ふさぎ


 ふっくらとした、大柄な男性の姿ではあった。

 しかし、話し手の順が回ってくると、その男性はグーっと両腕を真上に伸ばした。

 参加霊たちは、見上げながら目を見張った。

 餅のように長々と伸び上がり、スーッと縮んで元の姿に戻る。

 人間の骨格ではないことが一目瞭然だった。

「あぁ、広い所はいいですね! いつも狭い所に詰まっているものですから」

 そう言って、元通りの姿に戻った大柄な男性は話し始めた。



 パラレルワールド、異次元、異世界、あの世……。

 そういった場所に出入りできる、ゲートとなってしまう空間があります。

 人が通れる隙間だったり、椅子の脚の間だったり、立て掛けたよしずと壁の間だったり。

 たまたま繋がってしまうで、行き来のないように。

 門をふさぐのが私の役目です。

 特に私は、常に開いている、人間が通れる大きさの隙間を担当しています。


 ふすまの開け方が悪いと、どこか別の場所に繋がるという話があったでしょう。

 過去や未来だったり、同じに見えて違う世界だったり、全く未知の場所だったり。

 一度踏み込むと戻れなくなるので、向こう側が妙だと感じたらふすまを閉めて開け直すといいと言われています。

 最近ではふすまも少なくなりましたが、それにあたる場所は多くあるんです。

 道路に立つ電信柱と壁の隙間だったり、仕切りがなく向こう側が見える本棚のひと枠だったり。

 潜り抜けるだけで別次元へ行ってしまうと、あちらにもこちらにもよくない影響が出ます。本来は門などなく、行き来できない場所のはずですからね。

 長く使われていないからのクローゼットや衣装ケースなども、中に入ってから外へ出ると別次元へ行ってしまうということがありますね。

 そういう場所は、子どもたちのかくれんぼが要注意です。


 近頃は他所よその世界へ飛ぶことが流行っているらしく、私の仲間も増えているのです。

 どうやらフィクション作品によるイメージのようですが、人間の意識とは不思議なもので。

 漠然とした興味でも、門を開けてしまうことがあるのです。

 他所の世界の存在など知らなければ、そんなこともないのですけどね。

 大抵はフィクション作品によるイメージとは、かけ離れた場所へ出てしまうので、私たちが隙間をふさいでいるわけです。



 大柄な男性は話し終えると、やわらかな動きでお辞儀をした。

 参加霊たちの拍手が静まると、怪談会MCの青年カイ君は、

「異世界転生だったり、転移とか召喚とか。ファンタジー作品に留まらない影響が、この世にも表れているのですか」

 と、聞いてみた。

 大柄な男性は大きく頷き、

「怪談やホラー作品が有名になると、死者が幽霊としてこの世に残ることを知るのと同じです」

 と、話した。

「――なるほど」

 怪談会の参加者は、みな幽霊だ。

 妙に納得してしまい、参加霊たちが驚嘆の表情を見せる。

「それは重要なお役目ですね。貴重なお話、ありがとうございました」

 もう一度カイ君が拍手すると、参加霊たちも目をパチパチしながら拍手を重ねた。

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