第31話 デンガー国では~ダナが狙う玉の輿婚~

「ちょっと、このフリルをつけたの誰よ! こんなお子様みたいなドレスなんていらないから!」


 十日後には宮廷で大きなパーティーが行われる。街は少し荒廃してきたけど、お城では相変わらず豪華なパーティーが繰り広げられている。


 私にとってお婿さん候補を選ぶ大切なパーティー。それなのに針子や女給たちは我が国の先行きを不安しているみたい。


 相変わらずあの人たちって不安症ね。お城が安泰ならまだ大丈夫。今は嵐が過ぎ去るのを待つ時期と同じ。どうせ一カ月もすればこれまで通りの平穏無事なデンガー国に戻るのよ。


「しかし、あまりにも胸を露わにしたデザインですと……」


 針子の一人がおずおずと申し出てきた。古めかしいデザインを推薦してきた頭の古い針子。


「お見合いパーティーも兼ねているのよ? そのくらいアピールしないと男性の注目を集めないでしょう!」

「……ダナお嬢ざま、承知いたしました」


 反論するなんて百年早いわ! お父様が軍師だから枯渇してきた食料もなんとか確保できているっていうのに。


 そういえば、先日街で見かけたあの素敵な軍人の方もパーティーに参加するのかしら? 家柄も良ければ彼が大本命。もっとしつこく名前を聞くべきだった。


 他には伯爵家、侯爵家の子息が出席予定だし、長男の嫁だと色々大変そうだから次男がベストかしら。目ぼしい人に印をつけたいから出席者リストを持ってきてもらおう!


「誰か、パーティーの出席者リストを持ってきてちょうだい」

「はい、ただいま!」


 部屋に一番若い女給が入ってきた。例の空腹を満たすポーションを分けてくれた女給。名前はたしかキャロライン。結局、あの日は薬術師には会えずじまいだったけど。


「お嬢様、こちらになります」

「ありがとう。パーティーに参加するのは国内の貴族だけかしら?」

「一応そうなっておりますが、近隣国の王侯貴族も出席予定と記されております」

「あら、王侯貴族ね……」


 貴族よりも王族。そんなことは百も承知。玉の輿を狙えるのであればやはり大物に限るわ。


「どんな方が来るのかしらね?」

「デンガー国では廃止されている公爵家など、隣国の貴族の方も参加すると噂されておりますが」

「……公爵ですって!」


 デンガー国は階級制度が厳しいが、その昔は公爵家が代々王の代わりを務めていたと学んだことがある。公爵イコール国王ということになり、公爵家は廃され現在に至っている。


 つまり、ここでは国王の次に偉いという認識がズバリ公爵家ってわけ。となると、パーティーに参加する際に付いてきてもらう従者とか女給選びも重要ね。


「そういえば、キャロラインは以前どこで勤めていたの?」 

「私は、ラローム様のところにおりました」

「ラローム? 聞いたことないわね」

「街はずれに住む天文博士です。爵位をお持ちのようでしたが、ラローム様はそれを嫌がっておりました」

「あぁ、種蒔きの時期を決めたり天変地異の前触れを調べている偏屈じいさんのことね!」

「……偏屈かどうかはわかりませんが、皆さんが仰るほど偏屈ではないかと」

「それで、給料の未払いとかでもあったの?」

「いいえ。ただ、『旅立ちの時が来たようだ』と従者一人をお供に旅に出かけられまして。それが、お屋敷を出る三日前のことでしたでしょうか。元々、働いていたのは私を含め三名ほどでしたので混乱しませんでしたが」


 ヤバイ。


 完全にラロームという爺さんは頭がおかしい。こんな状況でしかも年齢も考えず『旅立ちの時が来たようだ』で出かけるのだから終わっている。


 でも、爵位はナゾだけど貴族出身者。そこのお屋敷で働いていたのなら申し分ないわね。それに働きぶりも文句なし。ついでに容姿もメガネをかけて地味だし私の邪魔をしない。


「王宮で行われるパーティについてきてくれない?」

「わ、私がですか! 滅相もありません。場違いでございます……」


 うんうん、この低姿勢が一番使い勝手がいいのよね!


「王宮に行くの、私も初めてなの! 日頃から話す機会の多い年の近い女給が身近にいた方が安心できるし。ねぇ、お願い!」

「……お嬢様がそう仰るのでしたら」

「キャロライン、ありがとう! 服装は普段よりほんの少しお洒落すればいいから」


 そうそう、主役はあくまでもこの私。ダナ・サンターレ様だもの。


 相手の男性ばかりを詮索するだけでなく、ライバルのリサーチもしなくちゃ。


「そういえば、前は天文博士のところで働いていたから分からないかもしれないけど、こういうパーティーに参加する女性ってどんな人が多いのかしらね?」

「おそらくですが、お嬢様のように『父上が軍師』という立派な肩書をお持ちのお家柄の方はいないいかと……」

「あら、本当に? でも我が国にも貴族階級はいるじゃない」

「デンガー国の貴族階級の方は不思議なことに皆様、遠方の別荘にお出かけのようです」

「そう」


 私の質問に丁寧に答えてくれるキャロライン。きっと事細かに教えてくれると思っていたわ!


「……ただ、近隣諸国の貴族のお嬢様には招待状を送っていると女給たちが噂しておりました」

「近隣諸国? 貴族?」


 しまった! ライバルは国内だけではないのよ。


 近隣諸国といったら美女の宝庫と言われるフォスナン国の女性陣も大挙として押し寄せたら一大事!


「そ、そうなの……。例えば、お隣のフォスナン国とかかしら、ね?」


 キャロラインに悟られないようにさりげなく聞かなくちゃ。 


「どうでしょうか。フォスナン国自体が広大で、貴族階級同士も国内での結婚が主流のようですし。ただ、交流などを兼ねた階級に関係ない文化や音楽一座がくるかもしれません。ラローム様がそんな話を以前しておりましたので」

「あら、それは賑やかで良いこと。でも、天文博士がそんなパーティーに顔を出すなんて以外ね」

「そうでございますね。私もそのお話を聞いた時、驚きました」


 危ない危ない。フォスナン国の美女軍団に来られたら目ぼしい殿方を全員とられてしまうところだった。パーティを盛り上げる音楽一座なら大歓迎! 


「音楽一座なんて、ダンスでも躍るのかしら? 私、得意なのよダンス」

「それでは多くの人の注目を集めること間違いなしですね、お嬢様。動きやすいドレスで参加した方がよろしいかもしれませんね」

「あら、そうね。私の本格的なデビューの日なんですもの。華々しく成功させなくちゃね!」

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