事故車


 座布団に幼い少年が、ちょこんと正座している。

 怪談会に集まる幽霊たちの話を、大きな目をパチパチさせながら聞いていた。

 そして少年に、話し手の順番が回ってきた。

「えっと……」

 少年が視線を向けると、MCの青年カイ君は優しい笑顔で頷いて見せた。

「この前、このお寺で、車の中から出してもらいました」

 少年は、ゆっくりと考えながら話した。



 ずっと前、車にかれて、気がついたら車の中に閉じ込められてたんです。

 僕を轢いた車だってわかりました。

 知らない家の駐車場で、夜も暗い車の中から出られなくて。

 ずっとひとりで怖かったです。

 時々、知らないオジサンが車に乗って来たけど、僕を轢いた人じゃありません。

 僕が叫んでも聞こえないし、肩を叩こうとしても手が通り抜けちゃうし。

 ドアが開いた隙間から抜け出そうとしても、どうしても出られなくて、ずっと閉じ込められていました。

 でも、暗い駐車場で、その家のお姉さんが僕を見つけてくれたんです。

 1回しか目は合わなかったけど、僕が閉じ込められてることに気づいて、このお寺に車を持って来てくれたんです。

 車から出られなかった僕を、お坊さんが車の外に出してくれました。

 僕を轢いた車がずっと目の前に見えてたけど、外に出られたら、だんだん車が見えなくなってきた気がします。

 もう少しで、お母さんの顔が思い出せると思う。

 そうしたら家に帰れるって、お坊さんが言ってました。

 思い出せるまで、ここに居て良いって。



「――聞かせてくれて、ありがとう」

 カイ君に言われ、少年は小さく頷いた。

「お母さんの顔を思い出せるまで、みんなでお話しでもしようって、怪談会に誘ったんですよ」

 カイ君が言うと、集まる霊たちも暖かい目を少年に向ける。

 少年も、小さな笑顔を見せた。

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