第82話 爆発

「…能力の正体を知らずに戦うのはいささか不公平であるから教えよう、その[爆発]は発動するとそのユニットがいるフィールドの持ち主……つまりはエニシダくん、君に対しランダムで1000~4000のダメージを与えるものだ……今のは3000ダメージだったようだね」


 天馬は笑顔で、言葉の抑揚と感情を抑えて諭すように言う。

 あくまで天馬は教師として、大人として接しているつもりなのだが、他の人間から見れば冷徹に淡々と事を運ぶ冷徹な化け物にしか見えない。


「…つまり場にいるユニットが破壊されただけで俺にダメージが来る、と」

「そういう事だね、では僕のターンだ……まず、手札の<竜牙>で君の<拒絶の剛腕アンチノック>を破壊する」

「ぐう!」


 <竜牙>が<拒絶の剛腕アンチノック>に突き刺さった瞬間、同じように爆発しエニシダはダメージを受ける。

 これでエニシダのライフは35000となる。


「僕は更にこのターンで<偵察機械ゲトリマー>を召喚する」

 偵察機械ゲトリマー 4/3000/1000

 このユニットが破壊された時、<偵察ビーコン>を2体召喚する。

 この<偵察ビーコン>は[合体]の素材にはできない。


 偵察ビーコン 4/1000/1000

 このユニットは[合体]の素材に使用することはできない


 シーズン11での禁止カードで、理由は言わずもがなである。

 交換会で競り落としたカードではあるが、このカード自体は特に珍しいということではないため使っていても不自然ではないだろうということで天馬が借りることになった。



(さてどうするか、俺の場には爆発する<金剛壁>と<死霊塊>が2つ、無傷の<バラムドレイク>と<光速の鉄拳 タキオン>…か…)


 エニシダは悩む。

 希望的観測ではあるが、マナを余らせてこちらにターンを返したところを見て眼の前の化け物の猛攻はおそらく、一旦終わったと見るのが自然だ。

 とはいえこちらも打てる手立てはそう多くない。

 ダメージ覚悟で<死霊塊>を処理してしまいたいところだが、アタック0であるからして攻撃すらできない。


(となると…)


「俺は7マナ支払い、<ブルータルオーガ>を召喚する」

 ブルータルオーガ 7/5000/5000

 このユニットがフィールドに出た時、

 <シールドオーガ>と<ソードオーガ>を召喚する


 シールドオーガ 3/2000/3000

 [盾持ち]


 ソードオーガ 2/2000/2000


 1枚で3体のユニットを生み出す非常に使いやすいユニット…とおもいきや、実は天馬の元いた世界では昔からかなり採用率が低かった。

 問題はやはりマナ比であまりにも貧弱なその性能。

 7マナを使用して出せるユニットの多くはアタックかタフネスの値が多くの場合10000を越えており、小粒のユニットで制する事のできる状況は少なく、ジョイント召喚にもダブル召喚にもいまいち使いづらい、という点でそちらのデッキにも採用されなかった。

 とはいえ、壁と手数を増やすという点においては優秀な為決して悪い評価はされているカードではない。

 優秀なんだけど…と言われながらも噛み合いが悪くデッキに入らないよくあるタイプのカードである。


「俺は<光速の鉄拳 タキオン>と<バラムドレイク>で<不死王の側近 追跡者セクタム>を攻撃してターンを終了する!」


 <不死王の側近 追跡者セクタム>のタフネスは5000まで減った。

 ターン終了を宣言した刹那に<不死王の側近 追跡者セクタム>から斬撃が投射され、<バラムドレイク>が破壊される


「さてでは僕は…<偵察機械ゲトリマー>で<シールドオーガ>を破壊する」


 <偵察機械ゲトリマー>と<シールドオーガ>が相打ちとなり、2体の<偵察ビーコン>が生成される。


「僕はこの偵察ビーコン>2体で…ダブル召喚を行う」


 もはや驚きはなかった。

「やってくるであろう」というのは3人とも分かっていたからだ。

 カーネルだけは「ちょっと見せすぎではないか?」と思っていたが。


 ダブル召喚カードに関しては家ごとに1種類しかない、という訳ではない。

 召喚方法が長年わからなかっただけあって家のシンボル以外のカードは手放した家も少なくないし、同時にそれを買い取ったり引き取ったりした家も存在する。

 だが、呪文が割れているダブル召喚のカードを2枚持っている、となるといよいよ怪しさが頂点に達する。


 この天馬の他人への見せ方の方向転換は当然天馬の独断ではなく王室も関わっている。

 そもそもの話として天馬の存在を永久に秘匿する、というのは絶対に無理な話だ。

 人の口に戸は立てられないし、彼自身も貴族としてやっていかなければならないからだ。

 そこで王室の考えた結論がなるたけ接触をさせない、である。


 天馬の手持ちカードはある程度見せる、だが本人との接触はさせない。


 これで時間を稼いでるうちにジョイント召喚とダブル召喚をできる貴族家を増やし、「珍しくもない光景」にしてしまう…という方策だ。

 当然ながらこれをやったからといって貴族や他国からの天馬へのマークが外れることは決して無い。

 だがこれをやらなくてもどうせマークが外れることはないのだし、留学生を受け入れざるを得ないのであれば遅かれ早かれ情報の流出は時間の問題なので、天馬に対し強硬手段を取られない為にも出せる情報はもう出しても良いのではないか、という結論に至ったのだ。


「その両腕に携えし剛槍で我が眼前の敵を穿ちたまえ!<RPロイヤルポジションズ・リアランサー>召喚!」

 RPロイヤルポジションズ・リアランサー 2/6000/6000

 コスト4のユニット2体

 このユニットが破壊された時、セメタリーからコスト4以下のユニットを1枚、手札に加える

 OU:1ターンのみ、このユニットに[貫通]を付与する


 汎用ダブルカード。

[貫通]効果に破壊時のセメタリー回収がついている。

[貫通]とは、相手ユニットをアタックし破壊した時、破壊されたユニットのタフネスの数字をアタックの数値が上回っていた時、その差分のダメージをプレイヤーに与える効果である。


「更に僕は…8マナを使用し、<呼び声再び>を使用する!」

 <呼び声再び> 8

 前のターンにフィールドからセメタリーへ送られた、<不死王><アンデッド><DCデッドマンズカンパニー>のカード1枚を対象として発動する。

 そのユニットの登場時効果を発動し、対象となったユニットを[追放]する

 この魔法が発動した時、味方フィールド上にユニットが存在しない場合、対象となったユニットは[追放]される代わりにフィールド上に[蘇生]される


 3テーマに渡って使用できる魔法カード。

 効果は登場時効果のみを使用し、味方に誰もユニットが存在しない場合はそのユニットをフィールドに蘇生するという逆転用カード。

 ピンチの時には使いやすく、逆に優勢の場面では少し使いづらい開発の意図のはっきりしたカードである。

 ただ、効果範囲が前ターンなのがやや使いづらい。

 マナコストから見てももっぱら高コストユニットがひしめく最終盤に使用されることが想定されている為4枚入れるようなカードではなく、このデッキにも投入枚数は2枚に収まっている。


「僕は<呼び声再び>の効果で、<不死王親衛隊 ファンドーラ>の登場時効果を再び使用する!」

「何!?」


 <呼び声再び>により、露悪的な飾りのついた姿鏡が召喚され、そこに<不死王親衛隊 ファンドーラ>が写されている。

 そして<不死王親衛隊 ファンドーラ>が登場時と同じモーションを取った瞬間、鏡はひとりでに割れ、粉々となってその場から消え去った。


 そしてエニシダの場には新たに<死霊塊>が2つ召喚され合計4つに、更にその場にいた<光速の鉄拳 タキオン><ブルータルオーガ><ソードオーガ>にも爆発効果が適用された。


「…<ブルータルオーガ>を召喚したのはあまり、良くなかったかもしれないね。では…<RP・リアランサー>のOUを使用したあと、<金剛壁>を攻撃するよ」


 宣言された瞬間、エニシダは守るような姿勢を取るも想像以上の爆風にそのまま吹き飛ばされ転倒する。


「な、なんで…?」


 エニシダは倒れたまま掠れるような声で呟く。

 それは吹き飛ばされたからではない、ライフが35000から一気に25000まで減らされていたからだ。


「…<金剛壁>のステータスを良く見てみると良いよ」

「まさか…」


 そう言い、エニシダは自分で立ち上がりながら確認する。


 <金剛壁 3/0/3000

 [盾持ち]

 フィールドからセメタリーへ送られた時、爆発する

 フィールドからセメタリーへ送られた時、爆発する


 確認したエニシダの表情が明らかに曇る。


「分かってもらえたようだね、爆発は2回起こり、更に<RP・リアランサー>の[貫通]効果により、そのダメージは発生した訳だ」

「あんた…最悪だな」

「カードラプトを嗜む者において最悪の呼び名は褒め言葉だよ、僕はここでターンを終わる」


 天馬のライフは26000、ここにきてついに形勢は逆転した。





「ここまでか…」


 ニコライは眼の前の戦況を冷静に読み解き、零した。


(とはいえ、よくやった)


 結論付けたと同時に、エニシダに対する評価は素直な称賛であった。

 自分のデッキでは<不死王親衛隊 ファンドーラ>の処理に手を焼く可能性が高いのと、ニコライとパフィが17なのに対しエニシダは14、この年齢でこの成果は立派なものだ。


「…少し質問しても良いかな?」

「えっ?あ、はい?」


 カーネルの声掛けに急だったからか気の抜けた返答を返すニコライ。


「眼の前の…エニシダくんだったか、彼はそちらの学校の中での強さはどのぐらいなのかな?」

「…その質問は強制ですか?」

「いやいや、あくまでも興味から聞くだけだ…だがな、君らは今目の前で見たものの駄賃としてこのぐらいの質問は答えてくれても良いと思うのだが、どうかな?」


 ニコライのやや蔑みを含んだ言葉に対しカーネル王子はいい笑顔で返答する。

 そう言われると弱いのが留学生だ。

 実際めちゃくちゃ良いものが見れた上に保護して貰っている建前もある、どうせ理由を付けても付けなくても学校内では戦わなければならないのだ、パフィに目配せして軽く頷いたあたり彼女も良いと思っているのだろう。

 そう結論付けて観念したかのようにニコライははあ、っと息を吐いて喋り始めた。


「…全体で見ると上のほうです、少なくとも僕よりは強いですね」

「ほう」

「彼より確実に強いのがそこにいるパフィさんです」

「なるほど、<楽園騎士オーディガン>の…」

「父より<楽園騎士オーディガン>を預かっておりますので、お見せできる機会もあるかもしれません」


 次々と爆発するエニシダのフィールドを見ながら、あくまでも事務的にカーネルに対応するパフィ。


 そんな事をしているうちに目の前の試合は終了する。

 当然ながら、天馬の勝利で。







「お疲れ様、いい試合だったよ」

「…お疲れ様です」

(若いのに、肝が座っているなあ)


 想定外の事態に何度も遭遇しつつも、最後の最後まで踏ん張り耐えきったエニシダに対し、天馬は心のなかで称賛を送っていた。

 このぐらいの年代ならここまでボコボコにされれば終わった後悪態の1つもつくものなのだ。


「今日は君たちも疲れただろうし本格的な座学は明日からとしよう、今日は解散だ。カーネル王子、行きましょうか」

「ああ」


 そう言い、連れ立ってその場から立ち去る2人。


「ああ、そうだ」


 ふとカーネルが立ち止まる。


「さっきも言ったが、君らの会話ぐらいであれば特に何かペナルティを課すようなことはない、学生の本分は勉強だ、好きに話すと良い」


 そう3人に言い聞かせ、そのまま立ち去るカーネル。






「…どうする?」


 中庭に取り残された3人。

 口火を切ったニコライが2人に聞く。


「とりあえず…感想戦ではないでしょうか」

「あいつのカード、色々有りすぎて覚えてねえよ…」

「後で見せるって言ってたのに帰っちゃいましたね…」

「まあそこは後日言えば見せてくれるだろう、そのあたりの約束を違える人ではないはずだ」

「ていうかあの<不死王親衛隊 ファンドーラ>強すぎるだろ…」

「[効果無効化]もほぼ意味がないしどうすれば…」

「私はそれより<不死王の灯火>が…」


 喧々諤々の感想戦が少し日の落ち始めた中庭で始まり、それは日がとっぷりと暮れるまで続いた。





 一方、カーネルと天馬の2人は早々に馬車に乗り帰宅をしていた。


「お優しいですね、王子」

「お前ほどじゃない、あんなにカードを見せてよかったのか?」

「ダブル召喚はまだうちの生徒にも見せてなかったですからね、良い機会ですしもう解禁でいいかなと」

「…一度預かったからにはちゃんと扱わねばならんからな、彼らの境遇に同情するというのも嘘偽り無く事実であるしな」

「四仙カードの取り合い、凄いことになってるみたいですね」

「ああ…」


 共和国内のカードの取り合いは一旦、規模感こそ小さくなったもののよりピンポイントな抗争にシフトしており、暗殺者こそ動員されていないが誘拐・監禁未遂が多数発生し始めているようだ。


「そういう意味で、共和国首脳の判断は正しかったと言える」


 カーネルは天井を見上げ、大きくため息を吐く。


「<四仙ゲンブ>の投入は共和国を混乱させようとした部分が無くもないからな、その被害者となれば少しばかりの手心は加えたくなるのが人情よ」

「カーネル王子はそういうの、あんまりお気にしないタチと思っていましたが」


 これは天馬の純粋なカーネルへの評価である。

 実利が第一であり心は二の次、というイメージでこれまで接してきた自覚はある。


「…人を冷血のように言うでない、敵対国の人間とはいえ牙を向かないのであれば可能な範囲で手心は加えるさ。子供なら尚更、な…という訳だ、今後も授業の方を頼む」

「ええ、わかりました」


 留学生3人にとっての長い1日が終わった。


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 よろしければコメントやフォロー、☆で評価して頂けると頂けると幸いです

4/12 19:42追記

:致命的なミスがあった為修正 


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