第88話 無能な味方が一番怖い

「<機械天使ヘルオード>で<スケイルアーマー パギルダン>に対し攻撃!その際に効果を発動して相手の効果を無効化する!」


 ダブル・ジョイント召喚がシーズン11であまり使われていない理由の1つにこの「効果無効化」に弱いというのが上げられる。

 <機械天使ヘルオード>は戦闘を介さなければ無効化できないため[盾持ち]は実質的に無効化できてはいないが、折角のOUとそれ用に残していたマナが無駄になってしまった。

 このような自体が度々起こりえる為、[効果無効]や[魔法無効]を所持していないダブル・ジョイント召喚以外はあまり使用されなくなっているのだ。


「更に、<アパシアの宝剣>でプレイヤーを攻撃!」


 天馬を思いっきりシバくヘンリエッタ。

 そして殴った後にしばし動きが止まり、長考に入る。


([作戦]が反応しない…?)


 現状、天馬に残っている作戦は1枚。

 しかしそれが反応しないのだ。


(ユニット召喚、プレイヤーへの攻撃、ドロー、魔法使用、魔法によるカードドロー、ユニット破壊、効果使用…どれでもないだと?)


 こうなるとヘンリエッタも下手に動けない。

[作戦]は発動条件が厳しければ厳しいほど飛躍的に効果が高まるからだ。


(残ったマナは4、出せるカードもある、しかし…)


 しばし、<アパシアの宝剣>の直刃を掌で叩き、思案する。


「…<機械天使ボルクナール>を召喚!<ゴブリンのイカサマディーラー>を効果で破壊!」

 機械天使ボルクナール 4 2000+4000/3000+4000


 このカードがフィールドに出た時、ユニット1体にxダメージを与える

 このxは強化されたアタックの数値に等しい

 この効果で与えるダメージの上限は7000となる


 この<機械天使ボルクナール>はセメタリーに送られたものを<機械天使カーダー>で回収したものである。


「[作戦]発動!<無能な味方が一番怖い>!相手フィールド上に<勝ち馬乗りのゴブリン>を召喚する!」

「何!?」

 無能な味方が一番怖い 2

 自分フィールド上のユニットが存在せず、相手ユニットが2体以上存在する時に発動できる

 <勝ち馬乗りのゴブリン>を相手フィールド上に召喚する。


 ぽん!

 という音と共にヘンリエッタのフィールド上にいかにも小物、と言った風体のニヤニヤしたゴブリンが出現した。

 ヘンリエッタに対し露骨な媚の視線を送り、揉み手までしている。


「なんだこいつは…」


 勝ち馬乗りのゴブリン 0/0/2000

 このユニットはあらゆるコストに使用することができない

 1ターンに一度、余計なことをする


『ヘッヘッヘ…ヨロシクオネガイシマヨ!ダンナ!』

「ぬ…」


 <無能な味方が一番怖い>このカードはなんと召喚されたキャラが喋るのだ。

 そして効果は書いてある通りの事をする。


「ターン終了だ」

「では僕のターン…ワースカード<ゴブリンの巫女ファーン>を使用します」

 ゴブリンの巫女ファーン 6/2000/5000

 ワースカード

 このユニットがフィールドに出た時、セメタリーに存在する<ゴブリン>と名の付くユニットを3枚手札に戻し、コストを3下げる


 シーズン4で登場したワースカード。シーズン11では当然ながら禁止カードであり、今後永劫解除されることはないと断言できる一枚。

 3枚戻して全て3コストダウン、はシンプルに強く、特に最強ゴブリン軍団が闊歩するシーズン11では反則級の強さである。


「僕はこの効果で3枚手札へ戻します」


 戻すカードは<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒><ゴブリンのぽんこつ爆弾職人>そして<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>の装備時効果でセメタリーへ送った切り札を手札に戻す。

 <ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>はセメタリーからの確定サーチにも利用できるのだ。


「まず、0コストで<ゴブリンのぽんこつ爆弾職人>を召喚し、更に1コストで<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>を装備…残った3コストで<怠惰なゴブリン>を召喚します」

 怠惰なゴブリン 3/1000/4000

 このカードの効果は、デッキ内にゴブリンが30枚以上存在しない限り発動することができない

[攻撃不可]

[盾持ち]

 このユニットがフィールドに登場した時、1ターンの間お互いのフィールド上のユニット全てのアタックの値を0にする


 優秀な時間稼ぎ用のユニット。

 自軍の攻撃力も0になってしまう点は召喚前に攻撃しておけば問題にはならない。

 <ゴブリン>においては自分で攻撃することもあまりない上、アタックも全体的に低いことも高い評価につながっている。


「<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>でプレイヤーを攻撃し…ターンを終えます」

「私のターン…ぐぅ!」


 ヘンリエッタのデッキから破裂音が2回連続で響く。

 運悪く2発爆弾が炸裂し、前ターンの爆弾のダメージと合計しヘンリエッタのライフは36000まで減少した。


(こちらの攻撃力は0で、このターンで行動するのは難しい…ならば)


「手札の<機械天使ヴァルキュリアZERO>を公開し、4マナを支払い<聖矛ゴールデンエンゼル>を装備!、<怠惰なゴブリン>攻撃し破壊する!」


 <怠惰なゴブリン>は破壊され、ヘンリエッタのライフは40000まで戻る、だがその瞬間、<聖矛ゴールデンエンゼル>がバラバラに砕けた。


「何!?」


 一瞬、天馬の[作戦]か?とヘンリエッタは思ったが既に全て発動していることを認識し、通常絶対に起こらない状況にやや焦っていると、足元から声が聞こえてきた。


「ヘッヘッヘ、ダンナ…ソノブキ…テイレシテオキマシタゼ」


 <勝ち馬乗りのゴブリン>が自信満々にヘンリエッタに向かってサムズアップする。

 そう、「1ターンに一度、余計なことをする」が発動してしまったのだ。






「余計なこと」の効果は多岐に渡り今のであれば、装備の使用回数を一回減らす効果が発動した。


「こんの…」


 怒髪天とはこういうことだろう、という阿修羅のような顔で<勝ち馬乗りのゴブリン>を睨みつけ破損した<聖矛ゴールデンエンゼル>の柄を投げつける。


「あんた!性格悪いね!」

「…皆に言われます」


 天馬の返答に自覚はあるんだな、と観客全員が思う。


(しかし…厄介だね)


 ヘンリエッタはこの<勝ち馬乗りのゴブリン>の処理のしづらさを瞬時に理解した。

 まずあらゆるコストにできないというのはジョイント召喚、合体、ダブル召喚どれにも利用できない訳で、こちらに有利になるような処理ができない。

 更に味方ユニットというのが最悪で、ノーコストで処理するには相手に破壊して貰うしか無いが、そんなことを天馬がするわけがない。

 なので、こちらでなんらかの小細工をして処理する必要性が出てくるが、それをするのだってカードとマナを使用してしまう。


(カードを引けば爆弾が、長引けば間違いなく何かで仕留められる…)


 ヘンリエッタが警戒しているのは<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>で落とし、<ゴブリンの巫女ファーン>で拾いあげたカードだ。

 次か、その次のターンで確実に出してくるであろうそれを考えると<勝ち馬乗りのゴブリン>の処理を手札のカードで対処をするのは流石に厳しい。


(<機械天使アルガートナー>があればね…)


 そう考えるがすぐに手札に来てないのであれば仕方がないと切り替え、今あるものでベストをつくすだけだ、とヘンリエッタは思い直す。


「私は手札の<機械天使バーレクス>を召喚しターンを終える」

 機械天使バーレクス 4/3000+1000/4000+1000

[盾持ち]



「では僕のターン、<ゴブリン暗殺部隊>を召喚し、効果で<機械天使ヘルオード>を破壊します…こちらは<ゴブリンのぽんこつ爆弾職人>が破壊されたようですね」

 ゴブリン暗殺部隊 7/2000/2000

 この効果は手札からコストを支払ってフィールドに登場した時に発動できる。

 自分フィールド上のこのカード以外の<ゴブリン>と名の付くユニットをランダムで破壊する

 相手フィールド上のユニット1体を指定して破壊する


 <ゴブリン>のユニット除去カード。

 8コストで2000/2000は劣悪に見えるが、このカードの場合効果が本体の為破壊魔法にユニットがおまけでついてくる、と考えるのが適切で、そう考えると非常に強い一枚。

 ただし、自軍にこのカード以外の<ゴブリン>が存在していないといけない為、2コストや1コストの<ゴブリン>を手札に忍ばせておくのはこのデッキをプレイする上での必須テクとなっている。


「手札の<機械天使ヴァルキュリアZERO>をセメタリーへ送り、タフネス7000で[蘇生]!」

「更に僕は[作戦]を1枚使用し、<ゴブリン特製不発弾巻き付き棍棒>でプレイヤーを攻撃、更に<ゴブリンの巫女ファーン>で<機械天使バーレクス>を攻撃しターンを終えます」


 これで現状天馬のライフは34000、ヘンリエッタは37000。

 数値的には拮抗しているが場のユニットは<機械天使ボルクナール><機械天使ヘルオード><機械天使バーレクス>、味方と言って良いのかは定かではないが<勝ち馬乗りのゴブリン>がいるのに対して天馬は<ゴブリン暗殺部隊><ゴブリンのキノコ栽培士>に手負いの<ゴブリンの巫女ファーン>と、一見して天馬側がかなり不利に見える。

 だが、<ゴブリン爆殺>はここからが強い。


「私のターン…ちぃ!」


 このターンも2連続でドローしたカードが炸裂する。

 これでヘンリエッタのライフは31000、ついに天馬を下回る。

 <ゴブリン爆殺>はデッキ枚数が少なくなってくる終盤からのダメージが洒落にならないのだ。


(どうする?)


 ヘンリエッタは<勝ち馬乗りのゴブリン>の処理をどうするかに思考を巡らせる。

 はっきり言って目障りであるし、どうにかできるものならしてしまいたい。

 だがこいつに割くマナで更に攻勢をかけることができるのも事実なのだ。

 ただでさえ相手が確実に握っているであろう切り札の性能の予測ができないのだ、ある程度の被害は覚悟の上と割り切って無視するのが良い、という考えに傾き始める。


(しかし…)


 皮肉にも常に闘いに特化させ鍛えたヘンリエッタのカードラプト脳が決断を鈍らせる。

 なにせ<勝ち馬乗りのゴブリン>のテキストには「邪魔をする」としか書かれていないのだ。

 当然ながら今まで食らった[装備]の回数減少以外にも何かやってくるであろう事は目に見えている。

 ヘンリエッタは常に勝利を見据えて戦っている。

 その勝利への執念が<勝ち馬乗りのゴブリン>という不確定要素を見過ごせないのだ。


 しばし考えた後、ヘンリエッタは不確定要素の排除に乗り出した。


「私は<血濡れの矛>を装備する!」

 血濡れの矛 7

 ワースカード

 このカードは発動時にフィールド上の味方ユニット1体を選んで破壊しなければならない

 これをプレイヤーに[装備]する

 装備したプレイヤーのアタックを2000+x上げる

 [装備]時にライフをx回復する

 2回攻撃を行うとこの[装備]は破壊される

 xの値は破壊したユニットのアタックの数値に依存し、最大4000となる


 コストが非常に高いが、これを使えば即死圏が格段に広がる高性能な武器

 なにせ攻撃した後にこれを装備して破壊すれば実質的な2回攻撃となるからだ。

 更にこのカードは陣営指定などが一切ない汎用装備の為、

[装備]と相性の良いデッキには当然のように仕込まれていたし、普通のデッキにもたまに投入されていた。

 回復削除して6コストにしてくれとは使用者から良く聞かれた言葉である。


「破壊するカードは当然、<勝ち馬乗りのゴブリン>だ」


 変なうめき声と共に<勝ち馬乗りのゴブリン>が消滅し、それと同時に真っ赤な槍がヘンリエッタの手元に出現する。

 一瞬、天馬の貼った[作戦]に懸念を覚えたがここは突っ張るべきタイミングだとヘンリエッタはそのまま攻撃を開始する


「<機械天使バーレクス>でプレイヤーをアタックする!」

「[作戦]発動!<胞子拡散>!」

「やはりか!」

 胞子拡散 2

 プレイヤーが攻撃を受けた時に発動する

 ランダムなまだ攻撃していない相手ユニット1体をこのターンの間だけ行動不能にする


 相手の場に攻撃できるユニットが2体以上いないと発動しないため使い所が難しい[作戦]カード。


「この効果で<機械天使ボルクナール>はこのターン攻撃不能!」

「その程度で止まるか!<機械天使ヘルオード>と<血濡れの矛>でプレイヤーを攻撃!」

「ぐぁ!」


 食らったダメージは合計16000。

 流石にこのダメージは多少鍛えてやや打たれ強くなった天馬といえど耐えれる物ではなく、体勢を崩しすっ転ぶ天馬。

 この連続攻撃で天馬のライフは18000まで削られ、次のターンで決着の付く危険水域に入った。


「…少しは堪えたみたいだね、私はこれでターンを終えるよ」

「いってて…正直…ここまで追い詰められるとは思っていませんでしたよ」


 そう言いつつも声色は一定で、立ち上がりパンパンと服を叩き誇りを払うしぐさをすしながら言葉を紡ぐ天馬。

 それはヘンリエッタから見てまるで自分の予定通りに事が運んでいる、とでも言いたげな態度だった。


「ヘンリエッタさん、お見せしますよ…僕の世界の切り札を」


 そう言った天馬の顔は今日一番の悪人顔であった。


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