通学、登下校はいつも一緒だったので、なおさらその仲良しワンセットは目立ったのである。
その後彼は父親の転勤で京都に戻っていった。そして中学高校と二人が成長してもその友情は続いていた。それもひとえに彼の性格の良さが起因である。
決定的な王子様と卵のひよこの違いは大学生時代だった(笑)。二人とも大学院に進むが、学部、院ともに、僕は東京の三流私大、彼は京都、いや西日本で一番賢い国立大学に入った。月とすっぽんである。しかも僕の留学中、ヨーロッパまで卒業旅行をかねて遊びに来てくれたのだ。トーマスクックの時刻表を片手に、いつもの笑顔で。
この年齢になって、感じること。それは僕の中で、いなくなった今でも彼は頭脳明晰で、人間性も高く、思いやりのある人物であり、完全無欠のように思える。僕と比べると非の打ち所がない。僕が比べる対象だからではなく、僕の生涯の全ての知人の中でという感じでだ。僕が今でも、融通の利かない愚直、ズルが嫌いで、調子良いのが嫌いなのは、ここにあるのかも知れない。ただ残念なのはそういった部分を見たときに、他人のその行為をはじき飛ばすだけの器量を備えていないのが僕だ。公明正大な見地も実行する力量があって初めて認識されるのだ。そう言う意味で僕は不完全。彼は両方を持ち得ていた。
でも彼は普段、それをあまり意識させない男だった。尊厳などは微塵もない性格だ。会えば昔話や互いに興味のある音楽などの話で何時間でも話は続いた。サイモンとガーファンクル、イーグルスが好きで、ベートーベンが好きで、ピアノとオーディオが好きで、鉄道を愛する人間だった。それは三十数年の彼の生涯変わることは無かった。そして僕らは少なくとも一年に一回はほぼ会って、会話の中で互いの存在を楽しんだように思う。結果、彼が天に召されるまで僕たちの友情は続いた。
ある意味、今でもこうして僕は彼を思い出すことが多いので、その友情は継続中、続いているのかも知れない。
小学生だったあの当時、僕にとって彼は、行いの一つ一つが参考になった身近な規範人物だった。頭脳の面で賢いのはもちろんだが、誠実で、論理も、思いやりもずば抜けた人間で、僕が安っぽく、俗っぽい者に見える感じだったのは確かだ。実はそれは彼を失った今も変わらない。僕は自分が生きている間に彼を超えることは出来ないだろうな、っと密かに思う。
それはたまにレノンに憧れるマッカートニーのようでもあり、漱石と芥川の師弟関係じみたようにもダブって映る。でも僕に対して、彼はただ同じ栃木の小学校に通った時期があるだけ、ほんのそれだけの接点で、ずっと友人をやってくれた恩人である。彼が優しいのか、僕が図々しいのかは定かではないが、生前彼が身内に言っていた『親戚と同等に大切な友達』が今でも胸に残る。僕も生涯で『親友』と呼んでいる人間は現在のところ二人だけ。そのうちの一人である。僕は『親友』というワードを乱発しないので、本当の気心の部分と思いやりの部分、そして相手に対しての尊敬や憧憬がないとその言葉を使わない。
またいつの日か、彼と会えるときが来るまで「カリメロ」は星に帰った「チョビン」との思い出を大切に胸にしまっているのだとさ。どんど晴れ!
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参考画像(YouTubeに遷移します)
『星の子チョビン』
https://www.youtube.com/watch?v=IzW3JQ2oAZw
『カリメロ』
https://www.youtube.com/watch?v=RZ0cgMDlGcY
※1974年のチョビンと1972年イタリア、1974年から日本での放映のカリメロ、もう半世紀前のアニメ番組になるんですね。光陰矢のごとし。
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