世話焼き


 次の話し手は、ちりちりパーマの女性だった。


 グレーのスーツを身に着けた、ふくよかな女性だ。

 紫色の座布団に足を崩して座り、ぺこりと頭を下げる。

 怪談会MCの青年カイ君が、

「あっ、先ほどは、お気遣いいただきまして」

 と、声をかけた。

「いえいえ。私ったら、お節介ばかりで」

 パーマの女性は、ふふふっと笑っている。

「怪談会が始まる前に、声をかけていただいたんです。ひとりで大変ねって」

 と、カイ君は、参加霊たちに話した。

 円形に座る参加霊たちは、パーマの女性に笑顔を向けている。

「それでは、お話をお願いします」

 カイ君に促され、パーマの女性はもう一度ぺこりと会釈した。



 年老いた母を残して、私は死んでしまいました。

 私の娘が、祖母にあたる私の母に気を使ってくれています。

 でも、やっぱり気がかりで。

 母や娘の側で見守っています。


 不思議な事に、母には私の姿が見えているんです。

 時々ですが視界の端を横切るような感じで。

 もともと、幽霊を見ることがあったのかしら……そういう話を聞いたことは無かったんですけど。

 私が見えても怖がったり驚くこともなくて。

 そっちはどうだい、なんて。声をかけてくれるんです。


 でも世の中には、幽霊が見える人もいますよね。

 私ったら、母にしか見えも聞こえもしないと思っていたものだから。

 出かけ先で母と娘がはぐれた時、私は大きな声で母を呼んでいました。

 その声が、聞こえてしまった人がいて。

 普通に、お婆さんが行方不明のように思ってくれましたけど。

 その人、母を見つけて、私が探している事を伝えてくれました。

 そして母は、私が亡くなっている事を伝えたんです。

 親切に声をかけて下さった人を驚かせてしまって。

 母は娘にも、私が来てくれたなんて口にするものですから。

 娘は母がボケ始めてしまったと思うようにもなっていて。

 母の前に姿を見せるのも、ほどほどにしなくてはと思っているんです。

 でも、ついつい、世話を焼きたくなってしまうんですよ。

 気を付けなくちゃいけませんね。

 お恥ずかしいです。



 少し困ったような笑顔で、パーマの女性は息をついた。

「性格や癖などは、なかなか変えられるものではありません」

 と、カイ君が言った。

 パーマの女性は、大きく頷いて見せた。

 周囲の参加霊たちも、うんうんと頷いている。

「それは生きていても、幽霊になっても同じです」

 と、カイ君もゆっくりと頷いた。

「本当に。亡くなっても、変わらないとは思っていませんでした」

 と、パーマの女性が苦笑する。

「でも、僕はお気遣いいただいて嬉しかったですよ」

 と、カイ君は笑顔を見せた。

 パーマの女性も、少し恥ずかしそうな笑顔を見せ、ぺこりと会釈した。

「ありがとうございました。それでは、次のお話をお願いします」

 明るくカイ君が言うと、参加霊たちはハフハフと拍手した。

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