暗がりのベンチ


 白いワンピースに長い黒髪。

 うつむき気味で、顔も黒髪に隠れている。

 次の話し手は、誰もが幽霊をイメージできそうな容姿の女性だった。

 MCの青年カイ君は、少し覗き込むように視線を送り、

「次のお話を、お願いできますか」

 と、聞いた。

「……はい」

 黒髪の女性は軽くお辞儀し、顔は髪に隠れたまま話し出した。



 時々立ち寄る、小さい児童公園があります。

 昔は工場や倉庫が集まる土地でしたが、最近は開発が進んで、大きなマンションが増えました。

 マンションの隙間にある、小さい児童公園。

 砂場と滑り台とブランコ。それに、ベンチがいくつか。

 街灯はありますが、木の下にあるベンチは影になっています。


 ある日の真夜中、通りかかると、暗がりのベンチに女の人を見かけました。

 黒っぽい服装で、50代くらいの女の人でした。

 何かを抱きかかえながら、体をゆらゆら揺らしていて。

 虚ろな目で宙を見上げながら、呪文のような歌をつぶやいていました。

 ……仲間だと、思ったんです。

 その辺りで仲間と会ったことは無かったので、声をかけてみようと思って。

 こんばんはって声をかけたら、お辞儀をしてくれました。

 ベンチの隣に座って、この辺りの方ですかって聞いても返事がありません。

 よく見たら、お辞儀ではなくて、体を前後に揺らしていただけです。

 何を抱えているのかと思えば、大吟醸と書かれた一升瓶でした。

 酔っているだけの、生きた人だったんです!

 あんな様子で、仲間じゃないなんて……。

 こんな、私が言うのもなんですが、あれは怖かったです。



「……それは、驚いたことでしょうね」

 笑いそうになるのを必死に堪えていたカイ君だが、参加霊の誰かがフッと噴き出した。

 途端に参加霊たちが、くすくす、ふふふっと笑い出す。

 カイ君も、うっかりつられて笑いながら、

「いや、すみません」

 と、謝ると、黒髪の女性が顔を上げた。

 長い前髪で目元は見えないが、その口元は笑っている。

「お友だちになれなくて、残念でした」

 と、黒髪の女性は言った。

「もし、よろしければ、また怪談会にご参加くださいね」

「ありがとうございます」

 長い黒髪を揺らし、女性はゆっくりとお辞儀した。

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