第15話 ビヨルンの憂い
今日、こうして国王夫妻と会食をしイーナを紹介出来て良かった。これからしばらくお二人とお会いできないであろうから……。
「ビヨルン様、なんなんですか! あの女は!」
屋敷にイーナを連れて行った日、サナは大いに荒れていた。
多少なりとも予想はしていたが予想を遥かに超える騒ぎとなった。
彼女の気持ちも分かる。小さい頃から共に過ごしてきた弟のような存在の私が見知らぬ女性を連れてきたのだから。姉として不安を感じるのと同じなのだろう。仕方がないことだ。
サナを静かにさせるのは術で何とかなるが、フォスナン国とデンガー国の状況を考えると頭が痛い。
ここまで深刻な事態はいつ以来だろうか? 隣国との関係は必ずしも良好とはいえないが武力衝突はこの数百年起きていない。
全てプリモス13世が即位してから歯車がおかしくなった。好戦的で野心的なプリモス13世。我が国王、ライズ5世とは真逆だ。
しかし、デンガー国で不穏な動きが渦巻いているのを察知し、気をつけてはいたのだが……。
そしてあの夜。
使いのフクロウから無実の罪で娘があの森に放置されるとれんらくがあり、何かが起きれば行動するしかないと準備をしていたが、まさかあれだけ爆睡するとは思いもしなかった。
イーナ・モルセン。私を見て何も感じない初めての娘……。
公爵家の跡継ぎであり母から譲り受けた容姿は小さい頃から注目の的だった。地位と外見で何人もの女性が近づいてきたが、私は主席魔術師。彼女たちの心を見通すくらいお手の物だ。これまで会った女性と全く異質だ。
オリーブ色の瞳に豊かな茶褐色の髪。鏡などほとんど見たことがないのだろう。自分の美貌に全く気がついていもいない。
自分の立場を利用しさっさと婚約者宣言をしたが、彼女は私の気持ちに全く気がついていないようだ。これほどアプローチをしているというのに……。
それにしても眠っていたことで潜んでいたスキルが開花し、これからもどんどん進化を続ける。私はそれに置いて行かれないよう必至だ。イーナに相応しい夫になるよう努力しなければならぬ。
「ボードゲームはお嫌いで?」
屋敷に来た初日、離れの蔵書室で嬉々としてチェスの本を読んでいたが私はボードゲームが好きではない。理由は簡単だ。相手の思考が頭に入ってくるからだ。
チェスを初めてした幼少期、私はまだ思考を遮断する術が身についていなかった。どんどん相手の思考が流れてくる恐怖感がトラウマとなり、ボードゲームは一切手を出さないことに決めたのだ。
イーナがボードゲームが好きだと知り、今では深く反省している。二人の距離を近づけるのに打ってつけのアイテムだからだ。
屋敷に戻ってから、夜はベーカーやサナを相手にカードゲームをしているがやはり相手の心が見えてしまい面白くない。とくにサナの感情の起伏の激しさが流れ込むのは体調面にも影響が出てくる。
ボードゲームで接近する作戦は無理だ。相手の思考が入ってこないのに、あれだけのスキルがあるのだからイーナは驚くべき存在だ。
どうにかしてイーナとの共通事項を増やしたいのだが、やはり難しいものがある。私が悩んでいるのを見かねたベーカーがさりげなくアドバイスを送ってくれたのはありがたかった。
「それでは、デンガー国侵略を阻止するためにイーナ様と共に旅立つのはいかがでしょうか。二人の時間を増やせば心を通わせることでしょう」
少々うるさいが、サナは戦力になるのと私とイーナの間に入ってくれることを期待し同伴すると言ったとき、ベーカーは驚いた顔をしていたのが気になる。
「サナは力にはなりますが、どうでしょうか。ビヨルン様のことを……」
それ以上は口にはしないが、ベーカーもサナの姉の立場として私とイーナの関係に気を揉む様子を心配しているのだろう。
おそらく、あの美貌に惹かれた者もデンガー国には多くいたはずだ。当の本人は辛い思いをしただろうから故郷へ戻ることを望んではいが、私にとっての恋敵はゴロゴロいるだろう。
デンガー国に入る前に使いのフクロウに偵察するか。誰か『イーナ・モルセン』を噂にしている者はいないかと。
それが男なのか、女なのかも……。
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