しっぽ
竹林に囲まれた
その日の怪談会は、井戸端会議のように始まった。
たまたま、話好きな幽霊が集まっていたらしい。
「ほら、あたしたち幽霊になったから。生きている間は見えなかった幽霊とか見えるようになったじゃない?」
と、ひとりの女性が言えば、
「なったなった。私たちだって、普通に幽霊同士が見えてるわけだしね」
と、別の女性が答える。
幽霊による怪談会の進行に、形式的な決まりはない。
怪談会MCの青年カイ君は、その場の会話を笑顔で見守っていた。
ノリの良さそうな男性も、
「あんまり、おどろおどろしい幽霊は見た事ないですけどねぇ」
と、会話に参加している。
「幽霊になっても、幽霊が飛んでると思ったらビニール袋だった、なんて事の方が多いかもね」
「そうよねー」
口々に話しを続けているが、主に話を進めている人物も見えてくる。
「そう言えば。このあいだ、不思議なもの見ちゃってね」
と、話し出したのは、六十代ほどに見える女性だった。
孫が東京の私立高校を受験するって言って。
心配だから、試験について行ったのよ。
やっぱり東京は人が多いわよね。
スクランブル交差点っていうやつ?
車道が青になって、次に交差する車道が青になって、その次に歩行者が一斉に青になってっていう3段階の信号で待ってたの。
私は孫の肩越しに周りを見ていたんだけど。
孫のすぐ前に、尻尾が生えている人がいたのよ。
サラリーマンっぽいスーツの男性だったんだけどね。
クリーム色で、キツネっぽい尻尾が生えてたの。
ふんわりフサフサで、やわらかそうに揺れてたわ。
私が触ったりして、孫に何かあったら困るでしょ。
でも、すごく触ってみたかったわぁ。ふわふわそうで。
それで私が揺れてる尻尾を見ていたら、尻尾を生やした男性が、チラって振り返ったのよ。
孫じゃなくて、私を見た気がするのよね。
すぐ視線を逸らして、何も見てませんって装ったけど。
バーのマスターとかが似合いそうな、渋めの男性だったわ。
特に気にする様子もなくて、信号が青になったらスタスタ行っちゃったんだけど。
実は、そんな事がもう1回あってね。
もうひとりは、体格のいい学生さんだったのかしら。
リクルートスーツの男の子でね。
スーツは黒っぽかったんだけど、濃い灰色の馬みたいな尻尾が生えてたの。
通りがかりに見かけたんだけど、歩くたびに長い毛がサッサッて揺れてて。
そんな事が、2回も続けてあったものだからね。
他にも尻尾の生えた人はいないものかしらって。
でも今のところ、尻尾が見えたのはその2回だけなんだけどね。
「尻尾ですか。その人たちは、幽霊って訳じゃなかったんですよね?」
と、カイ君は聞いてみたが、
「動物が化けていたんですかね」
「動物霊に取り憑かれてるとか?」
と、口々に言う幽霊たちが話しを進めていく。
「どうだったのかしらねぇ。よくわからないけど。尻尾が生えた人、見たことない?」
「尻尾は無いですねぇ。見てみたいけど」
「猫耳も見てみたいですね」
「猫娘なんて、本当にいるのかしら」
「鼠男みたいのは見たことあるわよ。あれは、どこだったかしら……」
普段なら幽霊たちひとりずつ、怪談を聞かせてもらっている。
しかし、話に入れなかったり話したい事が話せず、もやもやする人が居なければ、これはこれで良い。
カイ君は話の流れと、本心の表情に意識を向けながら見守っていた。
色んな存在が参加する怪談会。
たまには、こんな進み方をする夜もある。
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