開会前のひととき
もうすぐ、怪談会に参加する幽霊たちが集まる時間だ。
MCの青年カイ君が、
その背後で、本堂の木戸がスッと開いた。
月明かりに照らされ、ひとりの青年が呆然とカイ君を見詰めている。
「……カイト」
「ススギ? 来てくれたのか」
「うぅ……」
飛びつくようにカイ君に抱きつき、泣きべそをかきだした。
「また泣いてるのか」
「あぁ、カイトに触れる。やっぱり、嘘だったんじゃ……」
「いや、死んでるよ。ここが怪談会の会場になってる時だけだ」
肩を落としながら言うと、カイ君も青年の背をポンポンと撫でてやった。
「死者に会えるとか、触れ合えるとか言い触らすなよ?」
「わかってる……そんなこと知られたら、ここで怪談会できなくなっちゃうもんな」
「うん」
「ずっと、行き違いで会えなくて……でも、いつでも会えると思ってたのに……」
「死ってそういうもんだよ」
と、カイ君は抱きつかれたまま苦笑する。
「……お坊さんみたい」
と、青年はつぶやいた。
「ほら、準備しないとだから」
ギュッとしがみ付いていた青年は、やっとカイ君から手を離すと、
「うん。邪魔してごめん。でも、また会いに来てもいい?」
涙を擦りながら聞いた。
「いいよ。ススギも仕事、頑張れよ」
「うん。ありがとう。会えてよかった……」
香梨寺の境内へ、青年は鼻をすすりながら歩き出した。
月明かりの中を、とぼとぼと寂しげな背中が遠ざかっていく。
怪談会には様々な参加霊たちが集まるが、毎回MCの青年カイ君には、生きている友だちが会いに来ることもある。
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