藁人形


 幽霊による怪談会が開かれている香梨寺こうりんじ

 大きくも小さくもなく、古くも新しくもない。

 周囲の山々や竹藪たけやぶにもよく似合う、ごく普通の質素な寺だ。

 きらびやかな装飾は見当たらないものの、静かで手入れの行き届いた香梨寺は厳かな空気を感じる場所だ。

 辺りに広がる竹藪の笹が、風にサラサラと優しい音を鳴らしている。


 次の話し手は、エプロン姿の女性だ。

 MCの青年カイ君と参加霊たちの拍手に、気まずそうに肩をすぼめている。

「あの……私、悪霊だと思うんですけど」

 そう言った女性の手には、色あせた藁人形わらにんぎょうが握られていた。

「ここに私、はいれてしまって良いんでしょうか。あの、出て行った方が良ければ」

 と、女性はカイ君に不安げな目を向けている。

「生前に人を呪った事があるとか、今でも誰かを怨んでいるという理由だけで、悪霊になるわけではありませんよ」

 優しい笑みのまま、カイ君は言った。

「えっ? そうなんですか?」

「もちろん死後の恨みの強さで悪霊になる人はいますが、あなたはそれより、ご自身が安らかに成仏することを願っているじゃありませんか。『成仏したい』と言えば良いというものでもありませんし。悪霊の入れない香梨寺に入れている時点で、あなたは悪霊ではないんですよ」

 カイ君の言葉の途中で女性は目を潤ませ、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 ずっと握り締めていた藁人形からゆっくりと手を放し、膝上に置くと、女性は両手を顔に当てて泣き出した。

「あの、良かったら、お次に……すみません。私、うれしくて」

「わかりました。では先に、他の方のお話をうかがいますね」

「はい……」

 ハフハフという優しい拍手は、エプロン姿の女性に向けられていた。

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