虚童君と子守部ちゃん
寄せ合う2枚の座布団に、幼い少年と少女が並んで手をつないでいた。
小学校低学年ほどに見える少年少女だ。
「座敷童じゃなくて、なんだっけ」
と、少年が少女に聞いた。
少女は大人びた表情で、
「
と、答えた。
「うつろわらし」
復唱する少年に頷いて見せ、少女は参加霊たちに、
「この子が虚童。生霊なの。私は
と、話した。
怪談会MCの青年カイ君は頷きながら、
「虚童君と、子守部ちゃん?」
と、聞いた。少女は、
「どっちも名前じゃないの。状態って言うか、役割って言うか」
軽く首を傾げながら、少年に目を向ける。
少年は珍しげに、
その様子に薄い笑みを向けながら、少女が話し始めた。
この子は事故にあって、体は意識不明で眠ってる。
でも、もうすぐ目を覚ますことになってるの。
そういう状態の生霊とか、お迎えがなかなか来ない死霊も虚童っていうの。
子どもって、じっとして居られないから。
生霊の状態で体から離れ過ぎてしまうと、すぐ迷子になる。
悪い霊や魔物に食べられちゃったりもする。
寿命が残っている生霊を吸収すると力を得られるとか生き返れるとか、勘違いしてる悪霊がいるんだって。
死んでもおかしくない状態の生霊なら、死なせても罪に換算されないとか。
そんな訳ないんだけどね。
それで、そうならないように、虚童の時がくるまで面倒をみてあげるのが子守部。
私の役割。
埃が積もった屋根裏に子どもの足跡がたくさん付いてるとか、明らかに子どもがいない場所で遊ぶ声がしてるとか。
そういうのの大部分は、私たちの遊びが原因。
時々、気付いて怖がる人も居るけど……相手は子どもだからさ。
小さい子どもが、そういう状態になってるって、怖がるより、可哀そうだと思ってほしいなって思う。
生きてる人の優しい気持ちだけで、浮かばれる子もいるから。
子どもの姿をした悪霊や魔物もいるし、なんとも言いにくいんだけどね。
ここの怪談会も、面白そうだったから。
今日は、この子と一緒に遊びに来たの。
話し終えると、子守部の少女はにっこりと笑った。
参加霊たちが、ハフハフと拍手する。
薄ぼんやりとした幽霊の両手なので、パチパチとハッキリした音は出ない。
「虚童は人間。私は、逝き先案内人の親戚みたいなもの」
と、子守部の少女が言った。
「……逝き先案内人の親戚かぁ」
逝き先案内人。死者を、あの世へ導く存在だ。
様々な理由で、この世に残っている参加霊たちは苦笑いだ。
その表情を読み取ったのか、子守部の少女は、
「私は子ども専門だから。子どもが相手でも、無理やりな事はしないし」
と、言って笑った。
MCのカイ君に目を向け、
「お兄さんは、私の仲間だね」
と、言う。
カイ君は目をパチパチさせた。
「ここは死後の人たちにとって大切な役割だと思う。私みたいな存在にもウェルカムだし」
そう言って少女は、少年とつないでいる手を揺らした。
少年も楽しげな表情で聞いている。
「それは光栄です」
照れ笑いを見せるカイ君にも、参加霊たちはハフハフと拍手を送った。
「ありがとうございます。それでは、次のお話に移りましょう」
幽霊や様々な存在による怪談会は続く。
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