伝えカエル


 昔々、まだ水道が身近ではなかった頃。

 井戸から汲んだり、かめに水を溜めたりしていました。

 水を桶や柄杓ですくうと、重さも感じずに大きなカエルが入ってくる事があって。

 それは縁起のいいカエルなんです。

 桶や柄杓の中に握り拳ほどのカエルがいて、吉兆を伝えると言われていました。

 もちろん、本物のヒキガエルやウシガエルではありませんよ。

 この辺りの地域では『伝えカエル』と呼ばれる、不思議な存在です。


 心配事や恐れている事がある時。

 こうなるから大丈夫だと言って、安心させてくれるんです。

 例えば、夫は浮気している訳じゃないとか、年寄りの病気はすぐに良くなるとか。

 現代なら、受験に合格できるとか、フラれても次は良縁だとか……。



「――いやぁ、お会いしてみたかったんですよ」

 と、楽しげに話すのは、怪談会MCの青年カイ君だ。


 カイ君の隣の座布団に、透明なガラスの金魚鉢が置かれている。

 薄く水が張られ、中には深緑色の大きなカエルが入っていた。

 大きな目をきょろりと動かし、カイ君を見上げる。

『解説、感謝する』

 カエルが言った。

 口も動かさずに声を伝えているように見えた。

 参加霊たちが目を丸くしている。

 ご機嫌な笑顔でカイ君は、

「いえいえ。お越しいただき光栄です」

 と、答えた。

『私は予言をしている訳ではない。見守る者の言葉を、代わりに伝えてやっているだけだ』

 と、カエルは言う。

「守護霊の言葉を伝えてくれるんですよね」

『そうだ。多くの者は、見守る存在たちの声が聞こえないからな』

 カエルの鳴き声を連想する声質だが、不思議と言葉は聞き取りやすい。

『だが今では、出所でどころに困っている。どこに入っていても、驚かれてしまうからな』

 そう言って、カエルはケコケコッと軽く笑った。

「確かに……もう少し、有名な噂になっていると良いのですけどね」

 と、カイ君は首を傾げる。

『今でも、信じる者は信じるのだがな。驚きつつも、不思議を楽しめる者も少なくはなっていない』

「最近は、どこに姿を見せられるのですか」

からの牛乳パックの中だ。覗き込めば私がいる』

「……意外な場所ですね」

 頷きながら、カイ君は目をパチパチさせた。

 参加霊たちは目を丸くしたままだ。

 カイ君は参加霊たちにもニコニコの笑顔を向け、

「縁起のいい伝えカエル様のお話でした。ありがとうございます」

 と、拍手した。

 まだ呆然としたままの参加霊もいるが、カイ君につられてハフハフと拍手している。

 カエルも金魚鉢の中から、ケコケコと拍手するように鳴いた。



 幽霊による怪談会。

 本当に様々な存在が参加する。

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