クリスマ年越し
「あ、いたいた」
MCの青年カイ君が本堂で準備をしていると、若い女が顔を出した。
座布団を抱えていたカイ君は腰を伸ばしながら、
「マドカさん」
と、女に声をかけた。
スラリとした体形に、ベージュのロングコートが良く似合う。
マドカと呼ばれた女は本堂に入ると、冷たい風の入り込む木戸を閉めた。
「クリスマスプレゼントを持って来たのよ」
と、持っていた紙袋をゴソゴソとあさっている。
「ここ一応、お寺なんだけど」
と、言って、カイ君は軽く笑った。
「細かいこと言わないの。昨日も一昨日も続けて職員会議でね。ちょっと遅れちゃったけど」
「マドカさん、まだ良い人いないの?」
「余計なお世話ですぅ」
紙袋から取り出したのは、薄い青色のネックウォーマーだ。
長身のマドカという女は、同じ目線のカイ君の首にネックウォーマーを被せた。
「うん、ちゃんと身に着けられるわね。カイトの作務衣に似合う色を選んだのよ」
「おー、あったかい。襟首、寒かったんだよね。ありがとう」
カイ君の紺色の作務衣に、よく馴染む薄青色のネックウォーマーだ。
「やっぱり幽霊でも寒いのね」
「まあね。俺からは、お経くらいしかあげられないんだけど」
「気にしなくて良いのよ。初詣にはご利益もらいに来るわ」
そう言って、カイ君の腕をポンポンと叩く。
座布団を並べながらカイ君は、
「マドカさんの学校でも、クリスマス感覚ってあるの?」
と、聞いた。
木戸の側でカイ君を眺めながら、
「クリスマスに浮かれてるのは『世の中』様だけよ。クリスマスも変わらず仕事よねーなんて言うのが、当たり前の大人ばっかりよ」
と、女は答えた。
「学校の子どもたちは?」
「サンタさんが来るのを、楽しみにしている子がひとりいたわ」
「中学だよね?」
「周りの子みんなで、その子の夢を死守してたわ。いまどきの子どもたちも良い子が多いわよ」
「そうだね」
「クリスマスが過ぎた途端に街は年越しモードよ。忙しいものだわ」
と、女は小さく息をついた。
「うちはクリスマス前から、のんびり年越し準備してるよ」
と、カイ君は笑う。
「あんたは年末年始も変わらないのね」
「まあね」
「でもまあ、よいお年を」
「うん。マドカさんも」
夜の境内を戻って行く女を見送りながら、カイ君はキンと冷えた空気で深呼吸した。
怪談会のMCを続けるカイ君にも、季節感はある。
幽霊であるカイ君にもプレゼントの届く、不思議な怪談会の会場だ。
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