第21話 十代頃の僕のお気に入りの映画と小説の話


 エッセイの新年第一回は映画の話。僕はおおよそ八〇年代あたりによく映画を観た。たぶん今の十倍以上は観ていたと思う。スピルバーグとルーカス。そして角川映画である。今はもう殆ど観ないのだが、当時の好きだった作品を挙げて、それらの感想を述べてみたい。


 まず『ねらわれた学園』だ。おそらくこの映画を見なかったら、僕こんなにSF小説にハマっていなかったと思う。これと『晴れときどき殺人』の二つが十代に読書量を増やしたきっかけとなる映画だ。それ以前、子供時代はお決まりの乱歩とドイルとクリスティ、そして民話、昔話と偉人伝である。


 薬師丸さんの主演で、眉村卓さんの原作である。だが主人公の名前が違う。少々エピソードも変更している。監督は大林宣彦さん。独特の雰囲気をスクリーンに出す尾道三部作で有名な監督だ。大まかなプロット、筋立ては一緒なのだが、学園の平和を守るというエスパー物である。操られたみちると身近な世界を正すためのゆかのお話である。

 これで味をしめた僕は『なぞの転校生』、『白い不等式』などなど、当時の眉村SF作品をかなり読んでいる。黄緑の背表紙が多かったかな。眉村さんのやつは。自宅の本棚に文庫本が結構並んで満足感を得ていた記憶がある。文庫本はこの当時、安価で子供でも手の届きやすい手頃な価格だった。


 次に『獄門島』。屏風の詩歌の通りに事件が起きていくという横溝怪奇ミステリーの決定版である。金田一耕助の叢書と言えば、『八つ墓村』がドリフのお陰で有名だが、内容的には、『獄門島』と、『病院坂の首くくりの家』、『犬神家の一族』、『悪霊島』あたりが展開の素晴らしい物語だと僕は思っている。黒い背表紙がまた独特の存在感を本屋さんの書棚で放っていた記憶がある。

 金田一が犯人の足跡を求めながら、情報を収集していくのが面白い。人間模様の過去の情報の中に手がかりを見つけるという手法だ。だから絶えず物語の中で、一時いっときいなくなる。「金田一さんはどこにいった?」というセリフが必ずある。その時は情報収集に出かけているときだ。戦後の埃っぽい、ドサクサのきな臭さも相まって、観ている僕は、古い慣習が残っていたための自己犠牲、欲望、悲しいさがさえなければという郷愁の念にたどり着く人間模様を考えさせられた。無念のフィナーレで終わる感じの物寂しさが多かったし、そこが落とし所だったのだろう。


 一番多く観たのは赤川次郎さんの作品の映画化、映像化である。『探偵物語』、『晴れときどき殺人』、『青春共和国』、『結婚案内ミステリー』、『ふたり』など映画だけじゃなく、小説もずいぶんと読んだ記憶がある。もちろん主演の薬師丸さんや渡辺さん、石田さんの演技も素敵だったし、脇を固める俳優の方々も素敵だった。

あとは安心して見ていられる物語展開が好きだった。たまたま僕が観たもの、読んだものだけかもしれないが、ハッピーエンドがとても多い作家さんである。それも次の一本、次の一冊につながったと思う。


 当時の角川映画と繋がれたことで、良い作家さんの本と出会え、読書量が増えたという楽しみとつながった。良い時代を過ごせたことが、僕の数少ない、前向きに思える経験値の一つでもある(笑)。今回は角川映画だったが、スピルバーグの作品も僕に未知の楽しさをくれたものであった。機会があれば取り上げてみたい。


では年頭にあたり、皆さんにとって、ご多幸な歳となるよう願っております。


      謹賀新年 本年も宜しくお願いします

 

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