第68話 地味な戦い
「…私は、<天災の魔導師ディアドラ>を<水神の神官 ギングル>と<大波>で破壊、<小波>でプレイヤーを攻撃しよう」
「<天災の魔導師ディアドラ>の効果で先程セメタリーへ送ったカードを手札に戻します」
天馬の場には<魔導師ファーナ>のみ、レオンの場には<水神のしもべ クルオラ>と <小波>が鎮座している。
「その後、<水神天元ガドウ>を召喚し、ターンを終えます」
水神天元ガドウ 4/3000/3000
このユニットは攻撃した相手を[凍結]させる
<水神>の特徴である[凍結]能力を持つユニット。
[凍結]は1ターンの間行動不能になり、更に[進化]をすることができなくなってしまう、図らずもこの<大厄災の魔導師ディアドラ>などの進化カードを抱えている[魔導師]デッキのメタになっている能力である。
「何か…普通だな」
オズワルドは思わず呟いた。
オズワルドは父親が相対した<爆音>デッキは3ターン目以降とんでもない速度で攻撃をされ、粘ったが上から叩きのめされてしまったと言っていたからだ。
だがこの[魔導師]デッキは引きが悪いのかは知らないが、かなり地味な立ち上がりだ。
これは[魔導師]デッキの特殊性が関係してくる。
<天災の魔導師ディアドラ>は非常に強力ではあるが、禁止や制限カードに指定されてはいない。
これは何故かというと、そもそも[魔導師]はユニットが非常に弱い事が関係している。
特に顕著なのが「コスト6より上のカードは全て魔法」という点で、言わば[魔導師]デッキは<天災の魔導師ディアドラ>と<大厄災の魔導師ディアドラ>を使うのが前提のデッキとなっており、勝ち筋も少ないかなりプレイングが難しいデッキとなっているなのだ。
ただ、それでも環境最上位で戦えているのは6コスト以上の魔法が驚天動地の性能であることと、カードプールが増えるにつれ強力なジョイント召喚やダブル召喚を活用できるようになった事が大きい。
次のターン以降、観客である3人はその一端を見る事となる。
「僕はマナを4支払い、<新緑の魔導師フェンネル>を召喚する」
新緑の魔導師フェンネル 4/4000/3000
[ジョイント]
このユニットが敵を破壊した時、セメタリーに存在する[魔導師]ユニットを1枚、デッキの一番上か一番下に戻しても良い
この効果は1ターンに一度しか使えない
「そして僕は…<魔導師ファーナ>と<新緑の魔導師フェンネル>でジョイント召喚を行う!」
その言葉を天馬が紡いだ瞬間、ジョシュアとオズワルドは思わず声を出し、レオンはぴくりと眉を上げた。
「その身機械なれど宿りし心は真の正義の体現する者なり!正義巨人マッハワイルダー!」
正義巨人マッハワイルダー 5/4000/5000
ジョイント召喚5
コスト3以上のユニット1体以上
このカードを召喚した時、カードを1枚引く。
ドローしたカードをそのままセメタリーに送ることで[クイック]を得る。
汎用ジョイントユニットとして多くのデッキで採用されているカード。
ジョイント召喚はダブル召喚と違い効果に回数制限がないものが多い(ダブル召喚は設計上上限回数が決めれるので強い効果を付与しやすい)ため、どうしても効果が弱くなってしまう傾向があり、その差を少しでも縮める為に5コスト以上のジョイントカードには共通効果として1ドローが付与されている。
その中でもこのカードは[クイック]付与によりリーサルに使えるほか、墓地利用デッキでセメタリーのカードを増やすために使用されたりなど様々な用途に使用できる。
口上を唱えた瞬間、セメタリーに送られた2枚のカードは白く眩く輝く玉となって
背に凄まじい大きさのブースターを背負った丸みを帯びたロボットが出現した。
「なるほど、なるほど」
レオンは何か納得したように頷いた。
「カーネル王子が急に精力的に動き始めた理由、わかりましたよ」
柔和な表情を崩さずちらりとカーネルのほうを見てレオンは言い、カーネルはそれに無言で返す。
「少し席を外す、すぐに戻る」
「は、はい」
カーネルはレオンの視線が外れたのを確認し、その場を離れジョシュアはそれに生返事で返す。
だが無理もない、この国では王と王子以外で初めてジョイント召喚がたったこの5人程度の人間しか見ていない小さなバトルで行われたのだ。
レオン側の執事も驚いている。
「あれがジョイント召喚…」
「先日の選抜でハルモニアやセレクターがダブル召喚を行っていたとはいえ、眼の前で見せられると流石に驚くね…」
「しかし、あれは本当に何者なんだ?」
「ヘルオード家は前々から補足してたらしいけどね…」
2人は互いに情報交換するも真相にはたどり着けず、ただただ混乱するばかりであった。
とはいえ、その真相にたどり着ける人間なぞまず存在しないが。
「<正義巨人マッハワイルダー>の効果でドローしたカードをセメタリーに送り、<小波>を攻撃し、ターンを終了する」
「ふむ…では私は<水神の眷属ハルート>を召喚し、<水神天元ガドウ>で<正義巨人マッハワイルダー>を攻撃し破壊しましょう」
水神の眷属ハルート5/4000/6000
このユニットが破壊された時2体の<ハルート・ベビー>をフィールドに召喚する
これで天馬の場は空となった。
形勢としてはレオン有利に見えるが[魔導師]はここからが勝負なのだ。
「僕は6コストを支払い、更にデッキの上から3枚のカードをセメタリーに送り<魔導師専用強化骨格 METAL>を召喚する」
魔導師専用強化骨格 METAL 6/8000/6000
[不意打ち]
このユニットはデッキの上から3枚をセメタリーに送らないと召喚することができない
このユニットが破壊された時、<魔導師>ユニットを1体ランダムで[生成]しフィールドに召喚する
召喚時にデッキからカードを3枚セメタリーに送らなければならないが<魔導師>デッキ単体における最高打点を持つユニット。
死亡時効果も非常に優秀で、完全なランダム生成の為1コストの<魔導師ファーナ>が出てくる事もあれば<魔導師専用強化骨格 METAL>が再度出てくる事もある
<魔導師>デッキはセメタリーからカードを引っ張ってこれるカードが少ないためデッキを3枚削るのはそれなりに痛いが、それを補って余りある性能を持つ。
「<魔導師専用強化骨格 METAL>の[不意打ち]の効果により<水神の眷属ハルート>を攻撃し破壊」
先程破壊された<正義巨人マッハワイルダー>とは毛色の違うロボットが<水神の眷属ハルート>をブン殴って破壊する。
「…<水神の眷属ハルート>の効果により<ハルートベビー>2体をフィールドに召喚します」
ハルートベビー 2/2000/2000
「更に僕は<魔導師専用強化骨格 METAL>の効果でセメタリーへ送られた<魔導師の罠 ミラーリコシェット>の効果で、<魔導師の罠 ミラーリコシェット>自身をデリートすることで魔法効果を発動する!」
魔導師の罠 ミラーリコシェット 4
相手フィールド上のユニットに対し、ランダムで1000ダメージを5回与える。
このカードがマナを支払って発動されずにセメタリーへ送られ、更にセメタリーにこのカード以外の<魔導師>カードが存在する時、このカード自身をデリートすることによりこのカードの効果を発動することができる。
この効果を使用後、同じターン内に<魔導師の罠>という名称のついたカードを使用することはできない。
魔導師用のダメージ魔法。
しかし素打ちはほとんどされず、もっぱら今回のように<魔導師専用強化骨格 METAL>で自然に落ちる事を狙うか、他のカードのコストとして落とした上で追撃として使うのが一般的。
この<魔導師の罠>シリーズは作られた時期的に見ても非常に強力で、[魔導師]デッキの中核を担う性能となっている。
ミラーリコシェットは<水神のしもべ クルオラ>に3発、<ハルートベビー>に1発ずつ着弾し、盤面は天馬有利に傾く。
「私は5コストの<水神殿の防衛機構>を召喚いたしましょう」
水神殿の防衛機構 5/0/10000
[盾持ち]
このユニットがフィールド上に存在する限り、<水神殿の防衛機構>を除いた自分の<水神>ユニットとプレイヤーは魔法の対象にならない
時間稼ぎとしても、攻勢に出るときにも非常に有用なユニット。
対象に取る魔法を<水神>ユニット以外雑に全て防いでしまう。
ただし、<魔導師の罠 ミラーリコシェット>などランダムに対象が決まったり、フィールド全体に影響を及ぼす魔法には効果がないので要注意。
「<ハルートベビー>で攻撃し、<魔導師専用強化骨格 METAL>を破壊します」
「<魔導師専用強化骨格 METAL>の効果により出てきたのは…<業火の魔導師イラル>です」
業火の魔導師イラル 3/3000/2000
このユニットがフィールドに出た時、ランダムなユニットに2000ダメージを与える
<魔導師専用強化骨格 METAL>ガチャとしては外れである。
「2匹目の<ハルートベビー>で攻撃し、<業火の魔導師イラル>を破壊しますね」
ここまでは一進一退。
そしてレオンがこのバトル中後ろの執事を何度かちらりと見ているのに気付いたのは外から戻ってきたカーネルのみであった。
「僕は…5コストを使用しワースカード<魔導師学院の実験棟>を召喚します」
魔導師学院の実験棟 5/0/6000
3ターン後、実験棟から研究成果が出現する
研究成果が出現した時、このカードは破壊される
このユニットが研究成果が召喚される時以外に破壊された時、デッキ内の<魔導師>カードを3枚セメタリーへ送ることで、破壊を免れタフネス3000で復活する
復活した際にカウントは維持される
3ターン後にユニットが出現するワースカード
研究成果として出現するユニットはランダムだが、出てくる状況にマッチしたユニットが出現する傾向がある。
出てくる研究成果は5種類。
「更に、2コスト使用し<魔導師学院の出席確認>を使用します」
魔導師学院の出席確認 2
デッキ内のコストが一番高い、または一番低い魔法カードどちらか一方を選択してランダムで手札に加える。
[魔導師]最強の魔法カード。
デッキ内の魔法カードのコストを調整することにより確定サーチを行うことができる為非常に凶悪。
あまりにもやりすぎだったので当然ながら制限がかかり、登場したシーズン9以降2枚制限であったがこの世界は例によって制限がないためフル投入されている。
「いやあ、お強いですなあ、テンマさん」
「…どうも」
「しかしまあ、私も若者の胸を借りるつもりでやらせていただきますよ…私は6コスト支払い、<水神殿の守護隊長>を召喚し、効果で<魔導師学院の実験棟>にダメージを与え、凍結させます」
水神殿の守護隊長 6/5000/7000
このユニットがフィールドに出た時、墓地に<水神>カードが存在する場合、対象1体を選択し、3000ダメージを与えて[凍結]させる
<水神の冷気>という2コストの呪文を内蔵したユニット。
そもそも<水神の冷気>が非常に凶悪な性能をしている為、ステータスこそやや低いがどの曲面で出しても強く出し得な一枚。
レアリティが低い為か多く出土しており、レオンとジョシュアのデッキに4枚ずつ投入されている他、他の貴族家でも安い<水神>カードを投入してこのカードを入れている家もあるほど。
「…地味だな」
「ええ」
ジョシュアとオズワルドは少し拍子抜けをしていた。
確かにジョイント召喚は非常に驚いたし、見たことがないカードを使用している部分もあり、見るべき点はやまほどある。
だが、オズワルドからすれば父ペーターが、ジョシュアからすればオズワルドからの又聞きの話とはどうも食い違う点が多いのだ。
「お互いに守備重視のデッキ…という事なんだろうか」
「<天災の魔導師ディアドラ>は恐ろしいほどの強さでしたが、ほかは…」
今回、デッキのキーである<大厄災の魔導師ディアドラ>が運悪くデッキの底に埋まっていたり<魔導師専用強化骨格 METAL>で落ちたりと手札に回ってこない為出そうにも出せない為、この印象になるのは仕方がない部分もある。
「戦いにおいては心配しなくとも良い、そこは私が保証しよう」
「ですが…」
カーネルのあまりの自信満々っぷりが理解できずジョシュアは食い下がる。
ジョシュアからすると人生がかかっているので必死になるのは仕方なくはあるのだ。
「それよりもだ、ジョシュア」
「なんでしょうか?」
「君はこの家の隠し通路、どこまで把握している?」
現在、試合は7ターン目後攻、天馬の手番であり、ライフは天馬が47000、レオンが55000のまま進んでいる。
「僕のターンです…<水神殿の防衛機構>に対し<真紅の魔導雷>を使用し、更に追加で3マナを支払います」
<真紅の魔導雷> 2
対象のユニット1体に2000ダメージを与える
追加で3マナ支払う事で以下の2つの効果からどちらかを選んで発動する
1.選択した対象に更に3000ダメージを与える このダメージは軽減されない
2.別の対象に2000ダメージを与える
「対象は…<魔導師学院の実験棟>」
赤い稲光が<水神殿の防衛機構>と<魔導師学院の実験棟>を襲い、<魔導師学院の実験棟>のタフネスは残り1000まで減った。
この行動を不思議に思い首をかしげたのはレオン側の執事のみで、レオンは柔和な表情を崩さないし、観客席の面々は緊張した面持ちで戦況を眺めている。
「十中八九セメタリーにカードを貯めるのが目的だろうな」
「高コスト帯の呪文かユニットにセメタリーから直接召喚できるカードがあるとか?もしくはヘルオード家の<機械天使ヴァルキュリアZERO>のように墓地のカードを枚数で強くなるユニットだろうか?」
「いずれにせよワースカードの<魔導師学院の実験棟>を放置するのも恐ろしすぎるし、レオンはどう対応するのか見ものだな、それとジョシュア」
「はい、少し席を外しますね」
今度はカーネルに変わりジョシュアが席を外す。
そうしてる間にも試合は進む。
「<黒の魔導士ゴフェル>を召喚し、終了します」
黒の魔導士ゴフェル 3/2000/2000
このユニットがフィールドに出た時、墓地に<魔導士>カードが存在するのであればタフネスが2000アップする
次のターン以降、天馬の[魔導師]デッキの真の性能が発揮される事となる。
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出先での更新は中々しんどいですね…。
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