第59話 合法的にケンカを売られる

 結婚式、そう、結婚式である。

 先日のカーンズ商会での会話でも出てきたが俺には結婚式が控えている。

 ただ、実施は結構先になる予定。

 というのも、王家+4家の予定を合わせるのが難航している為だ。

 土地持ち貴族家当主は非常に忙しいらしい、完全に他人事だが。

 そして女性陣はカーンズ商会で結婚式の話も出たし今のうちにやれることをやっておこう、という事で結婚式の招待状の用意をしている。

 なにせ5家が一同に介するのだ、呼ぶ人も多ければ会場も広い。

 仮にでもその人の格による席次などもきっちり文句が出ないように決めておかないと後々死ぬほど揉めるそうで、そのへんは元の世界と一緒なんだなと。

 そして俺は呼ぶ人もいない(生徒は呼ぶかどうか聞いてみたが当日まで数えても半年そこらしか付き合いのない生徒や同僚を呼ぶ理由はないらしい)のでめっちゃ暇。

 そして愛人という立場上参加できないリリーもめっちゃ暇。

 ということで2人で適当にイチャついていなさい、と言われ締め出されたので絶賛イチャつき中である。





「ご馳走様でした」


 早くも2回戦を終えた後、リリ特製の食事を食べ終え一息付きながら隣同士座って雑談。

 そして話の内容は必然、この世界の結婚観や結婚事情に行き着くわけで。


「そうすると、婚約から結婚式がこんなに間開くのは珍しくないんだね」

「珍しいと言えば珍しいですが、ああそうなんだで終わるぐらいですね。特に国家対抗戦が絡んでると1年平気で空いたりしますし。だからまあ結婚式に赤ちゃん連れ立ったりお腹大きくしてたりってのもそう珍しいわけではないです」


 赤ちゃんや大きいお腹という単語を聴くたびに今更少しビクついてしまうのは俺が小心者だからだろうか。

 現在のところだいたい2、3日に1回のペースで6人全員を相手にしている。

 当然避妊なんかしていない、というかしちゃいけない。


「召喚貴族様の場合多産はあまり歓迎されませんが、かといって産まないのはもっとダメですからね」

「なんというか学校しかり子どもしかり女性へのプレッシャーが強いな……」

「離縁することになっても立場は女性のほうが大体立場悪くなっちゃいますね、実家が受け入れてくれればマシですがそうでない場合もありますから……」

「俺は愛想つかされないように頑張る立場なので、離縁を言い渡されないように頑張らないと」

「貴族でそう思ってる男性なんて殆どいませんよ、よっぽど上位の家に婿入りした方ぐらいでしょうか」

「実際そうだからね……向こうの世界だと俺は平民も平民だったし」


 ドのつく一般人だった俺がカード持ってるだけでこんな待遇を受けてるんだから人生なんてわからんもんだ。


「そういう心持ちで女性と接してくれるのは本当に嬉しいものですよ、他の方々もそうだと思います」

「増長しないように気をつけます」


 これは自戒の意味も込めて言い続けるべきだと思ってる。

 今のこの法服貴族という立場でも何か間違えれば一撃で即死はあり得る。

 というか貴族になった結果貴族だからこその即死案件が確実に増えてるので恐ろしいのだ。


「ともあれ、私達はとにかくまず子供を産むまでです、その為にもこちらの旦那様にも頑張ってもらわなくちゃですね」


 そういってリリが俺のふとももの付け根あたりに手を置く。

 エロオヤジのセクハラかよとも思ったが、リリなのでOKだ。

 そうやって俺とリリは自然と3回戦に突入した。








 数日後、この日は学校で授業。座学3回目の今日の授業は攻撃優先度についてだ。


「単純に自分の場に2000/2000のユニットがいて、敵の場に3000/1000と2000/1000が並んでいれば迷わず3000/1000を攻撃するべきだが、破壊時効果によっては2000/1000を攻撃、もしくは無視してプレイヤーを攻撃する場合もあり……」


 授業中の教室は異様な雰囲気に包まれている、授業を受けている生徒達も落ち着かないようだ。

 ギスギスしているとかそういうのではなく、原因は教室の後方にいる6人ほどの貴族だ。

 一部生徒から「わかりやすい」との口コミが親経由で召喚貴族家に広まり、現役の召喚貴族家当主が何人か見に来ているのだ。


 基本的に授業の見学は卒業生であっても自由だ、つまり召喚貴族家出身者は基本的に授業に出ても問題ない、というよりも止めれる人がいない。


(やりづらいな…)


 自分より年下ならば良い、だが自分より年上や同い年ぐらいの人間に指導を見られる、というのはどうにもやりづらい。

 何より生徒たちにとって良くない、こんなの授業に集中できないだろう。

 特に親が見に来ている生徒はバツが悪そうな顔をしている。

 あれは確かマグネトランザ家のファロンさんだったか……ちらちらと後ろを見ながらため息を吐いている、親が来てるんだろうなあ。




 そうこうしてるうちになんとも落ち着かない授業が終わると、後ろで授業を聞いていた貴族の1人が教壇まで降りてきて話しかけてきた。


「お初にお目にかかります、私マグネトランザ家当主のペーター=マグネトランザと申します」


 そう言い握手を求めてきたのでこちらも応じる。


「ええと…テンマと申します。マグネトランザというと…」

「ええ、この授業を受けているファロンは私の娘でございます」


 ちらりと机に突っ伏しているファロンさんを見るペーターさん。


「娘から授業が分かりやすいとお話がありまして、私が受講してる間ですらそんな先生はいなかったもので、つい好奇心で見に来てみればこれが面白いものでして、興味深く聞かせて頂きました」


 ペーターさんは手放しで褒めてくる。


「現役の召喚貴族家当主の方にお褒め頂き恐縮です」

「そもそも座学など私らの時代もありませんでしたから」


 というよりこの人見た感じ40前ぐらいなのにそんな時代から座学がなかったのかよ…。

 その後とりとめのない会話のキャッチボールを数回繰り返した後、ペーターさんがそろそろ良いか、と思ったのか少し真剣な目で俺を見据え。


「で、ですね。娘からお話を聞くに見たこともないデッキを操るテンマ殿の腕前を是非拝見したいな、と思いまして……是非とも勝負しましょう」


 懐からデッキを出しつつそう言った。


 あ、これやられた。

 そっちが主目的か。











「先生、父が申し訳ありません」


 その後演習場に場を移し準備をしていると、ファロンさんが近くまで来て頭を下げてきた。

 片目を少し隠した緩くパーマのかかった俺と同じ黒色の髪が特徴的な女の子だ。

 マニッシュというか、中性的というのが正しいのだろうか、胸は控えめで服装も男物っぽい手入れの行き届いたズボンとシャツを付けている。


「いや、ファロンさんが悪い訳では無いよ」

「ですが……」


 本当に申し訳無さそうに頭を下げてくるファロンさんを慰める。

 これは偽りのない本心だ。

 子供がやめろといっても止まるはずがないし、確かマグネトランザ家は南部の貴族家で俺と接点が殆どない、そんな状況であれば少しでも情報が欲しいと思うのも当たり前だ。

 そして召喚貴族は法服貴族であろうが勝負を断ることは基本的にしてはいけない。

 腕前拝見というていであれば尚更。

 それを考えれば油断していた俺のミスにほかならない。

 即死案件とか言っておいてこのザマだ。


 そしてギャラリーも多い。

 生徒たちは次の授業どうしたんだという気持ちはあるがまあ良いとしよう。

 一緒に来ていた貴族の方々も気持ち的には良くないがまあ良い。


 なんで先生方も結構な数いるの?

 暇なのか?


「こちらは準備できました」

「こちらもOKです」


 ペーターさんが声を掛けてくるのに俺も返答する。

 使うデッキは<爆音>。

 こっちは真価をまだ半分しか発揮できてないしね。




「先攻をいただけたようで、では私は<磁力怪人 マグダル>を召喚します」

 <磁力怪人 マグダル> 1/1000/1000

[磁石合身]

 このユニットがフィールドに出た時、<磁力怪人 マグダルα>と<磁力怪人 マグダルβ>のカードを手札に加える


 <磁力>はシーズン6では環境トップではないがかなり強いテーマである。

 特徴は<磁力>と名の付くユニットの半分が備えている[磁石合身]という効果で、これは[磁石合身]同士がフィールドに存在し、かつ隣り合っていると強制的に合体してアタックとタフネスと特殊効果を合算したユニットが出現する、というもの。

 例を出すと2000/3000で[盾持ち][磁石合身]を持つAというユニットと1000/2000で[磁石合身]に加え死亡時にカードを1枚ドローする、という効果を持つBというユニットを隣同士で配置すると、

 3000/5000で[盾持ち][磁石合身]、さらに死亡時にカードを1枚ドローするというAという名前のユニットが出来上がる、という訳だ。


 合体するユニットのどちらが吸収される側なのかはちゃんと決まっており、これは操作しているプレイヤーから見て右側に配置したユニットが吸収される。

 ABと配置すればAという名前で[磁石合身]するし、BAと配置すればBという名前に[磁石合身]する。


 一見すると強そうに見えるが実際の所攻撃回数が減ってしまう点や単体攻撃魔法に弱いなど弱点も多く、いまいち勝ちきれないデッキだったりする。

 とはいえ<磁力覇王マグネトランザ>はかなり強く、出されれば油断はできない相手ではある。

 出されないけどね。

 シーズン11でも[磁石合身]は健在だが、主体のギミックという訳ではなくデッキのパーツに使う程度の地位に収まっている。

 そして<磁力怪人 マグダル>は数少ないシーズン11でも生き残っている<磁力>カードだ。

 1マナで2枚のユニットを生み出す動きは単純に強力。

 <磁力怪人 マグダルα>と<磁力怪人 マグダルβ>は磁力デッキでないとフィールドに出すこともできないが、手札にあるだけで利点になるデッキもあるのだ。


「僕はこのターン、何もせず終了です」


 今回運がなく1マナを引き込めなかった。

 <爆音>デッキは1マナをそこまで入れてないのでまあこういうこともある。


「では、<磁力獣 バルゴラ>を召喚し、<磁力怪人 マグダル>と[磁石合身]、そのままプレイヤーをアタックしましょう」

 磁力獣 バルゴラ 2/2000/2000

[磁石合身]


[磁石合身]した<磁力怪人 マグダル>の攻撃でライフは47000まで減らされる。

 <爆音ミドラ>を引き込めなかったのはちょっとキツいな。


「僕は<爆音 ファイラン>を召喚してターンを終了します」

 爆音 ファイラン 2/2000/3000

 このユニットがフィールドで破壊された時、デッキから2コスト以下の

 <爆音>ユニットをランダムに1枚手札に加える


 使いやすい2コスト<爆音>ユニット。

 専ら<爆音カーキー>を引き込むのに使われる。

 このユニットのせいで<爆音>は1コストのユニットを入れづらく初動何もできないという事になりがちなのだ。


「ふむ……私は<メカトリケラ>を召喚し、<磁力怪人 マグダル>でプレイヤーを続けてアタックします」

 メカトリケラ 3/2000/4000

[盾持ち]

 このユニットは<機械>としても扱う



 この人上手いな、やりづらいや。

 俺からすると<爆音 ファイラン>を自爆特攻させたいところだが<メカトリケラ>の絶妙なアタックがそれを許さない。


「僕は<チームの敵討ち>を<爆音 ファイラン>に使用し、<爆音 ファイラン>で<メカトリケラ>をアタック」

 チームの敵討ち 3

 ユニット1体に対し以下の効果を付与する

 破壊時に2000/2000の<爆音 メタンダ>を2体フィールドに召喚する


「なるほど、では、私は3コスト支払い<磁力怪鳥 ファジー>を召喚し、<磁力怪人 マグダル>と[磁石合身]させ、プレイヤーに攻撃」

 磁力怪鳥 ファジー 3/1000/1000

[磁石合身]

 このユニットは[盾持ち]を無視してアタックできる。


「更に、<磁力怪人 マグダルα>を1コストで召喚しターンを終えます」

 磁力怪人 マグダルα 1/1000/1000

 このカードはフィールドに<磁力>ユニットが存在しない限り召喚できない


 これでライフは40000、相手は50000で現状俺が一方的にやられてる状態だ。

 さてさて、どうするかな。





「ファロンのパパやっぱ強いねえ、うちのパパと大違いじゃん」

「毎回選抜の上位10組には入っていたからね…、今回はギリギリだったけど」


 ファロンと一緒に観戦しているのはテミッサ=ファラウォン、ファロンと同じく南部の貴族家の娘だ。

 髪の毛は緩くウェーブのかかった金髪でポニーテールで見た目はギャル。

 中身もギャルっぽさの溢れた天真爛漫な少女だ。

 ちなみに既に婚約者がいる。


「対テンマ先生対策をちゃんとしてきたみたいだし、いまんところ有利に進んでるね。先日から根掘り葉掘り対戦したときのことを聞かれて大変だったよ」

「ただここからよね、初回授業の時見てると<超爆音 赤熱ベリル>をどうするかが一番の問題ってカンジだったし」

「一応話をしたけど難しい顔をしていたね、確かにどう対応すればいいか僕もわからないけど」


 そう言いつつもファロンの顔は少し誇らしげだ。

 序盤とはいえやはり父親が自分が負けた相手をやり込めているというのは気分が良いものなのだろう。


「ただ、センセの事だから<超爆音 赤熱ベリル>の先が多分あるよね」

「恐らく……そこは全くの未知だからね。僕達では引っ張り出せなかった」


 そう、生徒たちでは<超爆音 赤熱ベリル>の先は結局引きずり出せなかったのだ。

 この先何が出るか、2人は期待半分不安半分という気持ちで対峙している2人に視線を戻した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ついにストックが切れました。

 更新ペースが落ちると思います、申し訳ありません。


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