第9話 デンガー国では~ダナの優越感~
「もうこんなにアチコチからお見合いが舞い込んできているわ!」
私はダナ・サンターレ。デンガー国の軍師の娘。つい最近まで名ばかりの近衛隊長だった父は軍師に大出世。小さな家から大邸宅へ引っ越ししたばかりなの。
これも全て娘である私のおかげ。いいえ、間抜けな親友イーナのおかげと言った方が良いかしら。
階級制度の厳しいこの国では、下級の下級の下級貴族が上級貴族と結婚することなんて絶対に無理。夢のまた夢。
そんなお国柄もあってか、私の周りでは上昇志向の子なんていなかったけど、私は違うの。
せっかくの人生をもっと有意義に過ごしたいじゃない? だから、イーナの才能を活用してみただけ。
だって、イーナったら自分が憎たらしいほどの美貌を持ち、戦略家としての頭脳も全く利用なんてする気なんかなかったし。だから、戦略家のノウハウに関しては私がそっくりもらって、利用することにしたの。
どうやって活用したかって? そんなのカンタン。
お父様が仲間内でチェス、ダイスゲーブ、カードゲームをして、近衛隊長の中で最強になり、どんどん階級強い人と戦ったの。
そしたら全勝勝ちまくり。
上級貴族の方々も「サンターレ殿は強いぞ」「あの地位に置いとくのはもったいない!」と騒いでくれて。
トドメは酒場「アリアナ」が医術ギルドのたまり場で国家転覆を狙っているって密告したの。
だって、あそこ医術ギルドのメンバーがたくさん来て王様の悪口を言いまくってたからね。ほんの少し脚色して進言したら狙い通りに事が進んだってわけ。
お父様がチェスで周囲から信頼と尊敬を勝ち取り、イーナの家族を少しばかり罠に嵌めて大出世。もう、最高の人生!
あとは結婚ね。これは本当に重要。
お見合いの時は顔を会せるから顔を何とかしないと。、ま、何とかなるわ。ポーションを購入すればいいだけだし。でも、街のあちこちを歩いているはずの医術ギルドを最近全く見かけないわね。
そういえば、イーナの一件が起きる前から見かけない? まあいいわ、そのうち来るでしょう。
派手でフワフワした可愛らしい衣装、宝石で相手をクラクラさせればそれでおしまい。それに軍師の娘だから『婚約したい』『一目お会いしたい』という手紙がどっさり。
平民のままでいいと思っているイーナなんて、自分の人生をドブ川に捨てているようなもの。うん? あらイヤダ。イーナはもうこの世にはいないわね。
『死の森に』に入ったものは誰も出てこれない。親友との永遠の別れがああいうシチュエーションだったのは残念だったけど、まっ仕方がないわね。
そもそも同い年で家が近所と言うだけで付き合っていただけだし。いっつも彼女ばっかり人気者でイライラしていたのよ!
「お嬢様。軍師閣下がお帰りになられました」
あら、お父様が戻ってきたみたい!
「ダナ、こんなにお見合いの手紙が届いているのか」
「一緒に吟味しましょう! 持参金が多い方を探しましょうよ」
「そうだな、このミーレ伯爵の三男はどうだ?」
「三男でしょう? ちょっと領地とか少なめかもしれないわよ」
「そうか……」
トントン。
「軍師閣下、国王陛下より伝言を承っております従者が到着いたしました」
何よ、タイミング悪いったらありゃしない。
「分かった、すぐに応接間に向かう」
あ~あ、せっかくの婚約者探しが中途半端じゃないの! まぁいいわ、じっくり選ぶとしましょうか。
「そういえば、最近医術ギルドの人たち全然見かけないわ。ま、酒場がないから来れないし指名手配にもなっているし。でも、美肌クリームのポーションとか欲しいのよね。来るべきお見合いとか舞踏会で殿方の視線を集めたいし」
「そうだな。アイツら危険を察知してどこかに潜んでいるのだろう。ただ病人の治療が全くできずに困っている人が多発している」
「そうなの?」
「もしかしたら、そのことについてかもしれんな。ワシは客人に会ってくる」
カツカツカツ……。
お父様は従者とお話合い。私はお婿さん探しに精を出しましょう。
「なんだと!」
あれ? お父様の声? 何かあったのかしら……。応接間にそっと近づいて聞いてみましょう。
「それで、商人たちはどこに向かっているのだ?」
「みなバラバラの方角に向かっているため、何か特別な目的があっての行動ではなさそうです」
「商人がいなくなっては市場が成り立たん。わが国の経済状況がさらに悪化してしまう」
「陛下も心配しております」
「しかも、職人たちも旅に出ると言って姿を消していると耳にしたが?」
「それに関しても陛下は心を痛めております。現状を打破したいと……」
「現状を打破する、と」
「はい」
そういえば昨日、市場に行ったけどお気に入りの髪飾り屋さんも姿を見当たらなかったし、全然活気なかったわね。どうしたのかしら?
「陛下はどのようにして現状を打破したいと考えておられる?」
「フォスナン国を我が国の領土にすれば全てが揃うと申しております」
「……フォスナン国。美しい水と緑の国。王妃が絶世の美女と噂されている」
「はい。我がプリモス13世はメデュー王妃を亡くされてから独り身を貫いております。フォスナン国を手にし、王妃を手にすることを熱望しております」
「なるほど……」
メデュー王妃。私が生まれる前に毒殺されたと専らの噂の王妃のことか。なんでも政治に口出ししようとして抹殺された、という話だけど。
本当かどうか怖く誰も口にしないから真相は闇。まあいいわ。私には関係のないこと。
でもそうか、フォスナン国が手に入れば私のお婿さん候補も増えるわ! それに、美男美女が多いって聞くし選びたい放題?
軍師の娘であり、戦でお父様が活躍すれば元帥に大出世! そして貴族のランクも大幅アップ!
やだ、良いこと尽くめじゃない。あれ、まだ何か話し込んでいるけど……。
「サンターレ軍師閣下には、フォスナン国への侵攻の指揮をとって頂きたく存じ上げます」
「なに、私が?」
「はい。国王陛下たっての願いでございます」
「うむ……。そうか……」
えっ、嘘でしょう! お父様すごい!
「返答は急ぎではありませぬが、数日中には宮殿にお出向きを」
「分かった」
「それでは失礼いたします」
「うむ」
おっと、急いで部屋に戻らなくっちゃ! それにしてもお父様とんとん拍子で大出世で私のお婿さんランクもグッと上がっちゃう。
本当に幸運がこんなに続くとなんだか怖くなっちゃうけど、人生楽しまなくちゃね!
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