第5話 春と凛として舞う1人の魔法使い


 純白の龍が純白の翼を広げ、花弁と共に踊るように蹂躙する。道端の花が踏み潰されるように。


 「綺麗……」


 サクラの口から思わず声が漏れる。目の前でデスアライヴ装備が蹂躙されていると言うにも関わらず、サクラは目の前の光景に見惚れていた。その時、奥からデスアライヴの内の1人が全力で腕を振って走ってくる。


 「そこの人!!逃げr


 首が宙を舞っていた。


 「……!?」


 目の前で首が飛んだ。瞬間、サクラは正気になった。


 「ま、マズイ……人が……死ぬ!」


 鎌を握り締め、高速化魔法を使用して純白の龍の下まで潜り込む。


 「デスサイザーァァ!!」


 闇の斬撃を龍に放つ。しかし、効いていない様子だ。


 「この前の必殺技による攻撃力低下がデカイ…」


 しかし、それだけでは無いようだ。ギミック的な攻撃無力化だった。


 「な、なにしてるんだ!!」


 その行動を見ていたデスアライヴ装備の1人がサクラに向かって叫ぶ。


 「逃がしてやる!!俺が【春天龍】を引き受ける!!」


 「違う!!ソイツは!ソイツは、春天龍じゃ、ないんだ!!」


 そのデスアライヴ装備の背後に花弁が集まる。


 「まさか!」


 その花弁に向かって純白の龍が"吸収"される。


 「逃げやがれ!!お前らじゃ何もできねぇ!!夜龍の名にかけて、お前らを助けてやる!!」


 花弁が龍の形を形成し、翼を広げる前にサクラは花弁に鎌を投げる。


 「夜龍……?まさか、NW!?」


 「逃げろつってんだろ!」


 その圧にデスアライヴ装備は怯え、逃げて行き、他のデスアライヴ装備達も逃げて行った。


 デスアライヴ装備の背中を見届けてサクラはステータス画面を開き、中から心春ノ鎌を取り出し、装備する。


 「勝てる確率は100000分の1にも満たない。でも、お前から逃げられる確率も100000分の1にも満たない。結局、戦わないといけねぇんだよ。」


 龍の形を形成した目の前の【春天龍】は桃色の翼を広げ、冷徹な目で睨んでくる。


 「よぉ!!春天龍!どうやらこの世界は現実らしいんだ。俺もお前も、死んだらそこで終わり。そこら辺に転がっている18の死体はここで終わりなんだとよ。ただまぁ、別に目の前で1人死んだからといって、俺が引け目を感じているわけでもない。それらは諸行無常だ。」


 春天龍がサクラを睨み低く唸る。


 「そう睨むなよ。これから俺達が行うのは、殺しあいなんだから、よ!!」


 鎌を握り締め、龍に向かって斬りかかる。


 翼を広げて、鎌を持つ男に向かって攻撃を仕掛ける。


 「心春の乱舞!!」


 生命の力が込められた刃を飛ばし、春天龍のブレスを避けながら攻撃を与えていく。


 「一撃でも喰らったら死ぬ気しかしねぇ……」 


 死を肌に感じながらサクラは紙一重の動きで避けていく。 


 「古から伝わり、VRにも引き継がれたフレーム回避だ。何故かこの世界にもフレーム回避の"概念"があるんだよ。」


 そこから20分間、フレーム回避を連続で成功させ続け、少しずつだが、確実に春天龍のHPを削っていった。


 「はぁ、はぁ、スタミナ管理キッツ。」


 でも、戦えてる!!


 善戦している。と思っていた。だが、一部の鬼畜ゲームにはあるのだ。一定ターン、一定時間内に一定のダメージを与えないと即死技が放たれる事が。


 「なんだ、このモーション……」


 春天龍が翼を畳み、口腔に力を貯める。


 「急に……」


 次の瞬間、春天龍のブレスが地面を抉りながらサクラを目掛け放たれた。


 サクラの足は何故か動かなかった。


 視界の端にこちらに向かってくるカルマの姿が見える。しかし、その距離は20m以上。光の速さと同等のブレスに追い付けるわけもなく、カルマは目の前でサクラがブレスに包まれるのを止められなかった。


 「サクラァァァァァァ!!!」


 地面が抉られサクラは跡形もなく消え去ってしまった。


 「嘘だろ………」


 カルマが膝を付き、絶望する。


 


 「助かったねぇ。」


 


 氷結の気配を感じ、カルマが振り返ると、炎のように揺らめく冷気を纏ったローブ姿の者が立っていた。その足元にはサクラの姿が。


 「サクラ……?」


 「あれ……生きてる……」


 二人を見つめて冷気を纏った人がローブのフードを上げる。その顔は整っていて、赤を基調とした髪色が特徴的な髪の毛を後ろで束ねた少女が立っていた。


 「さくら!かるま!たすけられてよかったぜ!」


 少女は腰に両手を当ててドヤ顔を披露する。


 「なんで、」


 「リンは、わかってたよ?なんでわかんないの?」


 「その声に、その喋り方に、リンって!?」


 そう。今、目の前に立っているのはサクラとカルマのチームメンバー。4人の内の三人目である、atlSRin。通称、リンだ。


 「リン!!リンだ!!」


 「リンだよ!さくら!!」


 「マジかよ。」


 「まじだよ!かるま!」 



 最高の仲間と最高の再開を果たしたのだった。


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