第4話 聖なる街とSD
異界歴1年4月2日ー聖なる街ラヴィンス・大聖門前橋ー
二人は遂に2つ目の街、ラヴィンスにたどり着いた。
「遂に来たぞ、サクラ。ここがこの世界最大の街だ。」
「すげぇ!エモい。」
夕日に照らされたお堀が赤く光り、ラヴィンスの周囲に聳え立つ純白の四つの大柱がなんとも言えぬ存在感を放つ。
「まずは、街に入るとこからだけど……」
聖なる街と言われる程の街だ。服装や見た目などを正さないと中に入る事すら拒まれてしまう。しかし、二人の服装は一日中走り続けた為、泥だらけだ。
「服か……まぁ、一旦始まりの服に………あ。」
「ごめん。あれは、泥よりも汚いもので汚されてたのでローグ宿屋に置いてきた。」
そう。サクラはゲーム開始直後に放尿をしてしまい、この世の何よりも汚ならしい存在に成り果ててしまっていた。
「えー。えー。うーん………一旦、先に春の大地に行く?LEVELが足りないだろうけど…下見にだけ……ね?あと、まぁ、宝箱から装備でてくるかも……あ!俺が先に行って装備買ってくるよ!スプリングウルフで3万ゴールド手に入ったし……」
「じゃあ、俺は、春の大地を下見してくるよ。終わったらメッセージくれ。」
「えー……わかったよ。」
カルマは明らかに不満な態度を示した。その理由は彼は昔から新マップや新ワールドなどの新しいエリア探索はフレンドがいるならフレンドと共に行かないと気がすまないタイプの人間だからだ。
「じゃあ、行ってくる!高速化魔法……」
高速化の魔法を使いサクラはお堀を迂回して走り去った。
「はぁーじゃあ、行くか。」
サクラの背中を見届けての頭をかきむしりながら橋を渡ってラヴィンスに入っていく。
異界歴1年4月2日ー聖なる街ラヴィンス・大聖門関所ー
橋を渡った先には大きな門があり、そこでは聖騎士による検査が行われていた。
「あ、すみませーん……旅の者なのですが…」
「冒険者さんですか。今日は多いですね…では、身分を証明できるものはありますでしょうか?」
「身分証明?どんなものを皆さん出すのでしょうか?こういうのは初めてでして……」
「そうですね、冒険者さんだと、ステータスリングなどですかね?あれは協会が認めた者でないと発行されないので安心です。」
「あー!では、これを。」
「はい!ステータスリングですね!では、どうぞ!」
「ありがとうございます」
カルマが関所を通り抜け、街に入る。
異界歴1年4月2日ー聖なる街ラヴィンスー
白を基調とした家々が並び、夕日に照らされ赤みを帯びていた。人々の行き来が激しく、始まりの街イリステの非では無い程の人口密度だった。
「すげ。さて、服屋は、ん?あれは……デスアライヴ装備……」
たくさん居る人間の中に異様に目立つ集団を見つけた。その集団は一部を除いて皆、エンペラーゲームの同会社が発売しているPVPゲーム、デスアライヴのセーブデータ引き継ぎ特典のデスアライヴ装備を装着していた。
「プレイヤーか。」
その時、カルマの肩を誰かが叩いた。しかし、意識外からの急な出来事だったのですぐに叩いてきた手を掴み、投げ捨て、刀を構えた。周りの人々は辺りから逃げ、人混みの中に大きな穴が出来てしまった。
「いってて……」
投げ捨てられたのは、漆黒のローブを纏った少女だった。少女はゆっくりと立ち上がり、ローブについた砂ぼこりを払い、フードを被る。
「やれやれ、カルマ君は乱暴だね。」
「なんで俺の名前を知ってる。」
カルマは少女が自分の名前を知っていることに対して疑問を抱き、刀を鞘に戻し、居合抜刀の姿勢になった。
「返答次第では切り捨てる。」
「やっぱり乱暴だね。」
「答えろ。なんで俺の名前を知っている。」
少女は、はぁと息を吐く。
「やれやれ、僕はリーダーから聞いたんだよ。カルマ君、サクラ君、ハル君、リン君。この4人はとても強く、僕達の最大の障壁となるってね。」
カルマは耳を疑った。サクラの名前が出ることは予想していたが、ハルと、リンという親しいフレンドの名前が出るのは予想外だったし、その二人がここにいる可能性が提示されてカルマは驚愕した。
「ハルとリンがここにいるのか。」
「さぁね?君達が集まることはリーダーからしたら一番あってはならないことなんだろうね。」
「リーダーとはだれだ?そもそも、お前は何者だ。」
カルマは居合抜刀の姿勢を崩さず聞く。
「んー、答えないと切られるヤツだよね。僕は四天龍の攻略クラン、四季の破壊者略してSDの副リーダー、刹那だ。よろしくね!リーダーは、ふれぐらんすばぁなぁだよ!」
「SD……国際的なクランみたいだな。」
いつの間にか刹那の背後にはデスアライヴ装備の集団が集まっていて、その中には外国語を喋っている者も多数居た為、カルマはそう発言した。
「そうさ!僕達は、来るもの拒まず、去るもの追わずってヤツだもん。さて、じゃあ、死んでもらうよ。って、思ったけど、えだまめ紳士がまたやらかしたね。命拾いしたね!じゃあね!!」
刹那は漆黒の霧を発生させ、中に消えていった。
「SDに、刹那とふれぐらんすばぁなぁ、えだまめ紳士……デスアライヴ装備…さて、刹那のステータスは、勝てるものではなかったな。てか、プレイヤーがなんでもうここに……あ。そういや、サクラが目覚めたのって一時間後ぐらいだったな……やっべぇ。」
カルマは少々抜けていた。
異界歴1年4月2日ー春の大地・禁足地前ー
桜の木が沢山生えて、様々な花が咲き誇る美しい大地、春の大地だ。
「こんなふうになってるんだ。」
サクラは辺りを見回して感動する。
「うわー、すげぇ、ん?なにか、くる…?」
すぐに草むらに伏せる。そうすると、和服の男を先頭にデスアライヴ装備の集団が向かってきた。
デスアライヴの集団から1人の豪傑が出てくる。
「ここからは、春の大地、禁足地だ!心してかかれ!では、ふれぐらんすばぁなぁ様。お願い致します。」
豪傑が和服の男、ふれぐらんすばぁなぁに鼓舞をお願いする。そうすると、和服の男は腕を突き上げる。
「行け!全プレイヤーの救世主となるのだ!!」
その声を聞き、集団は狂喜乱舞する。そのまま全員が春の大地へ踏み込んで行く。ふれぐらんすばぁなぁをただ1人残して。
「おい。ふれぐらんすばぁなぁ……」
サクラがふれぐらんすばぁなぁの肩を掴む。
「サクラ……」
「なんでここにお前がいる。ふれぐらんすばぁなぁ。お前はこういうゲームやんないと思ったんだけどな。」
ふれぐらんすばぁなぁはサクラの10年以上前から一緒にいる幼馴染みだ。そんな男が何故かこの世界にいて、目の前で味方を特攻させている。この状況にサクラは苛立ちを感じた。
「さぁな、趣味だ。貴様に指図される筋合いはない。」
「はぁ?俺の趣味にはずかずか入ってくクセ……に……あ?貴様?てめぇ、ふれぐらんすばぁなぁはな、俺の事を呼ぶときはお前か、サクラ、なんだよなぁ!だれだ。」
サクラはふれぐらんすばぁなぁ?から大きく後ろに飛び、戦闘姿勢をとる。
「はぁ、ボロが出てしまいました。ふれぐらんすばぁなぁ様。」
ふれぐらんすばぁなぁ?が和服を脱ぎ捨てると、中から黒いスーツの男が現れた。
「お初にお目にかかります。私の名前はえだまめ紳士。」
えだまめ紳士は紳士の名に恥じぬ態度でサクラにお辞儀をした。
「えだまめ紳士……何者だ。ふれぐらんすばぁなぁの手下なのか。アイツが?手下を?」
「ええ。私はふれぐらんすばぁなぁ様と刹那で作り上げたデスアライヴでのクラン、SDの副リーダーでございます。」
「デスアライヴ……あ!てか、さっきのデスアライヴ装備集団、お前はついていかねぇのかよ!」
「ええ。当然じゃないですか。彼らはLEVELが比較的低い為、我々と共に戦うとなると足を引っ張りかねません。なので、特攻させる事で春天龍のステータスや技の内容を少しでも確認させる。それが我々に彼ら雑魚が貢献できる最高の仕事です!素晴らしいですよね!」
えだまめ紳士は腕を広げ、サクラに感想を求める。そして、そのサクラはそんなえだまめ紳士に対して怒りを露にしていた。
「えだまめ紳士……何者だ。ふれぐらんすばぁなぁの手下なのか。アイツが?手下を?」
「ええ。私はふれぐらんすばぁなぁ様と刹那で作り上げたデスアライヴでのクラン、SDの副リーダーでございます。」
「デスアライヴ……あ!てか、さっきのデスアライヴ装備集団、お前はついていかねぇのかよ!」
「ええ。当然じゃないですか。彼らはLEVELが比較的低い為、我々と共に戦うとなると足を引っ張りかねません。なので、特攻させる事で春天龍のステータスや技の内容を少しでも確認させる。それが我々に彼ら雑魚が貢献できる最高の仕事です!素晴らしいですよね!」
えだまめ紳士は腕を広げ、サクラに感想を求める。そして、そのサクラはそんなえだまめ紳士に対して怒りを露にしていた。
「もし、もしだ。もし、彼らが死んだらどうするんだ。」
「ええ!そこです!そこなのです!私は彼らを使用して、この世界における、死の概念を調べるのです!完璧です。」
「完璧じゃねぇよクソが。完璧ってのは、命に変えてでも壁を守り抜いた男から生まれた言葉だ。てめぇみたいな人格破綻者が使うんじゃねぇ。」
サクラは大鎌を構える。
「人格破綻者?おやおや、それは、アナタの事では?アナタの話をふれぐらんすばぁなぁ様から聞きました。アナタがこれまでしてきたこと、全てが理解出来なかったんですよ。」
えだまめ紳士は双剣を構える。
「お前に理解されてたまるものか!!」
サクラとえだまめ紳士、願う者と破滅主義者の己の存在意義を賭けた死の戦いが始まる。
「【地昇鎌】!!」
地面に鎌を突き刺し、地面ごと抉りながら斬撃を放つ。
「これは、不味いですね。」
双剣を逆手にして、回転しながら回避する。その回転を利用して無数の斬撃を飛ばす。
「【高速化魔法】!!」
高速化して横に向かって走り抜ける。
「……良かった。当たらなかった。」
実は今のサクラはスプリングウルフ戦での【死皇帝鎌】の副作用により力のステータスが大幅にダウンしている。
「バレたらまずいな。もう一度…」
「何してるんです?」
双剣に炎を纏わせて花を燃やしながらえだまめ紳士が歩み寄ってくる。
「なにしてんだよ。」
「延焼反応を試してるんですよ。あぁ、人でも試したいものですよね!!」
えだまめ紳士が腕を広げ双剣を振り回す。
「腕広げすぎだわ。デスサイザーァァァ!」
高速化により、ものすごい速さでえだまめ紳士の懐に駆け寄り、切り裂きの技を放つ。
「デス・パレード」
えだまめ紳士の双剣が闇を纏い、死ノ鎌デス・サイザーを相殺し、無数の連撃を放つ。
「くっそが!」
腕に多少の被弾をしたものの、すぐにえだまめ紳士の攻撃範囲から逃げる事が出来た。
「さすがデスアライヴでPVPをこなしてきたプレイヤーだ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
再びえだまめ紳士が攻撃の姿勢をとる。それに対抗してサクラも攻撃の姿勢をとる。
「いくぞ。」
「いきますよ?」
その時、背後の春の大地の禁足地から悲鳴が聞こえた。
「!?そうだ!デスアライヴ装備の集団!!」
「始まったようですね。春天龍による蹂躙が!!」
えだまめ紳士は歓喜する。しかし、サクラは知っている。死の恐怖を。それは、スプリングウルフの時も感じた。しかし、スプリングウルフの時はそこまで辛い戦いではなかった。これは、ゲームではよくあることだ。ボスキャラに対してビビり、異様なまでに緊張し、慎重にレベルを上げる。しかし、それは、杞憂でボスキャラは案外簡単だった。ということが。しかし、この世界はゲームではない。現実だ。今、自分が握っているのは人を殺せる武器であり、あの中にいる龍は人を殺せる。
つまり、今、なかにいる者が感じている死の恐怖は本物だ。
「人が死ぬのは、ダメだ!!」
サクラはえだまめ紳士に構いもせず、禁足地に踏み入る。
「……やれやれ、愚者は救えませんね。」
えだまめ紳士は闇に消えていった。
もうとっくに日は落ちていた。
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