風流霊


「時々、風流な人が居るんですよねぇ」

 左右に座る友人ふたりと一緒に参加している男性が言った。



 僕たちは、月を観る集団です。

 山間やまあいから昇りはじめる月や、ビルの隙間にちょうど良い具合で浮かぶ月。

 竹藪から見上げる、笹の葉を透かした月なんていうのも風情がありますよ。

 時には、人様の家に上がり込みましてね。

 一番のタイミングで見られる場所から、お月見をするんです。


 我々の目は光の干渉を受けません。

 部屋が明るくても、月明かりはキレイに見えるんです。

 でも生きている人は、部屋の中が明るいと夜空の月は見えにくいですよね。

 時々、わざわざ部屋の明かりを消して、夜空を見上げる人が居ましてね。

 同じものを美しいと感じる同志なのです。

 ところが、我々はなぜか、暗闇の中では姿が見えてしまうようなんです。

 月の光の魔力かも知れません。

 今夜は3人で参加させていただきましたが、僕らは大勢集まることもあるので。

 月夜には妙な幽霊が現れるなどと、同志たちが月そのものを怖がるようになってしまわなければいいのですけど。



 3人の真ん中に座る男性が話し終えると、両側の男性たちも大きく頷いた。

 怪談会MCの青年カイ君は、

「月の光の魔力ですか。不思議ですね」

 と、言って、拍手した。

 参加霊たちもハフハフと拍手する。

 3人のひとりが、

「いつも、月光を浴びているからかも知れません」

 と、言う。

 頷きながらカイ君は、

「なるほど。生きていても幽霊になっても月は変わらず美しいですが、月の光の影響は、少し違ってくるのかも知れませんね」

 と、言った。

「空気が冷えてくる季節も、月がすっきり見えてきれいだ」

 怪談会の会場、香梨寺こうりんじの本堂奥の窓から、優しい月明かりが射し込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る