第41話 どうしましょう? パーティーの衣装

「パーティーで着る衣装ですけど、得意なんです裁縫。皆さんのイメージに合うような服を作りたいんですけど、いいですか~?」


 デンガー国のパーティー参加に乗り気のムーンガラージャが、衣装担当を買って出た。


「千年前に流行っていた服と今の流行り、全然違うと思いますけど~?」


 サナが地味に嫌味を言ってくる。ムーンガラージャが封印から解かれたばかりの頃は様子見で会話をしていたが、すっかり慣れているようだ。


「あら、イーナ軍師の服とサナさんの服を見たらどのような服が今の女性に人気あるのか分かります。男性の注目を集めたいならそれなりに露出が必要ですけど、サナさんは今のままで十分ですね~。ビヨルンさんはどんな服を着ても女性の注目を集めると思うので何でもいいですか?」


 馬車に揺られながら旅をするのは初めてのムーンガラージャは上機嫌で話をしている。

 

「それ、どういう意味ですか~?!」


 突っかかってくるサナ。もはやこの旅でお馴染みの光景だ。グリンボも何も言わなくなってきている。というか、彼はスヤスヤと眠ってしまった。


「隠遁生活を送っていたグリンボにとって人と会話をするのは久しぶりだ。疲れてしまったのだろう。しばらく休息の時間を与えないといけない」

「ベーカーさんの執事教育が終わってから、ずっとあの場所で住んでいたのでしょうか?」

「本当は屋敷内の森にでも住んで欲しいのだが、各地に住む仲間たちの連絡係や情報収集も担っているからな」


 ということは、スパイのようなことをしているということか。河原の雑木林の中で生活していれば怪しまれずに好きなように行動が出来る。


 グリンボは仲間を束ねる長のような立場のようだから、デンガー国との戦いになったらゴブリン達が動き出し助けてくれるし、遅かれ早かれ彼らとも連携する機会がきっとある。


 その前に顔合わせをして意思疎通を取りたいけれど、時間的に難しいのだろうか?


「他のゴブリンと会ったりすることなく、デンガー国へと向かう、と?」

「グリンボがいるから大丈夫。あと、ゴブリン専用の私の遣いもいる」

「ゴブリン専用の遣い?」

「鳩などだな。グリンボも独自ルートで伝達しているからもう準備をしているだろう」


 信頼しているから顔を出して話し合う必要もないということなのだろう。しかし、ダナのお父さんが指揮をするならまだしも、プリモス13世を操る陰のドラゴンが出現したら作戦は上手くいくのか心配だ。


「ダナのお父さんが軍師となったのですが、おそらくゴブリン軍団が叩きのめすと思います。ただ、万が一にでも陰のドラゴンの封印が解かれたら……」

「ゴブリン達の間では古のドラゴンの戦いの話が代々受け継がれている。代々と言っても、グリンボのおじいさんが若い頃の話のようだから『ほんの少し前の話』という感覚だ」


 ほんの少し前の話なら信憑性は高い。それなら、ムーンガラージャが話していた時に口をほとんど出さず全く知らない風にいたのはなぜなのだろう? 様子見をしていたのだろうか……。


「飄々としているが、グリンボは賢い。ムーンガラージャが本当に陽のドラゴンなのか見定めていたのだろう。聖剣がピタリと体につき、マーニャのことなどから本物認定したのだろう。神経をすり減らして品定めをしていたから疲れてしまい、ぐっすり眠っているというわけだ」


 私の思考を読み取るようにビヨルンがグリンボの思惑を説明した。最初から陽のドラゴンだと信じていた自分はまだまだ軍師として未熟だ。疑うのは嫌だが、重要なことは慎重になって確かめることの重要性を学んだ気がする。


「みなさ~ん、余り布で縫ってみたんですけど。どうですか?」


 話題の人物、ムーンガラージャがいつの間にかミニ衣装を作っていた。裁縫セットはトランクの中に入っているけど、いつ取り出したのだろう。


「ま、いいんじゃないですか。私のムチムチした脚を見せびらかしてデンガー国の男性陣を夢中にさせている間にご主人様がプリモス13世の謎に迫る、なんてできますしー」


 サナが面白くなさそうに言っている。彼女の反応からすると、かなりの出来栄えなのが分かった。


 近づいてみてみると、まるで職人が上客の貴婦人に見本を見せるような仕上がりだった。


「レースたっぷりだと踊りにくいですよね~。先方の男性陣の視線を集めるには丈が少々短いスカートと胸が少々開いているデザインがいいかなっと。サラさんはそれでいいとして、ビヨルンさんどうしましょう。イーナ軍師のお洋服は大胆な方が良いですか?」


 この丈の短い露出度の多い服を着るのは勇気が必要だ。けれどサナは内心喜んでいるのは分かる。何度も見本の服を撫でているのだから。


「ダメダメ、軍師が派手な服着ちゃ! すんご~く地味なのがいいです。安全第一。目立たないのが一番ですよね、ご主人様?」


 サナが猫なで声でビヨルンに声をかけてくる。私もこんな服は趣味ではない。それに注目を集めると隠密行動も難しくなる。


「地味すぎるのは逆に浮いてしまう。イーナにとっては故郷ではあるが生存しているのが判明すれば大変なことになる。だから、男装した方が安全だろう。男だと思い込ませていれば、イーナだと分かりにくい」

「キャッ! さすがご主人様。冴えていますこと!」


 どこにでもいそうな娘だが、王宮でのパーティーとなると大出世したダナのお父さんやダナも出席しているはずだ。


 二人から怪しまれては探りを入れるどころではない。大勢の兵士に追いかけられているのが目に見えている。でも、男装すれば疑いの目を向けられることもない。


「私もビヨルンの言う通り、男装が一番安全だと思います。死んだはずのイーナ・モルセンが生きていたなんて分かれば皆さんを巻き込むことになりますし……」


 その言葉を聞きながらビヨルンは黙って頷くだけだが、サナは黙っていられない。


「我が国の軍師がデンガー国を追放された娘なんて知られたら、全員捕まってしまうから! 絶対にバレないようにしてよね」


 予想通り鼻息荒くサナが問い詰めてくる。しかし今はムーンガラージャがいる。彼女がきっと丸く収めてくれるはずだ。


「となるとですよ、14,5歳くらいの少年の姿がピッタリですね。すんご~く美少年にしましょうか?」

「美少年でも困る。女性陣が色めきだつだろう」

「え~、残念です。仕方外のでそこら辺にいそうな少年という雰囲気にしますね」

「そうそう。軍師は本来表に出てはいけないの。裏で静かに働くのが一番なの」

「そうだな、サナの言う通りだ。本来、軍師が目立ってはいけない。果たしてデンガー国の軍師はどうなのだろうか見ものだな……」

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