師走霊のヘドバン


 竹林に囲まれた香梨寺こうりんじで行われる、幽霊たちの怪談会。

 同じような状態にある霊たちが集まる日もある。


 その日の怪談会には、バタバタと忙しいまま慌ただしく亡くなってしまった死者たちが集まっていた。

 生きた人間と違って、忙しさ自慢をしても喜べない。冷静さには繋がらない。

 ただ落ち着かず、霊体がうわついてしまう。

 気が晴れてかばれるのとは違うのだ。


 並べた座布団に座ってはいるが、キョロキョロしたり何度も座り直してみたり。

 師走に多い、なぜか慌ただしさにアップアップしている参加霊たちだ。



 そこでカイ君は、とにかく体を動かして楽しく盛り上がることを提案した。

 香梨寺の敷地内にある住職一家の母屋から、ラジカセを持ち出し音楽をかける。

 入っているのはメタルのCDだ。

 座布団に正座したまま、カイ君はノリノリで拳を突き上げた。

「今夜は楽しく盛り上がっちゃいましょう!」

 始めは顔を見合わせていた参加霊たちだったが、すぐにヘビメタに合わせてヘドバンを始めた。

 座布団から立ち上がり、踊り出す。


 ひたすらヘドバンする霊、ディスコ風に踊る霊。

 センス良くリズムに合わせて踊る霊もいる。

 生前と違って、踊り疲れることもない。



 円形に並べた座布団に座る幽霊たちが、輪になってヘドバンする姿はホラーだ。

 だが、楽しく踊り出せば、頑張って盛り上げる必要のある忘年会よりも、よっぽど健全に見えてくる。

 そう、無理に落ち着かせる必要はない。

 好きな音楽で良いのだ。

 リズムに合わせて体を動かせば、忙しく動き回らなくてはいけない時でも、ほんの少し気楽に行動できるかも知れない。


 ごきげんなミュージックで眠れないであろう住職に、カイ君はそう言い訳をするつもりだ。

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