第60話 父の背中
後攻4ターン目の現在の状況、俺はライフ40000 相手方はライフ50000とやや形勢は不利。
盤面は破壊すると2000/2000が出る<爆音 ファイラン>、相手には<磁力怪人 マグダルα>と4000/4000まで育ち[盾持ち]を無視する<磁力怪人 マグダル>が鎮座する。
「<爆音 ファイラン>で<メカトリケラ>をアタック、<爆音 ファイラン>と<メカトリケラ>は破壊され、効果で僕はコスト2以下の<爆音>ユニットをデッキからランダムでドローし、<爆音 メタンダ>を2体召喚!更に、<爆音 カーキー>を手札から召喚!」
爆音カーキー 2/2000/3000
フィールドに登場した時、場に<爆音>カードが存在している場合に効果が発動できる。
デッキからコスト5か6の<爆音>ユニットカードをデッキから手札に加える。
「ふむ…」
ペーターさんはしばらく思案する。
恐らくは<爆音 カーキー>の対応を考えているのであろう。
「<磁力怪人 マグダル>で<爆音 カーキー>を攻撃し破壊、更に<磁力大蛇 リーガン>を召喚し、効果で<磁力怪人 マグダル>を公開し、2体の<爆音 メタンダ>に2000ダメージを与え破壊させていただきます」
磁力大蛇 リーガン 5/5000/3000
フィールドに召喚された時、手札の<磁力>ユニットを公開して発動できる
このユニットのアタックを2000下げ、相手ユニット1体に2000ダメージを与える
この効果は2回まで発動でき、同じユニットに2回発動することはできない。
スタッツこそ基準以下だが、効果を使用すれば2体に2000ダメージを撒くことのできる優秀なユニット、欠点としては2000ダメージを撒くと1000/3000の貧弱なユニットしか残らない点がある。
「お見事です、ペーターさん」
俺はフィールドを空にされ素直な感想を口に出す。
この<爆音>デッキの序盤にユニットを処理されると一方的に攻撃を受け続けるしかないという点をうまく突いてきている。
おそらくはファロンさんから聞いたのだろうが、聞いただけなのに良く研究されていると思う。
しかし、この<爆音>はここからなのだ。
「凄いな…」
ファロンは父親の活躍に素直に感心していた。
正直な所、父はパッと見そこまでカッコよくはない。
身長はあるが細身でひょろひょろ、顔もそんなに良くない、ファロンは母親似なのだ。
そして選抜で戦っている姿もお世辞にもかっこよいと呼べるものではなかった。
しかしどうだ、自分を叩きのめした男に対し五分以上に渡り合ってる父親の姿は非常にりりしく、頼もしく見えた。
観客席の他の生徒たちも父ペーターに声援を送っている。
「…たまにはなんか父親孝行でもしてやるかな…」
そうぽつりとつぶやいた瞬間、眼前のフィールドから凄まじい打撃音が響いた。
天馬が<超爆音 赤熱ベリル>を召喚し、<磁力怪人 マグダル>を消し飛ばしたのだ。
超爆音 赤熱ベリル 5/8000/4000
[カタパルト]:<爆音>
このカードはデッキ内の<爆音>というテキストが記載されているカードが30枚以上存在しないと召喚することはできない
このカードがフィールドに登場した時、敵フィールド上のタフネスの一番高いユニットに対し5000ダメージを与える
この効果でユニットを破壊した時、アタックが+3000される
<超爆音 赤熱ベリル>は普通に召喚しても強い、当然だ、5マナでいきなり5000火力が飛んでくるのだから弱いはずもない。
そしてこんなカードを2枚制限とはいえ投入できるのに環境下位に甘んじているのがシーズン11のカードラプトの異常さがわかる。
いやほんと凄いのよ。
「なるほど、それが噂の」
「お耳の早いことで」
「私は2コストで<磁力防壁 シールダン>と、3コストで<磁力武者 デンジン>を召喚し、[磁石合身]をしてターンを終了します」
磁力防壁 シールダン 2/1000/2000
[磁石合身]
[盾持ち]
磁力武者 デンジン 3/3000/3000
[磁石合身]
<超爆音 赤熱ベリル>の問題点として、やはり貧弱なタフネスにある。
今のようにアタック4000の盾持ちを並べられると相打ち覚悟で突っ込むか止まるしかない。
とはいえ、長い間強化され続けた<爆音>デッキには別の回答も当然、存在する。
「僕は<超爆音 蒼炎ザナイト>を召喚し、効果でセメタリーから<爆音 ファイラン>を召喚し、<磁力防壁 シールダン>を<爆音 ファイラン>で攻撃!<爆音 ファイラン>の効果でデッキからコスト2以下の<爆音>ユニットをドローする、最後に<超爆音 赤熱ベリル>でプレイヤーを攻撃!」
超爆音 蒼炎ザナイト 6/4000/6000
[カタパルト]:<爆音>
このカードはデッキ内の<爆音>というテキストが記載されているカードが30枚以上存在しないと召喚することはできない
セメタリーに存在するコスト2以下の<爆音>ユニットをフィールドに召喚し
アタック+2000を付与して召喚する
召喚したユニットはすぐに攻撃を行わなければならず、[カタパルト]の効果は発動できない
超爆音シリーズの1枚、ステータス自体はコストに見合わぬ低さだが[カタパルト]で出せる点と、コスト2を鉄砲玉にできる蘇生能力が非常に優秀。
鉄砲玉にするユニットは<爆音 ファイラン>が鉄板となる。
こちらもシーズン11では2枚制限となっているがテンマは4枚投入している。
これで相手のライフは39000、こちらは40000となり逆転した。
やはり[電磁合身]は後半の息切れが弱点だな。
「やっぱいたよ、隠し玉」
「まあそりゃそうよね」
うげえっとした顔で言うテミッサに同意するクロスモア
いつの間にかテミッサとファロンだけでなく女性陣が固まって観戦していた。
「<超爆音 赤熱ベリル>とは違って後続に繋げる動きができるのか…僕らに対してあれを出さなかったという事はまあ、必要ないと思われてたんだろうな」
「そりゃ、現役で活躍してる当主とは場数も試合勘も違うもの、私達はこれからでしょう」
言い捨てるファロンをフォローするクロスモア。
「でもテンマ先生も明らかに戦い慣れてるよね~あんな人見たことないのにどこで戦ってたんだろう」
そう話すのはリギル=フォーミラ、北部貴族でハルモニア家の寄り子の一人娘である。
「君が知らないのであれば誰も知らないだろう」
「そうよね、お姉さまも何も言ってくださらなかったし」
ファロンの答えにリギルも同意する。
彼女はクレアをお姉さまと慕いいつも共に行動しており、家柄上の付き合いも長い。
「ほんと一体何者なんだろこの教師…」
女性陣が話してる間にも戦闘は続く。
「なるほど、これが<爆音>ですか、いやはやお強い」
「ペーターさんも相当に強いですよ」
これはお世辞ではない、ある程度対策がとれていたとはいえ生徒たちの何倍も強い。
「時間を割いて見に来た甲斐があるというものです…私は墓地の<磁力>ユニット3体をセメタリーからデッキの一番下へ送り、ワースカード<バルドアックス>を召喚し、<超爆音 赤熱ベリル>を攻撃し破壊!」
バルドアックス 5/5000/3000
ワースカード
<磁力>ユニットをセメタリーからデッキの一番下に3枚送ることで召喚することができる
[磁力合身]
[鉄壁](一度だけダメージを0にする)
[不意打ち](フィールドに出たターンにユニットにのみ攻撃することができる)
[盾持ち]
[魔法無効]
[自爆](このユニットが破壊された時に破壊された時のタフネスの数字分、攻撃した相手にダメージを与える)
ワースカードとしては貧弱なスペックではあるがキーワード効果の塊であり、[磁力合身]を使うのであれば必須のカード。
本来は名前が<磁力大王 バルドアックス>であったが、サーチカードでサーチできると流石に強すぎる、という事で名称から<磁力>が削除される弱体化が施された経緯がある。
「更に2コストで<磁力防壁 シールダン>を召喚し、<バルドアックス>と[磁力合身]させます」
分かってはいたがやはり出てきた[磁力合身]のキーカード、バルドアックス。
恐らくこのタイミングで使うつもりはなかったであろうがいつ出てきても脅威な事は代わりない。
現に<超爆音 赤熱ベリル>がバルドアックスの手持ちの巨大戦斧で破壊されたしね。
とはいえ、既に流れは完全にこちらに傾いている。
「僕は…<爆音 カーキー>を召喚し、カードをドロー、5コストを使用し<爆音総長継承>を発動します」
爆音総長継承 5
手札の5コスト以下の<爆音>ユニットをセメタリーに送り、デッキからコスト7以上の<爆音>ユニットを選択して手札に加える
「ここで僕がセメタリーに落とすカードは…<超爆音 赤熱ベリル>」
「!?」
場内がざわつく、手札に加えるカードは公開しなくてもよいが、セメタリーは公開情報の為対戦相手なら見れるし、宣言することに罰則はない。
「これでターン終了です」
<超爆音 蒼炎ザナイト>は動かさない。
「……」
ここでペーターさんは長考に入り、手札を見比べつつ考えている。
やがて腹が決まったのか変わらない微笑で俺を見据えて動き始める。
「私は<磁力兵長 バーンズ>を召喚し、<バルドアックス>と磁力合身させ、3コストで<メカトリケラ>を召喚します。そして<爆音 カーキー>を<バルドアックス>で攻撃」
磁力兵長 バーンズ 5/6000/5000
[磁力合身]
これで<バルドアックス>は12000/8000と結構なサイズになった。
このサイズの魔法無効ユニットを止めるのはこのシーズン6までのカードプールだとかなり骨が折れる。
だが俺のデッキはシーズン11のデッキだ。
速攻向けデッキでもコントロールに対抗するユニットはデッキに入っている。
「…決着をつけましょう」
「おやおや」
そう宣言してもペーターさんの表情は変わらない。
「僕は墓地の<超爆音 赤熱ベリル>をセメタリーから追放し、ワースカード<爆音無塵 破砕ベリル
爆音無塵 破砕ベリル屍 7/18000/2000
ワースカード
このユニットは<超爆音 赤熱ベリル>をセメタリーから追放する事で召喚できる
[クイック]
このユニットが破壊される時、セメタリーの<超爆音 赤熱ベリル>をセメタリーから追放することでこのユニットを再召喚することができる
再召喚した場合、<爆音無塵 破砕ベリル屍>のアタックは-10000され、[クイック]効果が削除される。
これこそが<超爆音 赤熱ベリル>が2枚制限となった主要因でまさしく爆音デッキの切り札である。
ライフ18000以下は
<超爆音 赤熱ベリル>が4枚使えた頃はこのユニットが出てくる場面では大体セメタリーに3枚から4枚の<超爆音 赤熱ベリル>が溜まっていた為、7ターン以降、スキを見せたほうから<爆音無塵 破砕ベリル屍>のパンチで即死させられる、という状況が起こっていた。
当然ながらそんな横暴が許されるはずもなく、<超爆音 赤熱ベリル>とついでに<超爆音 蒼炎ザナイト>が2枚制限とされ大幅な弱体化を余儀なくされた<爆音>の時代は終わった。
ちなみに、2回蘇生するとアタックが0になるという事はない。
これはあくまでも蘇生される<爆音無塵 破砕ベリル屍>のアタックは18000である為。
更にこれで決着が付かない場合、墓地に眠る<爆音無塵 破砕ベリル屍>を使用する真の切り札が存在するのだが、ダブル召喚を使用しなければならない為現在天馬はそのカードをオミットしている。
セメタリーに眠る破壊された<超爆音 赤熱ベリル>が動き出し、パイロットと融合してサイボーグのような、ゾンビのような風体に代わり、パイロットの足には車輪が付いた不気味な外見のユニットが場に出現する。
うーむ、いつ見てもキモい。
「僕は<爆音無塵 破砕ベリル屍>で<バルドアックス>を攻撃し、破壊!<超爆音 赤熱ベリル>をセメタリーから追放しアタック8000で再召喚する!更に<超爆音 蒼炎ザナイト>で<メカトリケラ>を破壊し、ターン終了です」
これで大勢は決した。
「……降参です」
ペーターさんは最後まで表情を崩さず、サレンダーした。
試合終了後、フィールド中央に歩み出て握手を行う。
ギャラリーの反応も<超爆音 赤熱ベリル>の先が見れた事で上場。
この状況でペーターを悪く言うものは誰もおらず、ファロンも珍しく満面の笑みで拍手を送っている。
ペーターは図らずも召喚貴族家当主として、父としての面子を守れた形となった。
「いや、本当にお強いですな、テンマ殿」
「それを言うのはこちらの方です、非常に苦しめられました」
ペーターもテンマも社交辞令に近い言葉で互いを讃える。
「このような強さなのです、次回以降当然選抜には出場されるのですよね?」
「それは……未定、ということで」
「ほう」
ここで天馬は大きなミスを犯す。
法服貴族といえど、選抜に出場しないという事は基本的にしない、選抜の欠席=敵前逃亡という扱いに近く、最下位でも欠席よりはよほどマシな扱いになる。
それを未定、と言ってしまうのは明らかに王家の力が働いているというのを見せつけるようなものなのだ。
王の威光をチラつかせる為の言動ならばアリではあったが、天馬はそんな事を考えているはずもない。
純粋なポカである。
「また今度、我が領に遊びにいらしてください、その時は諸手を挙げて歓迎いたしますよ」
「ええ、機会があれば是非に」
この発言、お互い社交辞令と思っていたが意外にもかなり早く実現することとなる。
「では、また」
「それでは」
互いに頭を下げ、撤収の準備をする。
負けたにせよいろいろな情報を持ち帰れてご機嫌のペーターに1人の少女が近づいてきた。
「お疲れ様です、お父さん」
「おお、ファロンか、すまないね、負けてしまったよ」
「そんなこと欠片も思っていないでしょう」
「ははははは」
正門に移動しながら他愛のない親子の会話が暫く続く。
「お父さん、帰りにご飯でもどう?僕いい店知ってるんだけど」
ファロンの言葉に一瞬、ペーターがあっけに取られた。
天馬とのバトルですら崩れなかった表情が娘によりものの見事に破壊された。
「…ファロンから言いだすなんて何年ぶりだろうか」
「たまにはいいじゃない」
「そうか…そうだな、行ってみようか」
親子は数年ぶりに一緒の馬車で帰宅の途に付く。
今日は良い日だ、ペーターは心からそう思った。
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近日魔界戦記ディスガイア7が発売されるため更新がしばらく著しくスローペースになります
大変申し訳ありません。
気長に見守っていただけるとありがたいです。
また、このテキストのままだと全デッキで赤熱ベリルが大暴れするのに気付いたので召喚条件を追加しました。
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