ロッキングチェアー


 その幽霊たちは、珍しく夫婦で怪談会に参加していた。

 品の良さそうな老人と老夫人だ。

 ふたり揃って、ゆっくりとお辞儀した。

「最近、妻も亡くなりましてね」

 と、老人が言うと、隣で夫人も頷きながら、

「生前は、ふたりで出かける機会が、ほとんどありませんでしたので。こちらへ、参加させていただいたんです」

 と、話す。

「それは光栄です」

 MCの青年カイ君が、笑顔で答えた。

 老夫婦は笑顔を合わせ、話し始めたのは夫の方だ。



 ロッキングチェアーをご存じでしょうか。

 床に着く部分が弧を描いていて、座って背もたれに寄り掛かると、程よく揺れる木製の椅子です。

 普段は家族を見守っていますが、時々ロッキングチェアーに座って過ごすんです。

 私が座ったところで、揺れているようには見えないはずなんですがね。

 どうも、孫娘はロッキングチェアーが揺れていることに気付いているようでして。

 私の姿は見えていませんから。

 ロッキングチェアーが、ひとりでに動いているわけです。

 それでも孫娘は驚くことなく、きっと私たちが戻って来ているのだろうと思ってくれているんです。

 仏壇で線香をあげてもらうのも有難いですけどね。

 戻って来ているならと、部屋も椅子もキレイに掃除していてくれるのは嬉しいものです。



 隣で聞いている夫人も、嬉しそうに頷いている。

「素敵なお孫さんですね」

 拍手しながらカイ君が言った。

「ありがとうございます」

 老夫婦は、揃って会釈する。

「幽霊になっても、ご夫婦でお出かけなさったり。ご家族との関係って、ずっと続くのですよね。一方的な願望では、叶わない事ですから。想い合えるって素敵な事です」

 カイ君に言われ、老夫婦は笑みを合わせた。

 周りの参加霊たちも頷いている。

「ぜひ、またご一緒にお立ち寄りくださいね」

「ありがとうございます」

 ハフハフと、幽霊たちの拍手が広がった。

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