第14話 国王からの驚きの申し出
「は、早く解かないと。と、解いてください! 術を解いてください!」
「私は分からぬ」
「ぬ、ぬわんですと?」
「これはイーナがかけた術だ。普通のポーションは治療がメイン。すなわち心に作用せぬ」
「で、何が言いたのですか?」
「ポーションだがポーションではない。全くのオリジナルのポーションのようだ」
どうも私の知っている風邪や怪我に効くポーションではなく、ビヨルンの魔術に近いようだ。
ただ、恋の媚薬と言う名のポーションを売る怪しい人もいたっけ。医術ギルドの人たちが「アイツはギルドに入っていないから気をつけろ」と言ってたな。
「ポーションはハーブを調合し蒸留水やワインに浸すものですが、私は普通に食事しただけですけど……」
「それほど自分のスキルが高まってきているという証だ」
「全く自覚していません」
「自覚せんでもいい。ただ、この術は私は解けぬぞ」
主席魔術師が解けない。いやいや、これは困る。時が止まり、私たちだけが取り残されている現状を何とかしないと……。
「同じことをし、さっき思ったことと逆のことを考えよ」
さっきと同じ。時が止まる前と同じこと。たっぷりのタプナードを魚につけて食べてハーブティーを飲む。
時間は過ぎる。ゆっくり過ぎなくてもいい。ゆっくり過ぎなくてもいい……。
「明日旅立つのなら、チェスやダイスゲームが強いというイーナと対戦することも叶わぬか」
おっと、時が元に戻った! やった!
だけど、チェス? モノポリー? どうして国王陛下がご存知で?
「それでは、食事の後にいたしましょうか」
「楽しみですわね、陛下」
「そうだな、エミール」
またもや私を置いて話がトントン拍子で進んでいく。
「それではアクアマリンの間で行う」
ライザ5世が厳かに言うと、四隅にいたお付きの者たちが一斉に反応した。
「かしこまりました。取り急ぎ準備いたします」
どうやら国王陛下の心はボードゲームへと移ろいでしまったようだ。スープを飲むとさっさと食事を終えてしまった。
あ~あ。陛下が食べ終えてしまったということはこの晩餐会もお開き。
あ~あ、時を止めて料理を堪能すれば良かった……。
「いずれかの機会で同じメニューを食べられる。心配するな」
心を読んでいるのか、それとも私の表情から読み取っているのかナゾだ。でも、そのうち食べられるチャンスがあるならひと安心。
それより、いきなりボードゲームするとか何なんだろう? 国王陛下はチェスやダイスゲームが好きということか。
「ビヨルンから強いと聞いておる。私も好きでの。手加減せず、正々堂々とやろうではないか」
強い? 好きとは言ったけれど私は強いんですよ~、なんて口にしただろうか?
モヤモヤした気落ちのままアクアマリンの間に行くと、目がちかちかした。天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がり、壁には宝飾品やらが飾られている。
公爵家であるビヨルンの屋敷も豪華。宮殿は超豪華。フォスナン国はかなり豊かな国なのは間違いない。
「こちらに座ってください、イーナ」
王妃様に手招きされた私の目に飛び込んできたのは、アクアマリンが埋め込まれている大理石のテーブル。どうやらこのテーブルでゲームをするようだ。
落ち着いてプレイできるか怪しいが、こんな贅沢な環境でやれるのは滅多にないことだ。
「せ、精一杯プレイしますので」
「まずはチェスで勝負だ。私も相手を探しているのだが、なぜかみな嫌がっての」
嫌がる? 負けると人格変わるとか? それでお手打ちとか?
もしその情報を隠していたらビヨルンは確信犯だ。わざと負けるが、それとも勝つつもりでやるか。自分の身を考えたら『負ける』が一番安全そうだ。
チェスの駒は意外にも樹木で出来ているものだった。大理石や水晶とかの駒が並べられるかと思いきや、これは意外。
「それではトスをして先手後手を決めようではないか」
国王陛下が白と黒のポーン駒を手に取り、テーブルの下で左右と何度も入れ替えると、ポーンを握っている両手をテーブルの上で伸ばした。
「さあ、どちらの手にする?」
「そ、それでは国王陛下の右手で」
「うむ、右手じゃな」
右の手のひらを開けると、黒のポーン駒があった。ありゃや、私は後手か。
「それでは私の先手じゃな。この砂時計が落ちるまでに次の一手を指すこと」
柔和な国王陛下が勝負師の顔に変わった。これは負けると人が変わって暴君になるパターン?
せっかく助かった命を無駄にしたくなり。うん、これは負けの手を選んで潔く負けた方が良さそうだ。
「イーナ、全身全霊でやらぬと失礼に当たるぞ」
背後から突然ビヨルンが声をかけてくる。周囲の人にも聞こえるくらいの大声。わざととしか思えない。
「何を申しておる、ビヨルン。強い者ほど手加減はせぬであろう。宮殿内では敵なしの私も手加減はせぬぞ!」
あちゃ~、火に油を注いでしまった……。こうなったら私も本気を出すしかない。
「それでは」
「よ、よろしくお願い致します」
国王陛下と握手をし、戦いの火ぶたが切って落とされた。
なるほど、手つきは慣れているから『強い』というのは噓ではないようね。もう少しで勝負所。ここは時間をかけたいところだが砂時計はおそらく三分。三分以内で考えないといけない……。
「う~む」
先手をかなり追い込んできた。よし、良い感じで攻撃が続くけれどここは国王陛下の出方を見てからカウンターパンチを仕掛けるとするか。
「う、う~む。そうか、そういう手があるのか……」
私の考えが読まれている? やっぱりかなり強いのは間違いないようだ。
「私の負けだ。参った」
「……えっ?」
「いやはや、ビヨルンから聞かされた時点でかなりの腕出前であるのは分かっていたが。グラントン並みだな」
「グ、グラントン……?」
あれ、グラントンって名前、離れの蔵書室のチェスの本に書いてあった気がしないでもないけれど……。
「グラントン軍師、フォスナン国の軍師のことだ。すでに知っているはず」
背後からビヨルンが軽く説明してくれた。やっぱりあの本の執筆者で当たりのようだ。
チェスとかボードゲーム強いと軍師になるのか、軍師だから強くなるのか?
「折り入ってイーナに頼みごとがある」
コホンと咳払いをし、国王陛下が厳かに私に何かを頼もうとしている。ちょっとコワイ。
「我が国のグラントン軍師は高齢故、後継者を探しておったが適任者がいなく困っていたのだ」
「……」
「そこで、ビヨルンからの推薦もありフィアンセでもあるイーナ・モルセンが新軍師として我が国を守ってくれはしないか」
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