筒穴主


 あまり柔らかさのないペタンコ座布団は、いつも円形に並べられていた。

 香梨寺こうりんじの本堂で車座に集まる幽霊たちにより、本日も怪談会が開かれている。


 その座布団だけは、筒状に丸まっていた。

 怪談会のMC青年、カイ君は身を乗り出し、座布団の筒の中を覗き込む。

「お話し、お願いできますか」

 カイ君が聞くと、座布団の筒が小さく揺れた。

「あっ、はい……あの、このままでも?」

 座布団の筒の中から、若い女性の声が聞こえた。

「もちろんです」

 カイ君に言われ、女性は安心したように息をつくと、筒の中から話し始めた。



 私は、筒穴主つつあなぬしです。

 えっと、密閉された筒状の穴の中に棲む、妖精とか妖怪のようなもので。

 光のない密閉空間に溜まる邪気を食べています。

 最近は、物干し竿の中に棲みついていたんです。

 古い金属の筒で、居心地も良かったんですが、人間に見つかってしまいました。

 人間の道具は、恐いですね。

 金属の筒なのに、ノコギリのようなものでゴリゴリと切ってしまって。

 長かった物干し竿は、すぐに短く分割されてしまいました。

 筒を覗き込む人間の大きな眼も、私から見ると怖いんです。

 でも、やっぱり私を見てしまった人間の方が、ビックリしたのでしょうね。

 分割された物干し竿は捨てられてしまいました。

 今は、目詰まりした排水パイプの中に棲んでいます。

 でも、出口があると食料の邪気が溜まらないんです。

 安心できる引っ越し先を探しています。



 話し終えた女性は、座布団の筒の中で小さく溜め息をついた。

 筒状に丸まった座布団の、ちょうど正面に座っているカイ君は、

「つつ……竹の中はどうですか? 節は入ってますが、中は空洞ですよ」

 と、首を傾げながら言った。

 座布団の筒の中に、能面のような女性の顔が覗いた。

「……竹の中って空洞なんですか?」

「節で区切られてはいますが、筒状になっていますよ」

 座布団の中の顔に、カイ君は笑顔を向けた。

「知りませんでした。竹は、繊維っぽい印象で」

「力強く成長し過ぎるから、僕はちょっと苦手なんですけどね」

 軽く肩を落として見せ、カイ君は、

「穴が無くても移動ができるなら、竹藪は筒だらけでピッタリだと思いますよ」

 と、話した。

「植物の中ですか。考えた事もありませんでした。試してみます」

「良い棲み処が見付かると良いですね」

 座布団の筒の中で、能面のような女性の笑顔が小さく頷いた。


 今夜は風が強い。

 香梨寺の周りの竹藪が、サラサラと葉を鳴らしていた。



 幽霊たちによる怪談会だが、時には妖怪が参加することもある。

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