公園幽霊


「僕自身、幽霊なんですけどね」

 次の話し手は、パッチリとした大きな目の青年だ。

 幽霊による怪談会。

 明るい調子で話しているが彼も当然、死霊なのだ。

「幽霊になってから、他の幽霊さんたちの姿も見えるようになりました。そういうもんなのかな」

 と、青年は、車座に座布団を並べる参加霊たちを見回した。

 怪談会のMC青年、カイ君は、

「それは人によりますよ」

 と、笑顔で答えた。

「あ、そうなんですね」

 目をパチパチさせながら、青年は話し始めた。



 公園で、女性の幽霊を見かけたんです。

 何をするでもなく、むすっとした表情で公園の子どもたちを眺めていました。

 ちょっと、心配になるじゃないですか。

 元気に遊ぶ子どもたちや若いお母さんたちを、じっと睨みつけている幽霊なんて。

 その女性幽霊は悪霊だったりするのかなと思って、ちょっと様子を見ていたんです。

 その内に、ひとりの小さい子がトコトコって。女性幽霊の近くに駆けて来たんです。

 たぶん、子どもさんには女性幽霊の姿は見えていないんですけどね。

 近付いて来ちゃって大丈夫かなーなんて見ていたら、ちょうど女性幽霊の前で、子どもさんが転んだんです。

 走って来た勢いで、べちゃって倒れ込む感じで。

 そうしたら、女性幽霊が反射的に手を伸ばしたんです。

 子どもさんを支えられる訳ではないんですけど、心配して手を伸ばした感じで。

 すぐに子どもさんのお母さんが、駆けて来て声を掛けていました。

 その様子を見て女性幽霊が、ほっと胸を撫で下ろす仕草をしていたんです。

 しかめっ面に見えても、悪い人ではなかったんだなーって。

 幽霊だからって、悪霊ばかりとは限らないんですよね。

 見た目で判断して申し訳なかったです。

 表情とか、見た目でも判断できないのは、生きている時と同じなんだなって。

 まぁ、その女性幽霊も僕も、成仏せずに残っている理由はありますけどね。

 それしか考えられない存在に、なっている訳じゃないんだなって。

 死んだ直後は焦ったり不安だったりしましたけど。

 生きていても死んでいても、人間は人間って事なのかなって思ったんです。



 話し終えた青年は、ぺこりとお辞儀をした。

 頷きながら聞いていた参加霊たちが、ハフハフと拍手する。

 香梨寺こうりんじの本尊前。カイ君はMC席の座布団で姿勢を正し、

「笑顔で、恨む相手を不幸にする事を考えている悪霊もいます。生きている時と違って、思考を忘れた怨念のみの存在になっている場合も。存在状態は死後の方が様々かも知れませんが、人間は人間。『人それぞれ』とか『十人十色』という言葉は生死に関わらず、あてはまるのかも知れませんね」

 と、話した。

 深く頷いたり、感心する表情を見せたり。

 参加霊たちが、納得するようにもう一度、ハフハフと拍手した。


 幽霊による怪談会は続く。

 幽霊の両手なので、パチパチというハッキリした音はしない。

 それでも、ハフハフという拍手は明るく聞こえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る