第19話 日本神話のつぶやき(前編)

 さっき今年やり残したことを考えていた時、僕の根幹にある「日本神話」について、この『湘南のひまつぶし』に書いていなかったことが判明。これはいけない。僕としたことが。と、いうわけで、急遽、遂行することにした。ちょうど前編と後編でお話を分ければ、二〇話である。とてもキリが良い。


「日本神話」って言い方、最近は徐々に浸透しているけど、知らない方のために言うと、主に『古事記』や『日本書紀』など、あと一部『風土記』などにも載っている、要は大昔の書物に載っている日本の神々のお話をまとめてそう呼んでいる。


 多くの国にも神話はあるが、一神教、すなわちキリスト教などの経典があり、唯一の神様がいらっしゃる宗教に変わってしまった国では、過去の歴史として伝承されている。例えばギリシア・ローマ神話やケルト神話など。でも日本は万世一系の天皇の系譜が存在しているので、神道という呼び名でいまも信仰される対象となっている。そのため歴史だけでなく、興味のある無しはさておき、神社などの信仰対象としての意味もそのまま現代でも続いている神話なのである。だから知っていると、その神社の祭神のキャラクターのままにご利益と直結していることも多いのでわかりやすい。


 例えば、スサノオノミコトはクシイナダヒメを守って求婚して、結ばれている。その時には日本最古のラブソングと言われている和歌を歌っている。出雲大社はそれを祀るので、縁結びである、などだ。『古事記』と『日本書紀』の内容は、掲載されている書物は違えども、おおよその登場人物とお話は似たものがあるため、日本神話においては同じお話の類とされている。


「天磐座」とか「天の岩戸」などと呼ばれるアマテラスさまのお話。「ヤマタノオロチ」で語られるスサノオノミコトとクシイナダヒメの恋物語。「天孫降臨てんそんこうりん」といわれる葦原中津国あしはらのなかつのくに(日本のこと・神々の住む場所、高天原たかまのはらに対しては、人間の国、大地、地上のこと)をお治めになるニニギノミコトが天から地上に降りられるお話などが良い例である。


『古事記』には国学者、本居宣長もとおりのりながの解釈を添えることで今も納得できる見解がある。僕は門外漢なので、内容は詳しく知らないが、二次資料で読んだ覚えのある大和言葉による解釈方法を見つけた本居宣長の考え方が好きである。本居宣長は『古事記』を大和言葉の「おと」を使って『ふることぶみ』と読んでいる。『古事記』の編纂当時文字は当て字の音しかなかった。我が国の諸先達の知識人の方々が当てた字が、後に時を経て音読みに変わったとも考えられている。


 現在も本居宣長の暮らした、はるか江戸時代の研究が未だ通説として通るのかは不明であるし知らない。だが『広辞苑』によれば、本居宣長の著した『古事記伝』は現在の研究者も研究入門書として使っていると書いているので、一定の支持がされたセオリーを持った資料なのかもしれない。『古事記』自体は日本史でも習ったが、天皇の命によって、暗唱者の稗田阿礼ひえだのあれと担当執筆者の太安万侶おおのやすまろが編纂した伝承記録である。


 一方の『日本書紀』は、近隣諸外国(主に今の中国の場所にあった国々)が持っていたのを見倣って、我が国も自国の歴史を書物として各国に紹介する際に、面子を立てる目的で書かれたとされている。だから『古事記』の大和言葉に対して、『日本書紀』は最初から漢文で書かれたものだという。すなわち、当時の国際語だった漢文で我が国は偉大な歴史と文化に満ちた国ということを外にアピールする目的で編纂されたという視点でみる現代の意見が多いらしい。歴史書として体裁を整えているため、文学的な『古事記』に対して、社会歴史的な『日本書紀』という見方もされている。一般大衆の僕はこの見解を今現在も持っている。

 しかし「記紀きき神話」と二冊をくくるような言葉が存在することからも、互いに照らし合わせることで歴史や文学の解明につながると考えている方が多い。これも重要なノウハウだという。片方だけではなく、必ず裏を取れる解釈をするようだ。


 さてこんな肩のこりそうな前説はもう終わりにして、内容に進みたい。既述のように、僕はあまり『日本書紀』を知らない。なぜなら家にないからだ。『古事記』は二種類があり、お気に入りは講談社学術文庫版の三冊セットだ。


 振り返るともう一〇〇〇文字を軽く超えていた。どうやら「記紀神話」の概略だけでこの文字数に達してしまう。次回の後編にて、内容と祀られる神社さんを照らし合わせてみるお話に移りたい。ではまた。

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