温かいお茶


「家出して、悪い人たちにつかまって、殺されて埋められました。もう、ずいぶん昔の事です」

 長い黒髪に長いスカート。

 スケバンという印象の女子高生は、大変な事件をサラッと話した。



 死後の望みは、ひとつしか許されないなんてことは無いんですよね。

 私の場合、怨念と救われたい気持ちが分裂したんです。

 怨念は無意識の状態で、家族や私を埋めた人たちの元へ行きました。

 幽霊になっている私は怨念も抜けているので、気が済むまでこの世をふわふわしています。

 でも、ちゃんと死に切らないまま埋められたから、寒くて喉がカラカラな状態で幽霊になってしまったんです。

 ……温かい飲み物が欲しくて。

 実は、このお寺のお坊さんに、時々温かいお茶をもらっているんです。

 他にも、生きている人に声をかけて、温かいものをもらえたこともありました。

 ねぇねぇって声をかけると、時々振り返ってくれる人がいますから。

 私の声が聞こえない人は無反応ですけど、聞こえる人は振り返ってくれます。

 この姿は見えないことが多いみたいですけど。

 声が聞こえる人は、ビックリして逃げてしまったり、不思議そうな顔できょろきょろしていたり。

 色んな人がいますけど『温かい飲み物が欲しい』って言ってみると、聞こえる人って案外、お茶やスープをくれるんです。

 幽霊を理解できる人って、幽霊に対して優しい人も多いですよ。

 そのおかげで、やっと成仏できそうなんです。



 怪談会のMC、カイ君は頷きながら、

「生前は当たり前に飲んでいましたが、温かいお茶って有難さが身に染みますよね」

 と、言った。

 黒髪の女子高生も、うんうんと頷いている。

「幽霊になっても人間ですから。人の優しさも嬉しいものです」

 と、言うカイ君の言葉には、怪談会に集まる参加霊たち皆が頷いた。

「実は今夜、ポットと急須が用意してありまして」

 本尊の前に座るカイ君は、背後から電気ポットを出して見せた。

 大きな急須と、いくつも重ねられた湯飲み茶碗もお盆に用意されている。

 カイ君が急須のフタを取ると、中にはすでに茶葉が入れられていた。

 ポットから熱湯を注ぐと、優しい緑茶の香りが広がった。


 この世の物に触れなくなった幽霊たちにも、温かいお茶を出せる不思議な怪談会だ。

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