大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~
第43話 デンガー国では~困惑する軍師~
第43話 デンガー国では~困惑する軍師~
「何とも不思議な事件だ……」
パーティーの警備統括責任者を任せる予定のローメ・キャロンが姿を消した。
五日前、王宮でいつもとかわらぬように会話をし私と別れた後、宿舎にも戻っていないらしい。直後に城門の門番がローメを見たというのが今のところ最後の目撃情報だ。
「諸外国からお客様がくる国をあげてのパーティーの警備責任者が不在とな。万が一にも何かが起きたら誰が対応できるのだ?」
自問自答を繰り返すが、やはり責任感があり下々からの信頼も厚く、いざという時は瞬時に相手を制するできる武術に長けているローメ以外に適任者はいない。
「ローメ様が戻っていらっしゃらないとなると、我々がカバーするしかありません。しかし、それでもローメ様一人分には足りないかと……」
ローメの部下たちが不安そうに言う。その気持ちも分かるが、盛大なパーティーまであと二日。時間がない。
「まったく手がかりがない状況だ。ローメがいないことを想定した警備を体制を策定しつつ、彼を探し出すことにも力を入れる。もしや事件に巻き込まれているかもしれぬし」
「ローメ様が事件に?!」
「やる気もあり、忠誠心も強い男が忽然と姿を消した。自分からどこかに逃げる理由はない。事件性がないと断言できないだろう」
代々軍人の家というだけの兵士や軍人とは違い、ローメは商人の子どもだが生まれながらにしての軍人だ。彼が抜けた穴は誰も務まらないのは明白だ。
「お、恐れながらローメ様がご両親の後を追ったとかはありませぬか?」
一人の兵士が震えながら進言してきた。
「両親の後を追う……。たしか、ローメの実家は荷物運搬業だったな。デンガー国から離れたと聞いたが、どこに向かっていたかまでは不明という話だったな」
市場から人が消え、商人たちは仕事にならない。ローメの実家であるキャロン運送業も新天地に仕事を求めて移動したようだ。
「キャロン運送業は近隣諸国に顔が利きますので、どこか知り合いの国に移り住むと思われます。ただ、息子であるローメ様はどの国に行くのか聞かされている思いますが……」
なるほど。さすがに畑違いの職に就いたとはいえ親子には変わらない。引っ越すのであれば息子に連絡するのは当然のこと。しかし、職務放棄して親を追いかけるそぶりも見せていなかったが……。
「近隣となるとスキャー国、バルベット国。そして……」
いや、まさか。フォスナン国なのか?
「サンターレ様、いかがなされましたか?」
「軍師閣下、お顔の色が優れぬようですが?」
周囲の兵士が異変を察知し声をかけてくる。あぁ、なんてことだ。ローメの両親はフォスナン国へ旅立ってしまったのだろうか。そして、我が国がフォスナン国を攻める情報を伝えに行ったのだろうか……。
「き、気にするな! 私は大丈夫だ。街へ行き、ローメの行方とキャロン運送業夫妻がどの国へ向かったのか情報を収集せよ!」
「か、かしこまりました!」
私の迫力に驚いた者どもは蜘蛛の子散らすように去って行った。
「ローメを信じたい。しかし、身内であっても国家機密を口にしたらそれは反逆罪にもなりかねない……」
口が堅い男なのは良く知っている。公私を分け、休日でも実家に立ち寄ることはほとんどないと聞く。軍に入隊した時点で商人の子を捨てて軍人として生きていくことを心に決めていたのだろう。
「サ、サンターレ様でありますでしょうか!?」
いつの間にか見覚えのない埃まみれの男が私の近くに来ていた。ここは王宮。厳しい警備をかいくぐってきたのか?
「……何奴?」
「わ、私は城の門番を務めておる者です。先ほどローメ様をお探しているという話を耳にし、交代の時間となりましたのでこうして探索に参加したいと馳せ参じた次第でございます」
「なるほど。もしやお前が最後の目撃者か?」
「さようでございます」
最後の目撃者となると、何かローメの異変や足を進めた方角を見ているはずだ。
「あの日、何かローメに変わったところはなかったか?」
「門番として恥ずかしながら空腹で足元をふらついていた私を見て、袋に入っていたパンを私に渡して下さいました。とてもお優しい方で……」
「そうか。ローメはそういう男だからな。あの日、馬に乗っていたのか?」
「いいえ。歩きでお帰りになられていました」
『馬で城にきていない』という情報は本当だったようだ。問題は、徒歩でどこに向かったかだ。城から兵舎まで歩いて10分もしないうちに着く。
兵舎までは一本道をしばらく歩き、糸杉の木がある角を右に曲がるだけのこと。その後ろ姿を見ているはずだ。
「それが不思議なことに、急に砂ぼこりが舞い上がり辺り一面が真っ暗になったかと思ったら突然太陽の光が差し込んできたときにはローメ様の姿は見えませんでした」
「時間にしてどのくらいだ?」
「それがいくら思い出しても十秒くらいの出来事なのです。決してふざけているわけではございませんが、本当に砂ぼこりに連れていかれたかのようで……」
門番の言い分を本来ならば『ふざけている』で一蹴したいところだが、ローメのことを思い私のもとに来たのは間違いないようだ。門番が嘘をついているようには見えない。
「……ところで、キャロン運送業について何か知っているか? ローメの実家なのだが」
「ローメ様のご実家なのでしたか! 同じ苗字ですが全く存じ上げませんでした。ローメ様は遠方の軍人を輩出する家系の御方かと思っておりました」
下々の者にはローメの出自が伝わっていない。
つまり、彼は実家に足を運ぶことも商人の子であることをベラベラと自分から喋っていなかったということか。
「ただ、キャロン運送業はフォスナン国との取引が多いのでそちらに越したという話を耳にしております」
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