第42話 デンガー国では~パーティ二日前のダナ~

「ルンルン♪ ルルルン♪」

「お嬢様、ご機嫌でいらっしゃること」

「キャロラインったら、そんなの当たり前でしょう。王宮でのパーティーまであと二日に迫っているのよ。ほら、ドレスも私好みに仕上がったし!」


 私は嬉しさの余りクローゼットからドレスを取り出してきてキャロラインに見せた。


 針子たちに何度もダメ出しをして出来上がった完璧なるドレス。パーティーで注目を集め、主役になるのはこの私に決まりね。 


「きっと素敵な殿方が集まるのでしょうね」


 襟元が少し大胆に開いているゴージャスなドレスをみたキャロラインが目を丸くしながら言っている。これだけ気合が入っているのは、彼女の言うように素敵な殿方が集結するから。


「お父様から聞いたのだけど、王様があちこちから王侯貴族に招待状を出したんですって! それに、パーティーを盛り上げる一座も駆けつけるみたい。盛大に行われるパーティー、待ちきれないわ!」


 デンガー国の威信を内外に示すためのパーティーとお父様は言っていたわ。


 でも、威信をアピールして何につながるのかしら? 街の様子を見られたら逆に国が衰退していると勘違いされそうだけれど。まっ、それは私には関係のないこと。


「それは楽しみですね。当日は何時に館を出られるのでしょうか?」


 あら、キャロラインに言われて初めて気がついたけど、パーティーって開始時間からいた方がいいのかしら……。


「そ、そうね……。大物は最後の方に登場するのが常でしょう。だから、夜の7時くらいに宮殿に到着するように出発すれば良いと思うけど。ただ、お父様の軍師として参加する初めてのパーティーだから色々とお話をしないといけないと思うの」

「サンターレ様は軍師であられますし、お早めに出て客人とお話をしなければならないでしょうね。ダナ様は単独で後から参加ということで?」

「なんだか難しいわよね。早く行く方がいいのか、遅く行く方がいいのか」


 キャロラインには口が裂けても言えないけれど、パーティーでどんなことをするのかさっぱり分からない。つい最近まで近衛隊長の娘だったから、王宮主催のパーティーに出るなんて夢のまた夢だったのだから仕方がないけど。


「遅れて登場すれば他の参加者の注目を集めるかと。開始直後ですとまだ来られていない方もいらっしゃるはずです。多くの方が会場にいる中でお嬢様がそのドレスで登場すれば、必ず皆様は目を向けると思いますが……」


 なるほど。そういう解釈もできるわね。最初からパーティーにいて暇そうにしているより、最後に登場して話題をかっさらうなんて素敵じゃないの。


「あら、アドバイスありがとう。それで、当日はお付きの者を一人連れて行っていいとお父様に言われているの。急なんだけど、キャロラインにその役をお願いしたいの」

「私ですか?! そんな大役は恐れ多くて……」

「キャロラインが家の者の中で一番親身に私に仕えていると思っているの。大きなパーティーで緊張しちゃうから、信頼できる人が近くにいるだけで心強いのよ。だから、お願い!」


 私の申し出に嬉々として飛びついてこないところが身分をわきまえていていいのよね。今よりほんの少し清潔感のある服を着させて、地味に控えめにしてもらいましょう。


 どうも本人はほとんど鏡を見たことがないから気がついていないみたいだけど、キャロラインは容姿が優れているし、着飾ると目立ってしまう。女給からのし上がろうと思っている様子もないし、安全な女給よね。


「お嬢様がそこまで仰るのであれば、当日お付きを致します。ただ、私は賑やかな場が少々苦手ですので会場の端の方にいてもよろしいでしょうか?」

「まぁ、ありがとう! どこにいても構わないわ。私のことが目に入る範囲内にいれば何も問題ないから」

「王宮に足を踏み入れるなど本当に……」


 キャロラインは今から緊張している。気持ちは分からないでもないけど、私はハンサムで家柄の良いお金持ちのお婿さん探しをすることに集中している。そうだ、彼女にも少し手伝ってもらいましょう。


「ところで、パーティーの参加者の最終リストが届いていたじゃない?」

「はい」

「そのリストの中で、王侯貴族で独身男性をチェックして欲しいの」

「……承知いたしました」

「他、噂で何か情報があればそのことも教えて頂戴。すごくイケメンで家柄もいいけれど実はお金に困っているようだ、とか」

「噂話でしたら他の女給たちが毎日のようにしておりますので、それを参考にしてメモ書きいたします」

「あ、でもこのことは内密に。こんな探りを入れていると変に誤解されるじゃない?『ダナお嬢様は玉の輿を狙っている』なんて言われたら癪だし……」


 本当は玉の輿以外は眼中にないけれど、噂好きな女給たちのターゲットにされるのはゴメンよ。うるさいアイツらを黙らせるには、イケメンでお金持ちで貴族という三拍子そろった男性と婚礼を挙げるしかないわ。


「そうですね。あることないこと噂されたら大変です。極秘に調査しておきますのでご心配には及びません」

「本当にキャロラインは仕事ができるわね。私よりも二つばかり年下なのに」


 私は花の18歳。キャロラインは16歳だが年齢以上に落ち着いている。誰が見ても、私よりも5歳は年上に見えるし。


「いいえ。全身全霊でお嬢様にお仕えしておりますので年齢は関係ありません」

「でも、そうしたら前の博士のところはほんの少しだけ働いていたことになるの?」

「いいえ。10歳頃からラローム様のところで通いの女給をしておりましたので、年齢の割には職務経験は重ねております」


 私は本当にラッキーだ。軍師の娘という地位を得てキャロラインのように健気に仕える女給がいるのだから。


 それにキャロラインの方も喜んでいるはず。前は博士の館で働いていたというけれど、きっと気難しい爺さんだったに違いないわ。それに比べれば、お父様も私もとっても優しいご主人様よ。


「パーティーに同行することは他の人には内緒にしていてね。きっと焼きもち妬いてあなたに意地悪すると思うから」

「お嬢様、承知いたしました。それでは私はこれにて失礼いたします。また何かありましたら及び下さいませ」


 キャロラインは頭を下げて部屋を出て行った。


「はぁ~、それにしてもパーティーが待ち遠しいわ! 見たことも食べたこともないようなお料理がテーブルに並んでいるし、わんさかお婿さん候補がやって来るし。もっと詳しいお話をお父様から聞きたいわ~」

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