プレゼント


 今宵も、幽霊たちによる怪談会が開かれている。

 暗く静かな香梨寺こうりんじの本堂は、MCの青年カイ君の明るい声と幽霊たちの笑い声に包まれていた。

 円形に並べたペタンコ座布団に座る幽霊たちが、ハフハフと拍手した。

 薄ぼんやりとした幽霊の両手なので、パチパチとハッキリした音は出ない。


 その老人は、誰よりも話すのを楽しみにしている様子だった。

 自分の番は今か今かと、身を乗り出してカイ君を見詰めている。

 MCの青年カイ君は、

「お待たせしました。次のお話をお願いします」

 と、老人の視線に答えた。

 満面の笑みで会釈すると、老人は話し始めた。



 これは、誰かに言ってやらんといかんと思ってね。

 4月8日。20時10分。これがね、私の命日と死んだ時間なんだよ。

 4月8日は、私の誕生日でもある。

 いや、どうしても言いたかったのは、それだけなんだ。



 老人が話すと、怪談会の参加霊たちは揃って目を丸くした。

「命日と、お誕生日が同じ日なんですね」

 と、カイ君も目をパチパチさせている。

 老人は、満足そうに頷いた。

「いやぁ、怪談でも何でもなくて申し訳ない。だが、とにかく誰かに教えたくてね。こういった機会に、話をさせてもらっとるんです」

 深いしわの刻まれた老人は楽しげに言った。

 薄青色の寝間着ねまき姿で、老人にしては背筋が伸びてシャキッとした印象だ。

「命日と誕生日が同じ。それは確かに、誰かに話したくなりますね」

 カイ君に言われ、老人は何度も頷いている。

「幽霊になると、自分から話せる機会がずっと少なくなるものだ」

「そうですね。ご家族に教えたくても、伝えられないのは残念なことですね」

 しみじみとカイ君が言うと、老人は静かに俯いた。

「気付いてくれるのを楽しみに待っていたよ。自分で気付いた時は嬉しかったからね。だが、妻はまだ、私が死んだことを悲しむばかりだ」

 老人の伸びていた背筋が丸くなる。

 カイ君は柔らかい笑顔のまま、

「でも、ずっと気付かない事はないでしょう。あなたが気付いたとき嬉しかったように、奥様が気付くときが先になるほど、あなたからのサプライズプレゼントになると思いますよ」

 と、言った。

「ほう。サプライズプレゼントか」

 老人は、楽しげな笑顔に戻って頷いた。

「亡くなられた方からのプレゼント。素敵です」

「本当だね。いや、ここに参加してよかった」

 老人に言われ、

「光栄です!」

 と、カイ君は明るく言うと、もう一度拍手した。

 参加霊たちもハフハフと拍手し、老人も拍手しながら頷いている。

「素敵なお話、ありがとうございました。それでは、次のお話に移りましょう」

 ハフハフと、楽しげな拍手が続く。

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