大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~
第11話 デンガー国では~街の人たちの行方~
第11話 デンガー国では~街の人たちの行方~
「あの~すみません、どうしてこんなに誰もいないのですか?」
けばけばしい雰囲気の娘が話しかけてきた。その理由をこっちが聞きたいくらいだ。もう何十年もここに来て商売しているというのに、誰もいやしない。こんなこと初めてだ。
「すまんね、お嬢ちゃん。オレも知らないんだよ」
「はぁ?」
「ちょっと前にここに着いたんだがこのありさまで、オレも驚いているところだよ」
「デンガー国の方ではないのですか?」
「あちこちで商売している身だよ。古くからの知り合いのパン屋のオヤジに会いに来たのだが、店が閉じたなんて信じられない」
パン屋のオヤジは若い頃からダイスゲームで交流してきた大切な仲間だ。風の噂で店を畳んだと聞いて急いできたが、本当に店を閉じてやがった。一体何が起きたんだ?
デンガー国は今の王様になってから各地に合った市やギルドが全て宮殿近くのこの街に集約されるようになった。
だからデンガーで商いが出来るのはここだけ。つまり、ここに来ればそれなりに稼げたし、食事も酒にも困らない便利な街だ。しかし、この場所がこんな閑散としているんじゃ、他の国に行くしかない。
「他の国も、こんな状況ですか?」
質問が多い姉ちゃんだな。この国に住んでいるなら内情を分かっているはずだろう。流れのオレに聞いてくるなんて、よほどの間抜けだ。
「いいや。他の所じゃ変わらずに賑わっている」
オレの言葉に姉ちゃんが首をかしげる。本当のことを言っただけなのに……。
「どうした、ダナ?」
「お父様! 他の国はいつも通り市など賑わっているそうですよ」
「おぬし、本当か?」
なんだなんだ、偉そうな男がいきなり来たな。勘弁してくれよ。オレは変なことに巻き込まれたくないぞ……。
「へ、へい、旦那様。つい今しがたこちらに来ましたが閑散としており驚いておりまして」
「なるほど……。どうやら我が国だけの問題のようだ」
「どうしましょう。お見合いのために新しい髪飾りも欲しいのに!」
「使いの者を出して近隣の市で買ってくるようにするから安心しなさい」
「お父様、なんてお優しいのかしら!」
ずっとヘコヘコ頭を下げていると、偉そうな男とその娘がさっさと引き返していった。良かった。巻き込まれずに済んだ。
「おい、こっちにこい。ゆっくり振り向かずに後ろにこい」
どこからともなく声がする。この声、パン屋のオヤジの声だ! 声のする方にゆっくり後ろに移動すると声が少し大きくなってきた。どうやらそすぐ近くまできたようだ。
「店と店の間のすき間に階段がある。そこをゆっくり降りてこい」
オヤジの言葉を信じて下がっていくと、本当に階段が見えてきた。よし、これをゆっくり降りて行けばいいようだ。
「もうここでの商売は見切りをつけたほうがいいぞ」
下までたどり着きオレが振り向くと、地下の部屋の真ん中に馴染みのパン屋のオヤジが椅子に腰かけていた。周りには市で隣り合わせて商売をしていた仲間がいる。
「オヤジ、どうしたんだい。こんな隠れがみたいところに身を潜めて。犯罪者じゃあるまいし」
見た顔がずらりと並んでいる。何かこの国でただならぬことが起きているのか?
「なあに、どうしたもんかと話し合っていてな」
「人ならいるだろう。店がなくなって困っている姉ちゃんがさっきウロウロしていたぜ」
「そうだけどよ、商売人や職人、医術師にとっては居ずらい国になっちまってさ」
「あんなに栄えていたのにか? みんなガッポリ儲けて飲み食いしたりダイスゲームをしていたじゃないか」
なんだ? オレが話をした途端、一斉に神妙な顔をしやがる。
「どうした。何か悪いことでも言っちまったか?」
「覚えているだろう。よく二人で飲みに行った酒場を……」
そう言われ、デンバー国で商いをする時に必ずパン屋のオヤジと一緒に行った酒場を思い出した。
愛想のいい若い夫婦が切り盛りをし、食事も酒も上手い店だ。あそこで飲むと一日の疲れが全部吹き飛び、元気を取り戻す不思議な店だ。それに可愛いお嬢ちゃんがいて、よくボードゲームで遊んだ。
「もちろんだ。ここに来て商いをする目的が二つあった。オヤジと酒を飲むこと。あの酒場でみんなで飲み食いしてゲームをすることだ」
なんだろう。嫌な予感がする。まさか、あの酒場も店を畳んだのか……? 市で商いをする連中はみんなあの酒場に行きたくてデンガー国に立ち寄ったと口々に言っていた。
ただし、人気があり過ぎて中に入れるかどうかの保証はない。
いつも医術ギルドの連中が早めに来て席を取っていたからな。オレがパン屋のオヤジといつも店に行くのも、オヤジが仲のいい医術師に頼んで席を確保してもらっていたからだ。
「あぁ、そうだ。跡形もなくなくなった」
「跡形もなく? 火事でもあったのか? そんな話はこっち来るときに一度も耳にしていないぜ」
やっぱり被害に遭ったのか。これ以上、何も言わない方が良さそうだ。
「でもよ、なんで地下なんかに集まっているんだ? パン屋はやめちまうのか?」
「もう年だ。パン屋は倅に任せた」
「倅? 息子なんていたか?」
オレがそういうと、部屋の隅から見覚えのある男が出てきた。
「え? おいおい、そいつは腕のいい医術師じゃねぇか!」
「こんにちは。いつも父がお世話になっています」
なんだか調子が狂うが、パン屋の倅が医術師だったというわけか。でも、医術師やっていた方が報酬をもらえるのに、跡を継ぐなんてもったいない。
「こう言っちゃ悪いが、パンを作れるのか? 医術師やっていた方が儲かるんじゃ……」
「ハハハ、相変わらずだな。倅はパン屋もやりつつ医術師もやる」
そんな簡単に両立できるのもか怪しいが、職人気質のオヤジが言うのだから大丈夫。
「で、どこに店を出すんだ?」
「とりあえず、このパンを食べろ」
質問を遮りオヤジが丸パンを差し出してきたが、一口食べると途端にあの懐かしい味が広がる。
「倅が焼いた」
「うまいな! これなら明日からでも商売できるぞ」
「ハハハ、気が早い。うちのパンには『アリアナ』の女将さんとお嬢さんが育てたラベンダーが刻んである」
そうだ『アリアナ』だ。ラベンダー酒を飲むと疲れが吹き飛びよく寝れ、他の酒場で飲むラベンダー酒とは別次元のものだった。
「とりあえず、残っているパンを食べろ。そうすると不思議なことが起きるぞ」
「不思議なこと?」
「あぁそうだ。この壁の向こうに地下通路が見えてきて、地上と変わらぬ生活ができるぞ」
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