第53話 ヘルオード家の才女
「では、そちらからどうぞ」
「遠慮なく、<機械天使ホウテン>を召喚して終わりです」
機械天使ホウテン 1/1000/1000
このカードがセメタリーに置かれている時、一度だけ致死ダメージを受けた時に0にする
この効果はゲーム中一度しか使えない。
「じゃあ僕のターンだね、<シザーアンデッド>を召喚、召喚時効果によりセメタリーに手札を1枚送り、<機械天使ホウテン>を攻撃し破壊する」
シザーアンデッド 1/2000/3000
このカードは手札を1枚セメタリーに送る事で手札から召喚することができる
このカードはユニットに対し召喚後すぐに攻撃できる
手札を1枚減らすという行為でこのユニットを出すのは正直割に合わない、が
その先のコンボを見据えているのであれば話は別、というユニット。
このカードが初手で出てくると警戒が必要になる。
「へ?」
思わずクロスモアが面白い声を上げる。
それはそうだ、デッキがさっきまでの<爆音>デッキではなくなっているのだ。
観客席もそれに気付き、一際大きいざわめきとなって会場を包み込む。
「どうしたいんだい?」
「それ…さっきの…カードが」
普段は常に冷静で涼しい表情を崩さないクロスモアが驚愕の表情で口をぱくぱくさせながら
<シザーアンデッド>を指さして声にならない声を上げている。
「ん?<シザーアンデッド>がどうかした?」
「なんで…」
「ああ、<爆音>デッキではないよ」
「なんで2つもデッキを持っているんですか!?」
「そりゃあ当たり前だろう?ずっと同じデッキで戦ってちゃ先に挑んだ子達が余りにも不公平だ」
「そうじゃなくて!」
いつも冷静なはずのクロスモアが地団駄を踏んで大声で突っ込んだ。
とはいえ、彼女の言葉はこの場にいる天馬以外全員の気持ちを代弁しているものだ。
召喚貴族において複数デッキ持ちというのは珍しいものではない。
ただそれは家が所有している長年をかけて集めた同じ種類のカードの集積体、という前提がある。
全く別系統のデッキを個人が持つ、というのはあり得ないのだ。
「君はあれかい?初見のデッキとは戦えないとでも言うのかな?」
「…!!」
ここぞとばかりに天馬が正論で殴りつけ、クロスモアはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「さあ、続けよう。君のターンだ」
「……<天印の大戦鎚>を装備しプレイヤーを攻撃します!」
天印の大戦鎚 2
手札、セメタリー、フィールドのいずれかに<天使>の名の付くカードが存在する時使用できる
これをプレイヤーに[装備]する
装備したプレイヤーの攻撃を3000上げる
2回攻撃を行うとこの[装備]は破壊される
(やはり持っていたか、コモンだしな)
カードラプトにおいてレアリティは通常パックから出るものはコモン(C) レア(R) スーパーレア(SR) ハイパーレア(HR)の4種類である。
<天印の大戦鎚>がシーズン11時点で禁止になっているのはコモンであったことも理由として大きい。
これで天馬のライフは17000となった。
(こちらもユニットには目もくれずプレイヤーを攻撃か、ライフを減らしたのは悪手だったな……)
天馬は今更今回のやり方の欠点に気づく。
よくよく考えればライフを減らせば当然プレイヤーを優先して殴ってくるのは自明の理だ。
これでは生徒ごとのプレイングの傾向が見えてこない。
(とはいえ、まあ別に急ぐ必要性はないか)
そうひとりごちて天馬は自分のターンを進める。
「僕は<不死王の灯火>を召喚するよ」
不死王の灯火 2/2000/3000
このカードは攻撃することができない
このカードはデッキ全体のカードのうち<不死王>と<アンデッド>カードが合計30枚以上投入されている時のみ召喚することができる
相手がデッキから引いたカードのコストを+1する
このカードの効果は重複しない。
<アンデッド><不死王>デッキの要。
これを2ターン目に着地させれるかどうかでその後が決まる最重要カード。
真っ先に除去したとしても最低でも1枚はコストが+1されてしまうので非常にいやらしい。
なお、10コストのカードのコストは増えない。
「さっきから貴方はなんなのですか……そんなカード見たことも無い……効果だって……」
「さっきも言っただろう、見たことのないデッキだからって戦えないのかい?」
「だからそうじゃない!…ええい!<天使ララエル>を召喚!効果で手札の<天使>カードを強化します!そして<不死王の灯火>を<天印の大戦鎚>で攻撃!」
天使ララエル 2/2000/2000
このユニットがフィールドに出た時、ランダムで手札の<天使>カード1枚のアタックとタフネスを+1000上昇させる
「僕は3コストを支払い <メルトアンデッド>を召喚し、<天使ララエル>を破壊する」
メルトアンデッド 3/2000/2000
このユニットがフィールドに出た時、敵1体に2000ダメージを与える
<アンデッド>デッキではほぼ4投される優良カード。
お手軽3コスト2000火力として相手のライフを削ったりユニットを除去したりと非常に便利なユニット。
オォォォォォォォ……
「うっ…」
<メルトアンデッド>の姿と叫び声にクロスモアは思わず顔をしかめる。
匂いはしないものの目の前にあるのは溶けかけの腐乱死体だ、見ていて気持ちいいものではない。
こういった心理的圧迫感は馬鹿にならない、現に子供が多い店では<アンデッド>他恐怖を煽るようなデッキは使用禁止としているところもあった程だ。
「……私のターン、4コスト支払い<天使の旗振り役 リリン>を召喚して効果を発動、デッキからコスト6以下の<天使>カードをドローして、手札の天使カードを強化します」
<天使の旗振り役 リリン>は本来3コストだが、<不死王の灯火>の効果で4コストとなっている。
「凄いですわね、テンマ先生……」
「だろう?」
演習場の上部にある特別閲覧席からこっそりとヴァディス先生とカーネル第一王子が覗いていた。
「彼にはカードラプト科に在籍している生徒の実家から頂いた証文を渡してある、あれがある限り多少の無茶は大丈夫だ」
「全貴族家から取れたのですか?」
「まさか、おおよそ9割といったところだ。残り1割は王家で止める故苦情が来たらこちらに回してくれ」
「分かりました」
「彼には余りにも問題のある者は留年勧告を行っても良いと言っている、実際は他の先生方との話し合いになるだろうが」
「……そこまで酷い子は流石にいない……と思いたいのですが」
カードラプト科に在籍している生徒はカードラプトの授業は必修となる。
当然ながら必修科目で評価と取れないと進級はできない。
とはいえ前任の時はおろかもっともっと前から出席や評価など形骸化していたので実際にカードラプトが原因で留年したものは過去1つの事例もない。
「以上だ、また何かあったら連絡する」
「はい、お気をつけて」
カーネルはそう言い残し、去っていった。
「僕は2枚目の<不死王の灯火>を召喚し、更に2コストでワースカード<王族ゾンビ>を召喚、<天使の旗振り役 リリン>を<メルトアンデッド>で攻撃する」
王族ゾンビ 2/3000/4000
ワースカード
このカードはカード名<アンデッド>とも扱う。
このカードがフィールドに出た時、自分はカードを1枚ドローし、相手はカードを2枚ドローする。
このカードがアタックする時、相手はカードを1枚ドローする。
「まさか…」
「さあ、カード2枚ドローすると良いよ」
「最悪……」
<王族ゾンビ>はステータスこそ優秀だが相手に2ドローと、アタック時に更に1ドローのアドバンテージを与えてしまう為かなり使いづらい。
だが<不死王の灯火>がある場合は話は別だ、相手にとってカードを引くという行為のアドバンテージがコスト増加によって激減してしまう。
激減するだけならまだマシで、コンボ用のカードの合計マナコストが10を超えてしまえばそのコンボは使用不可能となり、激減どころではなくただただ損をするばかりになってしまう事すらある。
(今5コストの<機械天使アパシア>を引いたけどコスト6になってしまってる……一番欲しい<聖矛ゴールデンエンゼル>も手札にない……まずい……)
手札は潤沢なのに動ける手が殆どない、クロスモアにとって初めての経験だった。
「…‥コスト3の<機械天使エタード>を召喚し、<天使の旗振り役 リリン>で<不死王の灯火>を攻撃!」
機械天使エタード 3/3000+1000/3000+1000
このユニットが墓地にある時、<機械天使>のユニットのアタックとタフネスが1000ずつアップする
この効果は重複しない。
(この子の<機械天使>は墓地利用型か)
天馬はそう想定した。
カードラプトに存在するテーマデッキは何も1つの型が決まっているのではなく、その当時の環境や流行りで同じテーマでもさまざまなタイプが存在する。
例えば<機械天使>であればヘンリエッタのハンドバフ重視型、クロスモアの墓地利用重視型などだ。
特に環境が一強になればなるほどテーマ内で派生デッキが増えて行く傾向がある。
(だが悲しいかな、この<不死王>デッキとは相性最悪なんだよね)
「僕はコストを5支払い、<不死王の番龍>を召喚する。その効果によりデッキの上から2枚をセメタリーへ送る」
不死王の番龍 5/5000/6000
このユニットの登場時、デッキの上から2枚のカードをセメタリーに送る。
このユニットが破壊された時、デッキからコスト6以上の<不死王>ユニットをデッキから手札に加えても良い
「<王族ゾンビ>でプレイヤーを攻撃する」
これでクロスモアのライフは47000となり、更にカードを1枚ドローする。
そのカードのコストは<不死王の灯火>の効果で1上昇する。
(このままでは……)
手札は増える、クロスモアのデッキは墓地利用が主体とはいえハンドバフも豊富に入っている、出したい組み合わせを出すにはマナが足りない、全く噛み合わない。
「<機械天使アパシア>を6コストで召喚し、<機械天使エタード>で<不死王の灯火>を破壊する!」
<機械天使アパシア>5+1 4000/4000
[盾持ち]
このユニットがフィールドに出た時、手札の<機械天使>カードのアタックとタフネスが+1000される
このカードがフィールドからセメタリーへ移動した時、アタック2000/攻撃回数2の<アパシアの宝剣>を装備する
5コストとしてはステータスは控えめだが最後に武器を残して死ぬのが偉い。
4投ではなく2投されるタイプ。
「僕は<不死王の番龍>で<機械天使アパシア>を破壊し……<反魂法>を<不死王の番龍>に使用し、破壊する」
反魂法 5
このカードはデッキ全体のカードのうち<不死王>と<アンデッド>カードが合計30枚以上投入され、更に<アンデッド>と名のついてないユニットに対し使用する事ができる。
そのユニットを破壊する。
破壊したユニットをフィールドに召喚させる。
召喚されたユニットはこのターン攻撃することができず、名称が<アンデッド>となる
汎用性の塊とも言える最強クラスの魔法。
破壊時効果はもちろん登場時効果も発動するのでこれ1枚で莫大なアドバンテージが稼げる。
その他傷ついたシステムユニットを新品に戻すなど用途は多岐に渡る
実質的な<不死王>専用カードであるがこの制約がなければ全デッキで使用されるほどの性能なので仕方がないと言える。
ちなみに、天馬が今回学校に持ち込んだ<爆音>と<不死王アンデッド>デッキはどちらもジョイント召喚やダブル召喚を使用しないデッキである。
これは生徒を不必要に刺激しない為でもある(あまり意味はなかったが)
以前はそれこそジョイント召喚やダブル召喚が全盛であったが、シーズン11ではどちらかというと合体召喚を使うデッキや特殊な召喚方法を使わないデッキのほうが強くなる事が多かった。
「僕は<不死王の番龍>の破壊時効果でデッキからカードをサーチ、更に登場時効果で2枚墓地へ送るよ」
「……嫌らしい戦法ね」
<機械天使アパシア>破壊時に右手に装備した<アパシアの宝剣>を鞘から抜きながらクロスモアが言う。
「褒め言葉として受け取っておくよ、<王族ゾンビ>で<機械天使エタード>を攻撃してターンを終わる、さあ1枚ドローしなよ」
「……ほんと最悪」
この<王族ゾンビ>の攻撃でクロスモアの手札は10枚になってしまった。
カードラプトは手札のMAX枚数は9枚、それ以上カードが増えれば都度9枚になるようにセメタリーに送らばならない。
次のターンでドローした際も捨てる必要性があるのでクロスモアはこのターンで都合2枚捨てなければならない。
とはいえ、懸念であった<不死王の灯火>は既に破壊済で今回の1ドローはラッキー以外の何物でもない。
更にターン開始時のドローでついにクロスモアが切り札を引き込んだ。
「その余裕ぶった顔をこのカードで歪めてあげましょう!私はワースカード<機械天使ヴァルキュリアZERO>を召喚し、更に<アパシアの宝剣>でプレイヤーを攻撃してターンを終了します!」
機械天使ヴァルキュリアZERO 7/6000+6000+1000/9000+7000+1000
[盾持ち]
ワースカード
このカードは他のカードの効果によるアタック/タフネス強化を受け付けない。
このユニットはセメタリーにある<天使>カードのアタックとタフネスを上昇させるカード1枚につきアタックとタフネスが1000ずつ上昇する(最大6000)
<機械天使><天使>では代表的な大型ユニット。
ステータスが強化前提の為やや貧弱な事と初期カードの為殴ることしかできない点であまり評価が高いわけではないが、それでも後半に出てきた時の強さは目を見張るものがある。
+1000は<機械天使エタード>の効果によるもののため別枠で表示されている。
ちなみにこのカードはヘルオード家に1枚しか存在せず、ヘンリエッタが対抗戦の時以外娘のクロスモアに貸与している。
仮面を被り、右腕にライフルを持ち、左手には大きなタワーシールドを持った機械じかけの天使が場に降臨し、観客席が今日初めて沸いた。
なんだかんだでクロスモアはカードラプトに関しては首席である。
それが色々とうるさそうな新任講師を倒してくれるのであれば負けた人間もこれから闘う人間も胸がすくし気もいくらか楽になるというもの。
ドライドはいまだ放心状態である。
「13000/17000の盾持ち…なるほど、とんでもない大きさのユニットだ。流石ヘルオード家のお嬢様だね」
天馬は素直に賞賛する。
実際シーズン11のカードであっても17000は対処にかなり困る大きさだ。
その言葉を聞いてクロスモアのすり減った自尊心は急速に回復し、落ち着きを取り戻す。
だが。
「だけどね」
天馬が不敵に笑い、二の句を告げる。
「切り札を引き込んでいるのはこちらも一緒なんだよ……いでよ、<不死王リッチー>」
天馬がそのカードを召喚した瞬間。
耳をつんざくとんでもない音量の亡者の悲鳴がお互いのセメタリーから聞こえた。
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ハンドバフは計算が面倒ですね…
次回更新は出張の為週明けとなります。
年末年始は仕事の繁忙期と重なりますので、更新が不定期になる可能性があります
ご了承下さい。
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