大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~
第27話 プリモス13世の成り上がり人生
第27話 プリモス13世の成り上がり人生
「プ、プリモス13世は王家の血筋ではない?」
「さようでござる。やはりデンガー国出身者は知らぬようで……」
グリンボの爆弾発言に私は身動き取れないほど強い衝撃を受けた。そんな話、初めて聞いたのだから当然だ。
ビヨルンに視線を向けると、真っすぐと私の顔を見て呟いた。
「不思議な話で、隣国では知られている話なのだがデンガー国では知られていない。しかもフォスナン国の商売人や商人が仕事でデンガー国に入ると、その事実を忘れてしまうようだ。それにプリモス13世の出自も不確かなことが多い。」
「ということは、デンガー国全体に何か不思議な術がかけらている……」
そんなことがあり得るのだろうか。実現可能ということは、そうとうな腕を持つ魔術師を抱えていることになる。
そうなると、ビヨルンでさえ苦戦するのではないだろうか……。
「デンガー国に凄腕の魔術師がいる、とかは?」
ビヨルンは首を大きく横に振り否定した。
「フクロウなどの使いで探りを入れているが、デンガー国には王直属の魔術師はいない」
「それではなぜ、このような記憶の変換が可能なのでしょうか……」
「プリモス13世が結婚した21年前から、『彼は生まれながらにしての王』という記憶改ざんが行われているようだ。当時の魔術師の仕業なのか定かではない」
「……21年前? 当時の魔術師?」
21年前と言うと私が生まれる3年前のこと。ビヨルンだと……。そういえば、彼は何歳なんだろう?
まさか、魔術師だから見た目を若くしているだけで本当はベーカーさんより年上だったりして。
「ちなみに私は24歳。私が3歳の頃の話だ」
いけない。油断して私の心が読めれたようだ。
「デンガー国の魔術師に関してはきな臭い話も伝え聞いており、正統派は根絶している」
「根絶?」
後の説明は任してくれとばかりにグリンボが切り株の上で大演説会を始めた。
「王室の血が流れておらぬプリモス13世が先代王の愛娘メデゥー王女と結婚したところ、不思議なことにたちどころに『プリモス13世は王家の血筋』と国民だけでなくデンガー国に足を踏み入れたと誰もがそう思うようになる。さらに事態は摩訶不思議なことが起きる。結婚2年目に若き王妃がこの世を去るという事態が起きたのだ。噂によると、プリモス13世がデンガー国を我がものにするために王妃を殺害したのではと囁かれているが真相は藪の中……」
王妃が若くして亡くなったのは知っている。けれどグリンボの話しぶりだと、病で倒れてというニュアンスではなさそうだ。
「魔術師達にメデゥー王妃に呪いをかけるるよう指示したがことごとく断られ、全ての魔術師は追放され姿を消した。以来、デンガー国では王宮専属の魔術師はおらず、王は軍増強に力を注ぐようになったと言われてるでござる」
なぜ、メデゥー王妃を亡き者にしたかったのだろう? 大昔の話ではないのに誰もが公に口にしなかったのは国王を恐れているからだろうか……。
「しかしながら、メデゥー王妃が亡くなった損失は大きかったでござるな。数えきれないほどの後宮の美女たちとの間に世継ぎを授かることすら叶わず現在に至るわけでござる」
プリモス13世は40代半ば。世継ぎ誕生は急務だ。
後宮にはゲンガー国から美しいと評判の美女たちが集められているという話を耳にしたことがある。『王が子宝に恵まれないのは何かしらの呪いが掛けられているに違いない』と小声でいう医術師のおじさん達の会話をふと思い出した。
自分の世継ぎがいなければ国王は誰が引き継ぐのか。それとも、隣国から王侯貴族の令嬢と婚礼をあげる気なのだろうか?
「問題をややこしくさせているのはメドゥー王妃が一人娘だったということ。故に従兄妹殿や親戚筋へと継がれることになるでござるが、王妃の件もあり誰も彼もがプリモス13世との縁を切ったのでござる」
デンガー国の王宮で祭事がある時、隣国などに嫁いだ親戚が集まるはずだがその行列を見たことがない。メデゥー王妃の一件で、交流も断絶したのか。
「いずれにせよ、プリモス13世は非常に切羽詰まっているのでござる。世継ぎを授かれぬ。なき王妃からの親戚筋、つまりはデンガー国の元々の王家の人々から総スカンをくらい孤立無援。血迷った王は平和で美しい隣国のフォスナン国を攻め入り、現状打破を狙う算段ということでござる……」
話を聞いているとますますプリモス13世の考えが分からなくなる。好き勝手やって自分の首を絞めているのを理解していないのだろうか?
それにしても、自分の知らないデンガー国にまつわる不思議な話がこんなにあるとは驚いた。
「おそらく、フォスナン国に侵入し絶世の美女の誉れ高きエミール王妃を狙っているのだろう」
ビヨルンが不可思議なプリモス13世の行動を冷静な口調で推察した!
なんと恐れ多いことだろうか。あの仲睦まじいお二人の仲を断ち切ろうなどと考えているなんて……。
「そ、そんなふざけたことはすぐに阻止しなければ!」
「慌てるな、イーナ。あちらもおそらく邪悪な念により国内が荒れるはずだ。いや、きっと荒れている。荒れるしかないのだよ……」
『荒れている』という言葉を口にするビヨルンが目を伏せる。
驚くほど長いまつげに思わず見とれてしまうが、そんな気分に浸っている場合ではない。
「何がどう荒れているのか見当もつかないのですが……」
「遣いのフクロウに偵察させている。時期に様子が分かるだろう」
あぁ、あの時のフクロウ。死の森に放置された私を監視していたというビヨルンの遣い。
普段はどこにいるのか見当たらないけれど、おそらくビヨルンの指示のもとあちらこちらを飛び回っているのだろう。
「フクロウ殿はお元気でござるか?」
「代替わりをして最初は不安定だったが今では立派に働いている。感謝しているぞ、グリンボ」
「いえいえ、当然のことでござる」
なるほど。フクロウの遣いに関してもグリンボが携わっているようだ。それだけ信頼の厚いゴブリンなのね。
「花嫁修業に関しても私が代々担当してるでござる。長い付き合いになりますが、やはり今は国の緊急事態。軍師としてのイーナ殿を全面的にサポートするでござる」
「は、花嫁修業?」
「さようで。ジット家に相応しい公爵夫人になるためでござる。とはいえ、どの奥様も修行する必要がないほどでしたのでご安心して欲しいでござる」
グリンボの言葉が背中にのしかかる。
おそらくビヨルンのお母様も良家の出でマナーも舞踏会の踊りも上流階級の会話も元々完璧だったのだろう。
これから軍師として働くことも大変だが、それ以上に花嫁修業の道のりの方がサナから色々と言われてしまいそうだ。
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