手向けの花


 幽霊たちが集まる怪談会。

 ハフハフとした拍手が収まり、次に幽霊たちの視線が向いたのは品のいい高齢女性だ。

 座布団が似合うなどと言っては失礼になるだろうか。

 優しい笑みの和服女性は、座布団に座る姿もキレイだった。

 ゆっくりとお辞儀をしてから、和服女性は話し始めた。



 どうしても、お花を届けたかったんです。

 昔からご近所付き合いをしていた、お爺さんが亡くなられたんです。

 お互い、独居老人同士でしたから。

 茶飲み友だちだったんです。

 でも、私が先に亡くなりましたので……。

 自分が幽霊になっていると気付いた時には、ずいぶん時間が経ってしまっていたんです。

 お爺さんも、亡くなられていましてね。

 どうしても、お花を届けたかったんです。

 生前も、私が庭で育てた花を、お裾分けしていたんです。

 細身のシンプルな一輪挿しに、いつも飾ってくれていました。

 私は花が好きだったので、子どもたちが仏壇やお墓に、いつもキレイな花を供えてくれるんです。

 そこから、1本だけ持ち出しましてね。

 初めは、薄いピンクのバラの花でした。

 成仏なさったのか娘さんを見守りにいかれたのかわかりませんが、お爺さんのご自宅では会えなかったのですけど。

 明るい窓際に、ピンクのバラを飾っておいたんです。

 また少し経って、今度はヒマワリを届けました。

 その時もまた、お爺さんには会えなかったのですけどね。

 なんとなく、誰かが、花を見てくれているのがわかったんです。

 お爺さんと、行き違いになっているのかも知れませんね。

 もう一度会えるまで、花を届け続けようと思っています。



 幽霊たちの、ハフハフとした静かな拍手が鳴った。

 怪談会MCの青年カイ君が、

「お会いして、伝えたい事があったんですか」

 と、和服女性に聞いた。

「ええ、そうなんです。春になったら、一緒にお花見をしようと約束していたんです。でも、その前に私は死んでしまったので。約束を守れなくてごめんなさいねって、伝えたいんですよ」

「いつか、伝えられると良いですね」

「ええ。ありがとう」

 和服女性は、上品な笑みを見せて会釈した。

「こちらこそ、素敵なお花のエピソードをありがとうございました」

 カイ君が拍手し、集まる幽霊たちも笑顔で拍手している。

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