第31話 「仙人(よすてびと)」は普遍的なのか?

 僕のアイスクリームのお気に入りはチョコミントとラムレーズン、それにバニラである。一カップでいい、沢山はいらない。冷えたものを多量に取ると頭痛になる。少量で美味しくいただくのがベターだ。

 なんでアイスクリームの話か、というと三十一話目だからである。「ダジャレかよ」と冷ややかに処理されそうだが、こんなものでいいのだ、僕のエッセイなどは。


 では本題。最近は三回ぐらい確認しないと無意識でいろいろなことが通り過ぎる。うつろなときは記憶に残らない。

 若い頃から自分に念を押して、出掛けの持ち物チェックなども用心する人だった。それは自分が忘れん坊、駄目な人間なので、とにかく己に念を押す習慣がついた。必要に駆られたゆえの性質になったというわけだ。


 近年、それでも忘れる。折角用意しておきながら、手にして一時的に置いたときにそのまま忘れるパターンが増えた。そろそろ本当の意味でのポンコツかな? などと自分でも思い始めて久しい。やったこと、言ったことは瞬時に記憶の彼方に飛んでいき、時には以前の記憶がなにかと、まぜこぜになっていることもある。

「あれ? やんなっちゃうねえ」などと言って。己を慰み冗談めかせば良いのだろうが、性格的には笑い飛ばせないため、真摯に受けとめてしまうことも多い。すると多くを語れなくなって、口数も少なくなる。完全に自信のあることしか口にできなくなってくる。それさえも今や危うい(爆)。


 その昔、祖父が国鉄を「省線」と言って、楽しく一緒に会話して笑っていた僕。その僕が、数年前、道ばたで東京メトロの駅を尋ねられた際に、当たり前のように「営団線」と言っていた。当然、通じなかった(笑)。既に潜在意識の中で地下鉄の概念として、「都営線」と「営団線」がワンセットで覚えられているのだろう。


 この本編のような書き物のときは時間があるので、言い間違い、書き間違いは少ないのだが、リアルタイムの会話で言葉に発するときに、それが出る。慣用的に言葉がなじんでいる結果だ。

 さすがに言い間違えて別物の「都営線」とは言っていないので、対象の路線としては、新旧の名称の違いで物理的には間違ってはいないのだが、かつての名称、古い言葉である。まだ通じる場合もあるが、人による。そのうちだんだんと通じなくなり、通じない人が多数を占めれば、やがてこれが間違いとなる。


 同じ様な例としては、僕より年配の方は東海道線を「湘南電車」と呼ぶ。僕らの世代まではギリギリ通じる。テレビ東京さんを「12チャンネル」と呼んだりする(すでに周波数域も12チャンネルでないのだが)。「国電」も「白木屋デパート」も「東横デパート」も同じような、ランドマークや交通手段の目印として、稀に耳にする。今でもなんとか首都圏、世の中の半分程度の人間には通じるだろう。

 


 十五歳くらいまでは「こども時代」、三十歳くらいまでの記憶は青年期なので「若い時」。問題はその後。全部感覚的には「大人=最近」で処理している。だからついこの間という感覚なのだ。なので旧名称で言っても通じると思いこんでいる。調べ直してみたら二〇〇四年から東京メトロなのだ。つまり二十年近くたつ。一度染み付いたものはなかなか抜けない。ましてや僕の中では四十年弱、あの地下鉄会社は「営団線」だった。二十歳頃に発足したJRより約二倍も長く使った名称だ。


 なので、他の方はどうなのかは知らないが、僕の場合、名称はかなりのテコ入れをしないと上書きされないようだ。僕が「庶民的好事家しょみんてきこうずか」、「仙人生活」、「世捨て人」と己を戒めるつもりで自虐的に自称しているのは、こういった現代社会の一員としての認識や経験が劣り始めたからだ。


 そういう視点で鑑みれば、得意分野以外の実生活では、思い出話と調べ物。これが僕の現代社会にマッチした生き方である。まあ、余計なことはせずに慎ましく暮らしていれば、特に困ることもない。ただある意味で社会生活の情報から隔離されているので、新しい店舗名や路線名、地名、人気スポット、そして流行りの商品、芸能人、番組などを無理に追うことを諦めていれば、結構楽しい世の中である。


 すなわちそんな自身の今の生き方を指して、僕は自分を「世捨て人」、「好事家」と換言しているのである(笑)。それの延長線で今日も僕は「仙人」などと自分を揶揄やゆする言葉として使うのである。


 それが普遍的か、と言えば、……? (爆)


 


 

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