よくある怪談


 人外の存在が参加していたり、不思議な現象が起きたり。

 参加者全員がこの世の者ではないだけでなく、ちょっと変わった怪談会。

 そんな中で彼女は、怪談らしい怪談を語った。



 バイト先で知り合って付き合うようになった彼と、ツーリングに出かけたんです。

 ふたりともバイクが好きで。

 たぶん、たまたま見かけた廃墟だったんです。

 なんでもないツーリング帰り。

 ちょうど夏の夜で、彼は物足りなかったんだと思います。


 前を走っていた彼が、急に林の手前で止まりました。

 私も隣にバイクを止めて、どうしたのか聞いたんです。

 ヘルメットを外しながら彼は、心霊スポットがあるから寄ってみようって。

 バイクのライトに照らされた横道の奥。

 古そうな木造の建物が、ちらっと見えていました。

 ちょっと、嫌な感じはしたんです。

 でも、彼が楽しそうだったので、少しなら良いかなと思って。


 よく見ると遊歩道のようになっていて、近くに川が流れている音が聞こえていました。

 彼が持つ懐中電灯を頼りに、真っ暗な土の道を進みました。

 昼間なら、キレイな場所なんでしょうけど。

 近くで気配がするんですよね。

 たぶん普通に、人の気配だったんだと思います。

 彼には何度も帰ろうと言ったんですが、私に怖い怖いと言わせるのが目的だったというか。

 そういう楽しまれかたは嫌だったんですが、

『大丈夫だから、もう少し行こうよ』って。

 私の手を引っ張って、強引に進んで行きました。

 でも突然、廃墟の方から大きな音がしたんです。

 何の音だったのかしら。よくわかりませんでしたけど。

 彼は突然の物音に悲鳴を上げて、転げるように駆け出しました。

 たった一つの懐中電灯を持ったまま、私を暗闇の中へ置き去りにしたんです。

 その時に、私は見ての通りの幽霊になった訳ですけど。


 そこまでで、私が彼を怨む理由がありますよね。

 でも、その先なんです。


 突然の大きな物音に驚いて駆け出したあと、いくら待っても私は追って来る様子がなかったそうです。

 圏外じゃない場所まで行くつもりで、私のバイクを残して帰った。

『それきり行方不明。音信不通』

 と、彼は友だちに話していました。


 すぐに戻ったけど私のバイクが無かったとか。

 自分より先に逃げた私の足音が、自分の前で聞こえていたはずだったとか。

 少しずつ捏造ねつぞうしていましたね。

 過去の自分の恐怖体験として。


 でもバイト先の人たちには、その話をしないんです。

 私の両親がバイト先に、私が死んだ事を伝えてありましたから。


 結局、バイク用のドライブレコーダーに、全て残っていたんです。

 バイクはバラバラにされていて、私の遺体よりも、あとから見つかったんですけどね。

 警察の事情聴取では、イノシシか何かの気配に驚いて私もすぐ後から逃げて来たはずだったとか言ってました。

 でも私の遺体が見つかった時には、喧嘩別れをして私が先に帰ってしまったと嘘をついていたんです。

 元々の行き先だった観光スポットで喧嘩をして、それきりだったって。

 警察が調べたドライブレコーダーの映像では、寄り道していて、遊歩道から駆け出して来た彼がすぐにバイクに乗って、私を待つことなく走り出した様子が映っていました。

 彼が私を殺して、慌てて逃げたのではないかと疑われますよね。

 私の両親は、彼が自分から捏造怪談を言い触らしているという悪意も伝えました。


 肝試しが発端の他殺が、彼自身による殺人容疑なんて話に膨らみました。

 それで私はスッキリしたので成仏できそうです。

 その前に、私の口からも言い触らしてやろうと思って。

 この怪談会に参加させてもらいました。



 なんとも満足そうな表情で、女性は話し終えた。

「ありがとうございました……」

 怪談会MCの青年カイ君と、参加霊たちは微妙な笑みで拍手した。

「慌てて戻って、すぐに捜索願いを出すなり事実を伝えていれば、結果は変わっていたかも知れませんね」

 と、カイ君は聞いてみた。

「そうですね。私を殺したのは彼じゃありませんから」

 女性は、楽しげに見える笑顔だ。

 ――死因や真犯人については、触れない方が良いだろうか。

「申し訳ない気持ちを持たない人間が、増えていることが恐ろしい。と、いう結論では、ご不満でしょうか」

 と、カイ君は聞いた。

「いいえ。充分です」

 もう一度、女性は満足そうに頷いた。

「わかりました。肝試し怪談の裏側を聞かせていただきましたね。ありがとうございました」

 カイ君が拍手すると、怪談会の参加霊たちもハフハフと拍手した。

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