その日の閉会宣言


 楽しい怪談会は続く。

 この世に残らずにはいられない残存霊たちだが、自分の苦労を話し、他の霊たちに聞いてもらう事で気持ちを軽くして逝くのだ。

「えー、それでは……」

 MCの青年カイ君が言いかけたところで、本堂の外から、ギシッギシッと廊下のきしむ音が聞こえた。

 参加霊たちは驚いて木戸に目を向けた。

 本堂の外の廊下を、誰かが床をきしませて近付いて来るのだ。

 幽霊たちが顔を見合わせている。

 すでに死んでいようと、意図しない存在には恐怖する。

 廊下にも、明かりは全くないのだ。

 ギシギシギシと、軽いテンポの足音が近付く。

 暗闇を歩いて来た人物は、すらっと木戸を開けた。

「あ、親父」

 カイ君が言った。

 顔を出したのは、怪談会を開いている香梨寺こうりんじの住職だ。

 住職は本堂に入って木戸を閉じると、床に座り込み、

「もうすぐ朝になるぞ」

 と、言った。

「そっか。じゃあ、今夜はお開きだな」

 頷きながらカイ君は言い、怪談会に集まった幽霊たちに目を戻した。

「宴もたけなわではございますが、お時間となってしまいました。貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。名残惜しいですが、本日の怪談会は終了です。また次回をお楽しみに!」

 明るく言葉を終えると、カイ君は座布団に正座したまま深々と頭を下げた。

 ハフハフという拍手が周囲に散っていく。


 ろうそくや線香の火すらない暗闇の本堂に、座布団が円形に並べられている。

 上座にいたカイ君の姿も消えている。

 ひとり本堂に残った住職は、暗闇の中で立ち上がり、並べられたままの座布団を拾い上げた。

 慣れた足取りで座布団を拾い集めると、本堂の隅に置かれた座布団の上に重ねた。

 住職は仏像の前で手を合わせ、頭を下げる。



 ここ香梨寺の本堂では、夜な夜な幽霊たちが集まり、怪談会を開いている。

 また暗くなる頃に、次の参加霊たちが集まるだろう。


 次回も、またすぐに……。

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