第54話 着想とイメージ-時代と音楽編-

 いくつかの作品で僕は音楽の影響からそのイメージを着想している。今回は趣向を変えて作品と内容の紹介をしてみたい。


『時神と暦人0⃣ プレシーズン』・第二話の「此花と二番館興業(セカンドラン)」

 これ、中身はキャンディーズを味付けに使っているが、着想は太田裕美さんの「二番館興業-セカンドラン-」という曲にインスパイアーされた作品である。

(言っておくが、別に僕はナベプロさんのマニアではない・笑)

 太田さんご自身の作曲作品で、映画館でいなくなった彼女を映画通の男性が、一人その幻影を思い出すというメランコリックな内容の歌である。

 今では使わない「セカンドラン」という言葉に魅力がある。通常はロードショーの対義語として使われたり、リバイバル上映の正式名称として使われたりもした映画通の用語である。

 中身を洋画風にしてしまうと自分の頭でスピルバーグの影響を受けすぎるので、あえてキャンディーズのアイテムを表面に出し、かのグループを調べ上げて練り込んだ。ちなみにこの当時僕は太田裕美さん、渡辺真知子さん、竹内まりやさんの音楽を聞いていた人で、キャンディーズは門外漢である(笑)。そして小学生の時代だ。

 後年に、この当時を思い出して、同じ頃に観た『未知との遭遇』の衝撃をイメージにして、二十代ごろに書いた作品である。


『ショートショート・ワークス 恋慕譚集 超短編集』「おとぎ話は表参道で-美女と言霊-」

 これも太田裕美さんの曲「赤いハイヒール」からの着想。夢を持って都会に出てきた若い女の子が都会の冷たさにあてられ、そのギャップに悩むという当時の世相を表すような背景である。現代風に合コンなどをメインイベントにしたり、シンデレラストーリーでアレンジしたりと、全体的には結構今風な造りにはなっている。

 でも「めでたしめでたし」の発想が好きな僕は、ミラクルで玉の輿を用意している。まあ、僕らしいと自分で思う展開。おとぎ話、昔話を現代風にした感じの物語。ちょっとご都合主義な部分が玉に瑕だな(笑)。



『時神と暦人3⃣ 御厨に流れる時間物語』「第4話 ♪料亭の庭に咲く花(コマクサと弦楽器)」

 これは「風をあつめて」というはっぴいえんどの曲に描かれている時代の東京が舞台。タイムスリップ先の東京は、都電が走り、ライブカフェが流行する世界。ジャズ喫茶やロック喫茶の全盛期に、主人公が依頼された楽器を探し回って翻弄する物語。依頼主の家の庭先に咲くコマクサの出所である山梨、その場所が鍵となる、というお話。


『桜の神明社と希望-恋と御縁の浪漫物語・横浜編-』「ハモニカが奏でる愛海の未来」

 最後は最近のモノからひとつ。このお話は太田さんの「ドール」という曲と渡辺真知子さんの「カモメが翔んだ日」という曲から情景の着想を得ている。まんまなのはマドロス設定と桟橋でハモニカを吹く男。横浜にピッタリかな、と思ったのである。舞台は勿論今風にアレンジしないといけないので、「鯨の背中」やライブレストランなどを設定に加えている。あくまで詩的な、文学的なイメージはこのシリーズでは崩したくないので、今回は港町がメインのお話でまとめている。


 こう、振り返ると僕のモチーフは1970年代が多いなあという実感。実際の青春時代は1980年代なのだが、本を読んだり、自由な時間があてがわれていた時代に知らない間に涵養された文化的な知識が熟成しているのかも?

 そう言えば作品には百恵ちゃんやゴダイゴも出したことあるねえ。上り調子の経済や文化が子どもだった僕にさえ、夢を見せてくれていたのかなあ? などと懐古感に浸ってみるのもまた一興である。ではまた。





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