第51話 物書き趣味
海風が入ってきた。この時期になると湘南海岸からの微かな潮の香りが我が家にも流れてくる。暑い、強い日差しのある日に涼風が入るので結構風流だ。
今回は暇つぶしに作品についての持論といこう。さすがに文学論とまでは言えない未熟な自己考察である。まあ下手の横好き、酔狂の戯言と思ってお読み頂きたい。
僕がずっと書いてきて思うこと、それは「プロット妄想」と「アイテムの享受」というのが起こったときに書き物が進む事が多かったという感想だ。「なんだそれ?」と言われそうだ。勿論僕の勝手なネーミングである。
「プロット妄想」は、そのまま物語の筋立てを作る楽しさだ。自分的にはひねり出さなくてもスラスラと書きたいモノが沸いてくる状態のことでもある。僕の場合は、『誰が何処に行って何をやった』というような物語の骨子、プロットがある程度出来上がってから書き出すのだけれど、いつも困るのは後付けとなる登場人物の性格と行動パターンを上手くプロットと絡ませる時である。
今回八割以上書き直した『時神と暦人』の第五シーズンの第三話「♫ 飯倉山の隧道はもみじ、山桜、梨の木を結ぶ-桜が秘めた物語-」。
櫻子の性格をガラリと変えたのは、以前のモノと今回のモノの両方読んで頂いた方には一目瞭然だ。物語の展開はほぼ一緒なのに、登場人物の性格を変えるとその人物の描写、他の人物とのやり取り、会話文のやりとり、口調なども全部入れ替えないといけない。今回はそれがメインの登場人物、櫻子なので、彼女のシーンや関係性のある文は全部入れ替えであった。自ずと八割以上書き直しになってしまうのだ。
「アイテムの享受」は料理で言えば、出汁取りと味付けの部分だ。プロットは素材の味である。
例えば、僕の作品ではその役目を道具が担うことが多い。ピアノだったり、ギターだったり、クラビコードだったり、チェレスタに、六分儀に、内行花文鏡、はたまた水時計などだ。
だから楽器の本、考古学や歴史の本などを暇つぶしに読みあさっていることは、意外にも物語の出汁をを取るような、いわば無意識な地固めになっていると最近自覚した。それが根底において作品の色に直結しているみたいだ。
巷に出回る多くの作品を読むと、アイテムとしての書籍や、作品そのものにスポットを当てるモノも多い。二次作品などもこれに大きな意味では該当する。自分の好みの作品に自分も参加したいという創作意欲だ。
これは周知されていることで、読者の好奇心と繋がる新聞の見出しの役目をしているらしく、マニアックな心をくすぐられるほど、読んでいて面白いそうだ。若い頃お邪魔した作家さんの記念講演でこれっぽいことを耳にした。
トラベルミステリーの人は時刻表だし、名作ミステリーなら紛失された原稿、同じく消えた大作曲家の楽譜、絵画の赤外線読み取りの作業で発見される最初にカンバスに描かれていたデッサンなどをネタにした作品も結構目にしてきた。その趣味に精通する人にとっては手を出してみようと衝動に駆られる部分らしい。小説を通して読者と趣味の話題で繋がっているようなモノということだ。
まあ趣味ではないが、若者の場合はお色気シーンも強力な興味の対象になるので、それを武器にしている方もいるだろう。こういうのは若くて格好良い美男美女の書き手が書くから成り立つので、僕のような輩は手を出してはいけない。ある意味、官能表現への冒涜になる(笑)。社会的にも大迷惑である(爆)。
長くアマチュア畑で自由な書き物をさせて頂けたことで、自分の世界観を見つけ出せた部分はとても有意義だった。気付いたのが仙人になってからなのが残念だけど(笑)。
どうしても、若い頃は世界観よりも奇抜さや驚かせることの方が重要と思ってしまう。評論家好みの、レアな物語や喝采のおきる物語を想像して書くことも多かった。その分、自分が書いたそういった作品は地に足がついておらず、スカを喰うことも多い。お蔵入りさせた作品のほとんどはそう言ったムリして自分の分からない世界や自分の手に負えない世界を、自分の世界観とムリに結合させようとして失敗している。ある日、裏付けも自信も無い人間の作品、付け焼き刃のそんなものを読んでも楽しくないと自分でも気付いたのだ。
その理屈の裏付けは簡単で、考古学者が書いたPCのマニュアルよりも、PC屋さんが書いたそれの方が分かりやすいに決まっている。その道において、多くの場所で場数を踏んでいるので、説明がこなれていて、その分野において人に伝えるノウハウを既に持っているからだ。
恋愛をしたことのない人が書いたラブロマンスより、恋愛をしてきた人が書くモノの方が面白いに決まっている。ときめきや待つ寂しさを知っているからだ。
ただ食べるだけの食事をしている人が書くより、食べ歩きなどを趣味にしている人が書くグルメ小説のほうが説得力があるのだ。経験値が違う。
だから僕の書くモノは歴史と芸術が織り込まれた作品が自分でも書いていて楽しいし、愚作とは言え、どうにか人に見せることが出来そうなモノであり、自分の世界観と安定した知識によって成り立つと勝手に自負している(笑)。
所詮素人の戯れ言、軽く笑って読み捨ておき願いたい。ではまた。
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