お盆の悪戯


「仏壇が開け閉めできるものだと、知らない人も多いかも知れませんね」

 そう話し出したのは、楽しげに参加霊たちの怪談を聞いていた老紳士だ。

 この怪談会には珍しく、すでに成仏している霊らしい。

 MCの青年カイ君は、

「仏壇を持たないお宅も増えているくらいですからね」

 と、頷きながら言った。

「うちの孫は、仏壇の仕組みを知っていたのかなぁ」

 顎ひげに触りながら、老紳士は話し始めた。



 我が家にも、古い仏壇があるのです。

 妻が時々、庭に咲いた花を生けてくれたり、私の命日や盆暮れには義娘むすめが仏花を供えてくれたり。

 それだけでも有難いのですけれどね。

 息子や孫にも、年に一度くらいは仏壇の前に顔を見せて欲しいんです。

 もちろん、仏壇の中から家族を見守っている訳ではありませんけどね。

 仏壇で私の遺影を見てくれるだけでも、面と向かって挨拶をしてもらえた気持ちになれるんですよ。

 だからね。どうしたら息子や孫に思い出してもらえるか考えたんです。

 それで、ちょっとした悪戯を思い付きましてね。

 観音開きの仏壇と、冷蔵庫の開け方がよく似ていましたので。

 孫が冷蔵庫を開けた時、仏壇の扉と繋げたんです。

 ――冷蔵庫を開けたら仏壇があった。

 そんな状況を見せてみました。

 孫は慌てて冷蔵庫を閉めて驚いていましたね。

 すぐに開け直すと、もちろん元通りの冷蔵庫です。

 悪戯は、きっと見間違いだと思える程度が丁度いい。

 孫はお盆の時期だと思い出してくれましてね。

 すぐに妻の部屋にある仏壇に来て、線香をあげてくれましたよ。

 そういう訳で、悪戯は大成功だったんです。

 今日は、この武勇伝を聞いてもらおうと、こちらに参加させてもらいました。



「冷蔵庫の扉と、仏壇の扉を繋げたのですね」

 驚きの声でカイ君が聞くと、老紳士は頷きながら、

「ええ。日頃の行いと言いますか。生前、悪い意識はあまり持たずに過ごしましたのでね。今では、ちょっとした悪戯も許してもらえてるんですよ」

 と、話し、満足げに笑った。

「それは素晴らしいですね。羨ましいです」

 そう言ってカイ君が拍手すると、参加霊たちもハフハフと拍手を送った。


 本日は、お盆の中日。

 あの世から帰って来た幽霊も、参加可能な怪談会だ。

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