第70話 ワンショットキル
「私は<水神に剣を捧げしもの>でプレイヤーに対して攻撃を行い、ターンを終えましょう」
現在11ターン目の天馬の手番、ライフは天馬が22000 レオンが41000
天馬の場には<魔導師学院の居眠り生徒>と<光の魔導師ファーネス>、凍結した<魔導師の研究成果4号>が存在し、レオンの場には<水神殿の用心棒>、<水神に剣を捧げしもの>、<水神殿の祈祷師>が存在している。
「僕は手札の<石英の魔導師カリファト>と<光の魔導師ファーネス>でジョイント召喚を行う!その両手に宿りし白と黒の呪いを眼前に迫る我が敵に放て!<滅腕の魔神ホワイトブラック>召喚!」
滅腕の魔神ホワイトブラック 9/10000/10000
ジョイント召喚9
コスト4以上のユニット1体以上
このカードを召喚した時、カードを1枚引く。
このカードは1ターンに一度
以下の2つの効果の中から1つを選んで使用しても良い
1.ユニット1体を選択する 選択したユニットのアタックの数値分のダメージを与える
2.ユニット1体を選択する ユニットのアタックの数値分ライフを回復する 次の自分のターンまで相手ユニットのアタックは0になる
この効果を使用したターン、このユニットは攻撃することができない
極めて汎用性の高い大型ジョイントユニット。
コスト9としてはステータスがやや物足りず、魔法や効果耐性の無い部分を差し引いても効果が極めて強力であり、召喚時に勢力指定のないジョイントユニットとしては非常に凶悪な1枚。
特に[魔導師]ではライフ回復に専ら使用される。
天馬が召喚した瞬間、場が一瞬暗くなり黒と白のツートンカラーのローブに包まれ、顔には白と黒が左右一対となったマスク、左腕が白、右腕が黒く染まった怪しさ満点の不審人物が召喚された。
「僕は<水神に剣を捧げしもの>に対し、1番目の効果を使用し破壊します」
<滅腕の魔神ホワイトブラック>が<水神に剣を捧げしもの>に対し右腕から黒い波動を飛ばし破壊する。
「あれが切り札か…」
地味だのなんだの言っていたオズワルドも流石にこのジョイントには驚いたようで、その顔は少し険しい。
「多分違うのではないか?」
「セメタリーにデッキを落とす理由になってないですからね、あのユニットは…」
カーネルはオズワルドの言を否定し、ジョシュアがそれに続く。
「それに…」
「それに?」
「義弟はレオンに妻を侮辱されて猛烈に怒っているはずだ、あの程度で済ますとは到底思えん。愛妻家だからな」
「僕は<魔導士の大理石像>を使用し、ターンを終了します」
魔導士の大理石像 4/2000/4000
[盾持ち]
相手ユニットが召喚された時、そのユニットに2000ダメージを与える
この効果は1ターンに1度のみ発動する
「…一時はどうなることかと思いましたが、どうやらまだ私の運は尽きていないようです」
膠着した戦闘が続く中、レオンがいやに声を弾ませて言う
「ワースカード<水神殿の機動機構ポセイドンアバター>を召喚させていただきます」
水神殿の機動機構ポセイドンアバター 9/17000/21000
ワースカード
このユニットがユニットを攻撃した時
超過したダメージ分だけ相手プレイヤーにダメージを与える
このカードは相手の効果を受けない
<水神>のワースカード。
盤面を触る能力を持っていない代わりにステータスが異常に高く、貫通効果を持っている為非常に厄介。
更に効果無効化を持っている為<滅腕の魔神ホワイトブラック>の効果も受け付けない。
弱点は魔法無効が無いため除去に弱い所。
「<魔導士の大理石像>を<水神殿の祈祷師>で破壊し、<水神殿の用心棒>でプレイヤーを攻撃しましょう」
これで天馬のライフは16000、次ターンで決着が付くライフとなった。
「カーネル王子、本当に大丈夫なのですか!?」
「ジョッシュ!落ち着け!相手は王子だぞ!」
あくまでも余裕を崩さないカーネルに掴みかかろうとしたのをオズワルドが慌てて止める、その光景を見てほくそ笑むレオン。
「ジョシュアさん、落ち着いてください」
「え?」
その声はバトルフィールドから聞こえた。
「慌てなくても、このターンで勝負が付きますので」
天馬はそう断言する。
「おやおや、この状況でそのような世迷言を。それともあれですかな?テンマ殿が負けるという意味での言葉ですかな?」
レオンは明らかに調子に乗っている。
まるで優勢であること、勝てることが想定外かのように。
「そうですな、私が勝ったら奥方の交換の話を進めて…」
「…僕はワースカード、<魔導太陽>を使用します」
魔導太陽 10
ワースカード
自分フィールド上の<魔導>と名の付くユニットを1体指定する
指定した相手に対し選択した<魔導>と名の付くユニットのアタック+xダメージを与える
xはセメタリーとデリートした<魔導>カードの枚数x1500ダメージに等しい。
xのダメージの最大値は40000とする
この魔法は打ち消されず、あらゆる防御効果を無効化し、強制的に対象を取る
発動後、指定したユニットを破壊する
何故明らかにユニットがパワー不足な<魔導師>デッキが環境トップレベルに強いのか、という回答となるカード。
墓地に魔導師カードを落とし、<大厄災の魔導師ディアドラ>や魔法カードで相手を妨害して時間を稼ぎ、<魔導太陽>でワンショットで即死させる…というのが<魔導師>の勝ち筋だ。
更に打ち消せずに防御効果も無視してしまうので、対策は速攻で殺すかライフの上限を上げて耐える以外にない。
[強制的に対象を取る]は対象を取る能力を無効化する能力を無効化するもの。
つまり一度打たれるとある一定のカードを除いて回避不能なのだ。
<不死王アンデッド>などとは相性が悪いが、あちらは魔法全般に弱くユニットも強くないので<魔導>でも普通に殴り殺せてしまうのであまり問題がなかったりする。
ちなみに環境トップではなくトップレベルに甘んじているのは競合である<ゴブリン爆破>に対し致命的なまでに相性が悪いからである。
「僕の墓地にある<魔導>カードと、<魔導師の研究成果4号>の攻撃力を足して合計49000ダメージを…レオンさんにプレゼントします」
<魔導師の研究成果4号>の頭上に出現した大きな光球がフロアを照らし、天馬のセメタリーの<魔導>カードからエネルギーを吸収し始める。
その姿は名の通り太陽のようであり、際限なく質量を増大させていく。
「は…な…!?」
いきなりの急展開についに表情を崩し、呆然とした顔で光球を見つめるレオン
その間にもどんどん光球の体積は増し続け、最初はこぶし大だったものが人よりも大きく、眩く変貌している。
「…レオンさん、僕の妻たちはね、道具じゃあないんですよ、それにね」
天馬は一息入れて、言葉を続ける。
「あの6人は僕のです、誰にだって渡しませんよ」
そう言った瞬間、レオンに対し光球が発射された。
「ひっ…」
レオンは後ろを向いて逃げる素振りを見せるが全ては遅く。
光球がレオンに直撃し、そのままの倒れ伏した。
この世界はカードラプトの試合で直接ダメージを食らうと肉体へのダメージが発生する。
ライフが0になろうとも死ぬことはないが、1000ダメージでもそれなりに痛く、10000ダメージを食らうと構えてなければもんどりうって倒れるぐらいの衝撃はあるし、鍛えている人間でもよろけてのけぞるぐらいはする。
では、一発で50000近いダメージを食らうとどうなるか。
答えは眼の前のレオンが示してくれている。
ある程度鍛えていようがしばらく動けなくなるのだ。
「レオン様!」
ジョシュアに暴行を加えた執事がレオンに近づき声を掛けるがどう見ても動きがおかしい。
介抱ではなく、抱えて逃げるような動きをしているのだ。
「確保だ!」
それを見たカーネルが号令かけると、玄関からグローディアと兵士が雪崩込んでくる。
同時にレオンが背にしていた壁がせり上がり覆面をした協力者らしき人間が数名現れレオンを運ぼうと執事に加勢する。
だが、動けない人間を抱えて移動するのは人が何人いようが中々に厳しい、抱えている間にも玄関から猛ダッシュで兵士が走ってくる訳で。
結局、逃げるのも間に合わず協力者・執事・レオンの三者はあっというまに捕獲されてしまった。
「お手柄だぞ、義弟殿」
大捕物の翌日早朝。
上機嫌のカーネルさんにその後の顛末を聞かされていた。
俺は捕縛後すぐに休んで良い、との事でグローディアさんを伴い自室に戻りそのまま寝てしまった。
結局あの後、書類通りジョシュアさんが正式に家督を継ぐ事になった為その権限でレオンとその部下の完全なる拘禁を行い、警備は全て王子の子飼いの兵で固める事で前車の轍を踏む事ないようにしたそうだ。
「あそこでレオンを行動不能にしてくれて本当に助かった。本来であれば勝利後にお前の周りを固めてグローディアに突撃させる手筈で、最悪また逃げられていた可能性もあったからな」
なんでもレオンは最初から俺に勝つ気なんて更々なく、負けて丁度良いタイミングで後ろから部下を突入させ、混乱に乗じて隠し通路から逃げる算段だったらしい。
「とはいえ、あの男もそもそも捕まった事自体が想定外だったようだし、更に義弟殿が出てくるのも想定外だったのであろう、あからさまに焦っていたからこそ簡単に気付けたわけだ」
「試合も急いだのも計画を綿密に立てさせるのを防ぐ為だった訳ですね」
まあ、俺もなんかこいつ企んでるなとは分かったけども…。
「それで、私とジョシュアで交互に抜けて兵士を集めるのと打ち合わせをしていた、という事だ」
「そういえばちょこちょこ抜けてましたね」
「うむ、それで今後の予定だが…レオンの移送後奥方を呼び戻してから家督に継承式と<水神ポセイドン>のお披露目を同時にする予定だ、その為お互いもうしばらくネプチューン領に滞在することとなる」
「移送…ですか」
「不服かね?」
「いえ…」
「案ずる事はない、以前も言ったが」
カーネルは少しだけ目線を上に向けて呟く。
「移送先からは一生出れぬ。生涯をかけての隠居だからな」
ネプチューン領内某所。
ジョシュアと何名かの兵がレオンと今回ジョシュアに対し暴行を加えた執事を移送していた。
王子の親衛隊も何名かついていく厳重な警備での移送であった。
「…なあジョシュア、どこへ行くんだい?」
レオンは馬車に備え付けられた鉄製の檻に入れられ、腕には革手錠が付けられ、まるで罪人のよう。
そんなレオンは表情こそ普段と変わらないが、明らかに元気がない。
今度こそ逃げれないというのが内心わかっているのであろう。
「住みよい所ですよ、父上」
「そ、そうか…」
不安げな父親に対しジョシュアは御者の隣で振り向かずに答える。
半日ほど移動しただろうか、馬車が止まりレオンは檻から出され降ろされる。
領都アクシオンからそこそこに離れたうっそうと茂る森の中、やや古びてはいるが手入れの行き届いた小さめの邸宅にわずかばかりの庭が広がる、好意的に言えば別荘のような、ただ元領主が住むには手狭な屋敷がレオンの眼前に広がっている。
「父上にはこちらで静養していただきます…では中へ」
「あ、ああ…」
レオンは少し拍子抜けをした。
監獄や修道院のような場所への監禁を想定していたからだ。
これなら抜け出してまだ遊べるかもしれない。
そんな考えが少し頭を過ったレオンはジョシュアに促され、兵士の先導の元門をくぐり、同じく革手錠をした執事も一緒に屋敷の中へ入る。
玄関の扉を兵士が締めた瞬間、レオンの胸から何かが生えてきた。
「ぐぉ…!」
ジョシュアが無言でレオンの背中を刺したのだ。
「父上、長きにわたりネプチューン領を統治いただき大変感謝しております、そして…お疲れ様でした」
その別れの言葉に一切の感情を乗せぬままに。
「今更ですが、よろしかったのですか?」
執事とレオンの処理を完了し、手早く火葬まで終わった後に邸宅の一室で休憩していたジョシュアにカーネルの親衛隊の1人が声を掛けた。
「父上の醜態に関して、責任の一端は間違いなく私にありますから」
「それは…」
「父上…レオンは私を心の底から舐めていました、自分に対して何かができるはずがないと思っていたのでしょう…実際、私が父上を殺すチャンスは過去に何度もありましたからね。そんな父上の増長を招いてしまった責任は取らねばならなかったのです」
それに、とジョシュアは少し笑いながら続ける。
「これで妻達も、何よりも母が戻ってこれます」
「奥方と御母上には既に先触れを出しております、清掃と埋葬が終わり次第戻るとしましょう…ジョシュア様は暫しご休憩いただくのがよろしいかと」
「…ご配慮に感謝します」
親衛隊はそう言い、部屋を後にする。
ジョシュアの手元には形見として回収した指輪が1つ。
あくまでも無表情にジョシュアはそれを手持ち無沙汰に弄りながら椅子に深く腰を下ろし、天井を見つめる。
これにてネプチューン領の領主の交代は正式に完了した。
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未だ出先です。(2回目)
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