最近の子どもたち


「こんな楽しい場所に、暗い恰好で来てしまってすみません」

 黒いトレーナーに黒いコート、ズボンも黒で統一された大柄な男が言った。

 黒づくめの男は、目元も長い黒髪で隠れているが、口元に薄い笑みを浮かべて頭を下げた。



 最近、ビックリしたことがありましてね。

 けっこうな田舎町をうろうろしているんですが、祖父母の家に遊びに来ていたらしい、都会育ちっぽい男の子を見かけました。

 見かけない子だなとは思いましたが、特に気にすることもなかったんです。

 だって僕は幽霊で、男の子は生きていますから。

 何も考えずに、茂みから出て男の子の後ろを通り過ぎようとしたんです。

 そうしたら、急に飛び上がって、

『ビックリした! なんだ、ただの死んでる人じゃん。熊かと思った』

 って、言われたんです。

 そのまま走り出して、すぐ近くの家の庭に入ってしまいました。

 僕もビックリしましたよ。

 僕は古い霊ですが、周りの時間の進みは理解しているタイプの幽霊なんです。

 次々に色んなことが新しくなっていく世の中で、その時代の人たちを見てきました。

 それで、思うんです。

 最近の子どもって、幽霊が見えることが多いのかもなって。

 なんとなく、根深い理由がありそうな気がするんですけどね。

 幽霊が見えても、それと同時に、それは他の人たちには見えない存在で、自分にも見えるべきじゃない存在ってことを理解してるんです。

 幽霊が存在していること自体に驚かないなんて、そんな時代は今までにありませんでしたよ。

 昔の方が、信心深い人が多かったのに。

 最近の悟り世代って、僕からすると本当に驚く存在です。

 いえ、幽霊でも熊っぽくても、子どもを驚かせてしまって、反省しているという話なんですけど……。



 頷きながら聞いていたカイ君は、

「僕も、最近の子には見える子が多いなって思ってました。不思議ですね」

 と、言った。

 黒づくめの男だけでなく、怪談会に集まる数人の霊が頷いている。

「まあ、僕ら幽霊がこの世に存在しているんですから、幽霊が見える生者も存在していて不思議じゃないんですけどねぇ」

 カイ君のその言葉には、他の霊たちも苦笑しながら頷いた。

「ありがとうございました。それでは、続いてのお話をお願いします!」

 カイ君が明るく言うと、幽霊たちはハフハフと拍手した。

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