第54話 不死王リッチー
不死王リッチー 7/4000/16000
ワースカード
このカードが場に出た時、以下のルールを追加する。
セメタリーに送られたカードは<不死王リッチー>以外<不死王の尖兵>に変化する。
<不死王リッチー>が場を離れた時、ルールは削除される。
このカードが場に出た時、セメタリーの全てのカードが<不死王の尖兵>に変化する
このユニットはターン開始時墓地に存在する不死王の尖兵を1+x体召喚する
xはこのユニットがフィールドに留まっているターン数に等しい。
このユニットが破壊された時、一度だけデッキのカードを上から5枚を墓地に送る事でタフネス2000でフィールドに留まる事ができる
このユニットの効果は無効化されない
シーズン10のアニメのラスボスが使用した超強力ワースカード。
ルール追加と効果無効化耐性、コストに見合わぬ異常なタフネスと一度だけ破壊を免れる効果どれを取ってもスキがない。
更に<不死王リッチー>自体は破壊されても<不死王の尖兵>には変化しない為
墓地からの再利用も可能という厄介極まりないユニットである。
次ターンからしか動けない点と魔法耐性を持たないのが明確な弱点であり、アニメでもその弱点を突かれ主人公に敗北した。
ただし、魔法耐性がないのはメリットにもなり得る。
天馬が<不死王リッチー>を召喚した瞬間、練習場は闇に包まれお互いのデッキから凄まじい悲鳴が上がった。
更に場にはずたぼろのローブを纏った頭が3つ、腕は6本の禍々しい死者の王が意味不明な言語を喋りながら機械天使に対峙している。
あまりの姿に観客席からは悲鳴が上がり、泣き出している子もいる。
対峙するクロスモアもこの明らかな「なにかヤバい」オーラに思わず後ずさってしまう。
「な、何よこれ……」
「君の<機械天使ヴァルキュリアZERO>を見てみるといい」
「えっ!?な、なんで!?」
クロスモアは大いに狼狽した。
<機械天使ヴァルキュリアZERO>のステータスが元の6000/9000に戻っているのだ。
「<不死王リッチー>のテキストをよく確認してみよう、今ならば手元で読めるはずだ」
促されるまま、クロスモアは<不死王リッチー>の効果確認を行う。
「……このカードが場に出た時、セメタリーの全てのカードが<不死王の尖兵>に変化す……ま、まさか!」
「その通り。セメタリーを確認してごらん」
「あんた本当……いい性格してるわ」
クロスモアは膝を付きそうになるのをなんとか堪え、改めて現状を正しく認識した。
今までセメタリーに落とした<天使>や<機械天使>が全て<不死王の尖兵>に変化していたのだ。
不死王の尖兵 2/3000/1000
[クイック]
このカードをプレイヤーは操作できない
このカードはランダムな敵を攻撃する
「墓地を利用するデッキにはこういう落とし穴もある。覚えておくといい」
「何者なのよ貴方……」
「ただの新任教師だよ……<不死王の番龍>で<機械天使ヴァルキュリアZERO>を攻撃してターン終了だ」
「~っ!!馬鹿にして!」
(どうする?どうするどうする?)
クロスモアは考える。
ここからあのいけすかない新任教師を負かす方法を。
マナは8ある、手札も潤沢。だが決定打がない。
「……まずは手負いの<不死王の番龍>を<アパシアの宝剣>破壊するわ」
<不死王の番龍>に対し<アパシアの宝剣>を乱雑に投げつけ、破壊する。
これでクロスモアのライフは43000、天馬のライフは17000。
傍から見れば圧倒的にクロスモアが有利だ、だがコストの上がった手札のカードが、グロテスクなアンデッドユニットが、未知の敵と対峙しているという恐怖感がクロスモアの判断力を削ぎ落とし、狂わせる。
「……少し深呼吸して落ち着きなさい、今の場面は<不死王の番龍>を破壊すべきではなかったよ」
「は、はあ!?」
「<不死王の番龍>の効果を読んだかい?」
「えっ?あ……」
不死王の番龍の死亡時効果。
このユニットが破壊された時、デッキからコスト6以上の<不死王>ユニットをデッキから手札に加えても良い。
そう、クロスモアはわざわざテンマの盤面をみすみす強化するアシストをしてしまったのだ。
「なんで戦ってる相手にそんな……」
「僕は教師で、君は生徒だからだよ……今の場面なら迷わず<不死王リッチー>を<機械天使ヴァルキュリアZERO>で攻撃して破壊し、フィールドをわざと空けるべきだった。マナは適当に装備なんかで消費してね。そうすれば次のターンでは少なくとも僕の切り札の引き込みは阻止できたかもしれない」
「……~ッ!!!<聖矛ゴールデンエンゼル>を装備してターン終了!!」
(くそう、くそうくそうくそう!)
自信はあった。
ここ最近は稀にだが母にも勝てるようになった。
校内でだって無敗とはいかないが勝率はここ2年トップを維持している。
そんな私がいいようにやられて、あまつさえアドバイスされている。
クロスモアの頭はバトルよりもそんな事で一杯だった。
怒りは判断力を鈍らせる。
分かっているはずなのに頭が冷えない。
(やりすぎたかな)
アドバイスは流石にプライドを傷つけた過ぎたかな、と天馬は今更ながら思った。
でも多分この子が教室の中で一番強い、デッキの相性こそ悪いが判断力は中々のものだ。
次がドライドで観客席を見る限り特に目立つのはこの2人だろうと判断した。
「まず、<不死王リッチー>の効果で、<不死王の尖兵>を2体召喚する。<不死王の尖兵>は効果で出現後ランダムで敵に攻撃する、といっても[盾持ち]の<機械天使ヴァルキュリアZERO>に攻撃が行くけどね」
<不死王の尖兵>2体が<機械天使ヴァルキュリアZERO>に攻撃を仕掛け、相打ちとなる。
これでクロスモアの場は空となった。
「……僕はコストを8消費し、<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>を召喚する」
不死王の失敗作 ギガントゾンビ 8/2000/18000
このユニットはダメージを受けるたびに相手1体を選択して2000ダメージを与える
このユニットは毎ターン終了時に自分のタフネスを3000ダメージを受ける
はた迷惑な効果が搭載された高コストユニット。
タフネスこそ高いが<不死王リッチー>より更に貧弱なアタックと毎ターン自傷ダメージを食らってしまう点からおおよそ役に立たないように見える、というか実際そうだったのだが、あるカードとの組み合わせで超凶悪なコンボができることが発覚した為評価が一変した。
<不死王の番龍>でリクルートできるため枚数が必要ないのもポイントが高い。
人間の体が絡まってできたかのような巨大な塔が召喚され、ところどころにゾンビの顔がついてうめき声を上げている。
<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>と<不死王リッチー>が並び立つ画面はかなり圧迫感が強く、クロスモアの心を着実に追い詰めていく。
「<不死王リッチー>でプレイヤーを攻撃して、ターンを終える。ターン終了時に<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>は3000ダメージを受けて、僕はプレイヤーを選択して2000ダメージを与えるよ」
「くぅ!」
塔の頂点に生えているゾンビの顔から紫色のビームが発射され、クロスモアに着弾する。
(落ち着け私、ライフはまだ36000、余裕がある)
「……私は7マナで<機械天使 ハレーシアン>を召喚します!」
機械天使 ハレーシアン 6+1/8000/7000
このユニットが場に出た時、手札の<機械天使>ユニット1体のアタックとタフネスが+2000される
「そして、<聖矛ゴールデンエンゼル>でプレイヤーを攻撃し、ライフを2000回復させる!ターン終了よ!」
(これであいつのライフは13000、こちらは38000まで戻した、<機械天使 ハレーシアン>が破壊されても時間を稼いで強化を繰り返せばまだ可能性はある…!)
クロスモアは多少の冷静さを取り戻し、天馬の次ターンの行動に備える。
しかし次のターンに天馬の放つ一手がクロスモアを更に奈落に突き落とす。
「僕のターン、まずは<不死王の尖兵>を3体召喚して攻撃するよ」
<不死王の尖兵>の攻撃は2体はクロスモアに攻撃を行い、1体は<機械天使 ハレーシアン>に突撃し、そのまま自滅した。
「<不死王リッチー>で<機械天使 ハレーシアン>攻撃し破壊……そして僕は手札から<断裁ミンチドリル>を使用する」
断裁ミンチドリル 5+x
このカードはユニット1体に対し1000ダメージを5+x回与える。
このカードを発動する時、0から5までのマナを追加して使用しても良い
このカードのxは、追加したマナの回数に等しい。
カードラプトで数少ないエラッタ(効果を変更)されたカードであり、シーズン11現在2枚までの制限カードとなっているパワーカード。
対象がユニットのみとはいえ1マナ1000ダメージに変換できるのは非常に強く、一発で10000ではなく1000ダメージを10回なので非常に使い勝手が良い。
最初に出た時は5+xの部分が1+xとなっており、あまりの取り回しの良さからどんなデッキにも4枚入って除去に使われていた為、一時は禁止となっていたがエラッタされ蘇った。
このカードを何に使うかはもうおわかりだろう。
(<不死王リッチー>のタフネスを削る?名前からして直接攻撃魔法?)
「対象は…<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>だ」
会場は一瞬、何してるんだこの人?という空気に包まれた、が。
「え?……ああ!?」
「まずい!」
今まさに対戦していたクロスモアと、いつの間にか復活しおとなしく観戦していたドライドのみがこの致命的な状況に気付く。
「このカードは追加で使用マナを決めることができるんだ、当然ながら使用するのは今使える最大の数値である3だ。つまり、<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>に8回、1000ダメージが入る……屈んで防御しておいたほうが良い」
<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>はダメージを食らうたびに対象を指定して2000ダメージを与える。
そこに<断裁ミンチドリル>で8回1000ダメージを与えると2000ダメージが8発、つまり16000ダメージが相手に飛んでいく。
自分の運命を悟ったクロスモアは天馬のいうとおりに屈んで手を前に出し、頭を守る体勢に入った。
瞬間。塔の頂点に生えているゾンビの顔が激しく点滅し、紫色のビームが思わず屈んだ対象を狙い乱射される。
「きゃああああああああああああ!?」
体勢のおかげでコケたりはしなかったものの、流石に8回連続でダメージを食らうと堪えるようで、クロスモアは中々立ち上がれない。
「更に<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>でプレイヤーを攻撃し、ターン終了、その際に<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>は自傷ダメージ3000を受け、更に2000ダメージを与える」
1ターンに20000ダメージを喰らいライフは18000まで減らされた。
気付けば天馬のライフとそう差がなくなり、絶望的な盤面の差。
更に眼前に展開されるおどろおどろしい化け物の姿にクロスモアの心は折れる寸前であった。
だが、クロスモアはこのドローでこの状況を唯一打開しうる一手を引いた。
「……やった!!」
思わず顔が綻ぶ。
それを見てわずかに眉を上げる天馬
(この状況で喜べるカード…天使族…あれか!)
「私はデッキのコスト5以上の<天使>ユニットをセメタリーに送り、<不死王リッチー>に対し<天罰>を発動!」
天罰 6
デッキ内のコスト5以上の<天使>ユニットをセメタリーに送る
ユニット1体を破壊する
カードラプトにおいて、ユニット破壊魔法の調整はかなり慎重に行われてきた。
いくらユニットカードのインフレが進もうとも、問答無用で破壊する場合のコストは7という指標は発売開始以降変わらず、ここに条件を足してコストを下げるカードデザインとなっている。
この天罰もその1枚。
「僕はデッキの上から5枚を墓地に送り<不死王リッチー>を体力2000で場に留める!」
「私はその<不死王リッチー>に対し<聖矛ゴールデンエンゼル>で攻撃!」
リッチーは天罰をまともに喰らった上、<聖矛ゴールデンエンゼル>の投擲を頭に喰らいそのまま霞となり消えていった。
「更に、コスト3を使用して手札から<機械天使 ハレーシアン>の効果で強化された<機械天使ファーレウム>を召喚するわ!」
機械天使ファーレウム 3/3000+2000/3000+2000
[盾持ち]
会場が沸いた。
それはそうだ、あのとんでもない<不死王リッチー>に一矢報いて体勢を立て直したのだから。
そこに聞こえてくるぱちぱちという乾いた拍手の音に会場は徐々に静まり、再び静寂が場を支配する。
音の主は天馬その人だ。
「素晴らしい、あそこで<天罰>を引き込むとは。流石に想定していなかったよ」
「……どうも、と言っておきます」
「でもね、僕もまあ一教師として、何より大見得を切った手前負けるわけにはいかないんだよね」
「……」
クロスモアも分かっていた、今自分はまったく有利でなんかないことを。
残りライフは16000、相手の場にはライフ4000の<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>と<不死王の尖兵>が2体。
次のターン開始時に<不死王の尖兵>2体が<機械天使ファーレウム>と相打ち死ねば場は空になる。
「じゃあ、僕のターンだ、まずは<不死王の尖兵>2体で<機械天使ファーレウム>を攻撃する、そして……」
天馬は意地の悪い笑顔を浮かべながらカードを発動する。
「<小さな地獄門>を発動する」
<小さな地獄門> 5
セメタリーにあるコストの一番小さなユニット3体を[蘇生]させる
この時ワースカードは[蘇生]しない
[蘇生]は文字通りセメタリーからユニットを蘇生させる行為である。
このカードは普通に使ってもその時間帯では役に立たないカードを蘇生させることになりかねない為、もっぱら専用デッキを組んで運用される。
なお[蘇生]では登場時効果は発動しない。
「コストの一番小さい…まさか!」
小さな門が3つ開き、そこから出てくるのは当然、<不死王の尖兵>。
それも3体。
そして出てきた<不死王の尖兵>は当然ながらクロスモアに攻撃を行う。
これでクロスモアのライフは7000。
「更に僕は4コストで<ドゥームソルジャー>を召喚して、プレイヤーを攻撃するよ」
ドゥームソルジャー 4/5000/3000
[クイック]
このユニットは自分フィールド上のコスト2以上のユニット2体を破壊しなければ召喚できない
破壊されたユニットの死亡時効果は発動しない
場の2体のユニットを引き換えにする必要があるが、平均以上のステータスと速攻能力を備えたユニット。
<小さな地獄門>とセットで採用されることが多い。
これでライフは2000。
「更に<不死王の失敗作 ギガントゾンビ>で攻撃して……終了だ」
「……負けました」
クロスモアは俯いたまま天馬と試合終了の握手を行い、そのまま観客席に戻る。
そして戻った席で頭を抱えたまま座り込んでしまい、そこに何人かの少女が駆け寄る。
「さあ、次だ。誰でもいい、まだ来てない子はかかってくるんだ」
天馬はにっこりと笑いながらそう言った。
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