第48話 新生活に向けて
2日後、選抜の全試合が終わった。
7傑に選ばれたのは
ハルモニア家
タケハヤ家
セレクター家
ファドラッサ家
ヘルオード家
ネプチューン家
パラス家
の7家。
記念セレモニーも特に何事もなく終了し、その日の夜は軽い打ち上げを身内だけで行う事となった。
「では、皆さんお疲れ様でーーす!」
カスミが音頭を取り乾杯する。
身内、といっても俺と女性陣の6人のみ。
ベッドサイドに腰かけて軽く飲む、といった所。
トリッシュが先立って行われたセレモニーで軽く食べて飲んでいるのもあるので料理も2人前ほどある程度だ。
「しかし、スルト家が落ちたか…」
「家中は大騒ぎみたいね、現当主の隠居がかなり早まりそうだとか…パパが嘆いていたわ」
やっぱり動きがあるか。
後継者問題に関しては王宮は手出しできないのが常らしいので見守るしかないしね。
「あとテンマ、3日後ぐらいにここ引き払って新居に越すから荷物まとめておいてね」
「ああ、そういえば屋敷が貰えるとかなんとか言ってたね」
「そうそう、といっても王宮のすぐ近くだけどね」
「そして教師生活が始まりかあ」
新居に越した後はいよいよ教師として貴族学校に赴任する。
今学校は選抜に合わせて長期休暇中で、それが明けたら、という形になるらしい。
「教師といっても授業1つと実技だからそう負担にはならないと思うわ、新婚って事で配慮もしてもらうし」
「貴族においては跡取りが一番重要ですからね」
この世界において貴族の新婚はあらゆる面で配慮される。
具体的に言うと第一子誕生までは子作りに集中しろ、というスタンスらしい。
「しかし子供かあ…正直まだイメージ沸かないなあ」
「兄も同じような事をこの前言っていましたね」
ナギが隣に来て酌をする。
今回は俺だけ酒で他の面々はジュースだ。
ほぼ未成年だしね。
「そういうものよ、子供だって教師だってなってみたりできてみないとどうなるかわかんないんだから」
「女性にそれを言われると同意するしかないなあ」
そういい俺は手元のグラスを空ける。
「旦那様は教師になられますが具体的に何を教えるのですか?」
「んー……そうだな……」
シオンの質問に俺が現時点で考えていることを話す。
「とりあえずウィルに言われたようにとりあえず全員一回凹ませてからしばらくは座学ばっかりかな……」
「座学、ですか」
シオンが意外そうな顔でこちらを見ている、他の女性陣もぽかんとしている。
「ん?なんかおかしい?」
「基本的にカードの授業での座学はいわゆるカード効果の説明以外はなくて、実技が主だったので……」
「そうなんだ、結構座学で教える事あるんだけどなあ」
「そうなのですか?」
トリッシュがずいっと顔を寄せてくる、現役選手だから思う所があるんだろう。
「一度予行演習として私達に授業してみてはどうでしょう?」
「お、それいいね。やってみようか」
俺はクレアのナイスな提案に乗る事にした、皆学生経験してるし忌憚のない意見をくれそうだ。
「ふう、なんか暑くなってきたな」
酒が効いてきたかな、と俺は上着を脱ぐ。
「むふふふ…」
カスミが不敵に笑っている。
……なんかこのパターン前もあったような……?
ちょっと考えて最悪の可能性に気付く。
「……盛った?」
「「「「「ばっちり」」」」」
5人全員にっこりと笑って答える。
やられた。
またやられた。
「選抜中はお互いお預けでしたからね、今日は皆で楽しみましょう。旦那様」
クレアはそう言いつつ俺のズボンを脱がしにかかる
「テンマさん、がんばったご褒美が欲しいです」
いつの間にか上をはだけていたトリッシュが俺の手を胸に押し込んでくる。
「今日は私が一番最初です、お兄様、今日はパパとお兄様どっちでお呼びしましょうか?」
ナギは俺の腰掛けているベッドの上に正座で座ってそう言い誘惑してくる。
彼女の言った言葉は聞かなかった事にして欲しい。
「お薬の効果もあります、テンマ様は横になっているだけで構いません、私達がご奉仕しますので」
シオンは慣れた手付きで後ろから上着を脱がし、俺を横たえる。
「じゃあ、皆でいただきましょうか」
カスミの号令と共に一斉に女性陣が襲いかかってくる、運命の夜以来久々の一方的な捕食が始まった。
「でかいな…」
3日後。
俺は王宮の人に貸与される屋敷に案内された。
第一印象はとにかくデカい。
大きさ的にはハルモニア家やセレクター家の半分程度だがあの家は巨大な庭や競技スペースがあってのものなので
家単体でこの大きさはたじろいでしまう。
「警備等を考えるとこのぐらいの大きさになってしまうのです、これでも小さめなのですよ」
書記官は言う。
「では、こちらから派遣するテンマ殿の部下となる者共を紹介します。といっても元カスミ王女のお付きの方ばかりですが」
予め庭にスタンバイしておいたであろう20人ほどのスタッフが入り口まで歩み出て一斉に礼をする。
俺はその中の1人のある部分に釘付けになってしまった。
メイド服に身を包み、髪色は銀で外ハネのミディアムヘアー、瞳は今にも寝てしまいそうなほどに目が細く、ぽやぽやとして優しそうな雰囲気を醸し出している。
この世界の基準で言えば若くはない、恐らく俺と同年代で女ざかりという年齢だろう、そしてひと際目を引くのがその胸だ。
デカすぎる、お屋敷よりも衝撃を受けたデカさだ。
端から順に自己紹介してもらっているがはっきり言って殆ど頭に入っていない。
明らかにガン見していたのがわかったのかトリッシュとクレアに両足を踏まれた。
いやでもすごいんだよ…見てしまうよこれは…。
「私、リリクランス=ギヴェニアと申します、リリと呼んでくださいませ。以前はカスミ様の専属侍女を任されておりました、こちらでは侍女長として奥様達の体調管理など多岐に渡って担当させていただきます、以後お見知りおきを」
そう言いぺこりと頭を下げる。
そういえば確かにカスミ付きの人間が集まったという話通り女性が多いな…。
流石に警備隊長以下力仕事組は男だけども。
その後は特に波乱なく自己紹介は終わり、鍵を引き渡された。
その鍵で中に入り執事長から各部屋の案内を受ける。
「お館様、ご案内中の話になりまして申し訳ありませんが明日より予定が詰まっております。学校が再開されるまでの19日間でハルモニア家・セレクター家・タケハヤ家・ファドラッサ家を周り親類への挨拶回りを行ってください」
「ええ……」
「お館様の顔を繋ぐ為の大事なお仕事でございます」
こう言うのは今日から執事長に任命されたグローディア=コルゲールさんだ、初老の女性で後ろ手に縛られた白髪交じりのオレンジ色の髪が特徴的、妙に耽美な顔つきと無造作にも程がある髪の毛のまとめ方が不思議とマッチしている。
そして明らかに動きが人を殺した経験があります言ったオーラが出ていて正直怖い、なんというかヘンリエッタさんと同種の雰囲気を感じる。
ちなみにカスミの護衛だった人で「一生頭が上がらない人」らしい
「ああ、言い忘れておりましたが、私はお館様や奥方様の護衛も兼任しております故、帯刀をお許しください。旦那様」
グローディアさんは立ち止まって俺に一礼する。
「ええと……僕ははっきり言って弱いです、そんな僕では暴力から家族を守れません、許すも何も、貴方の力を頼りにしています。グローディアさん」
俺はそう言い、ぺこりと頭を下げた
頭を上げるとグローディアさんの肩が震えている。
「……ふふふふ……はははは!」
そう思った瞬間グローディアさんが頭を下げたまま急に笑い始めた。
怖いって!なんなんだよ!
「いや失礼いたしました、カスミ様、クレア様、トリッシュ様、シオン様、ナギ様、とんでもなく良い伴侶を捕まえましたな」
「言っていた通りでしょう?」
「はい、私も若ければ末席に加えて頂いたかもしれません」
なんか知らんがめちゃくちゃ褒められてしまったぞ。
よく分からんが完璧な返答だったのか?
「男性で自分が弱いから守ってくれ、と言う人は中々いませんから」
トリッシュが補足する。
「自分が強いと錯覚していれば落第、自分が弱いと自覚していて及第、そこで他人に助けを求めれる者は優秀なのですよ、旦那様。特に貴族はこれができぬ者が男女問わず多いのです」
「正直に言っただけなんですがね…」
「その正直に言う、というのが難しいのです、例え身内であろうとも、ね。貴族とは最後の最後まで見栄を張り続ける事も重要ですが、それとは真逆の行為である自分の弱さを他人に打ち明けるという行動も非常に重要なのです。自分の弱さが分かっておらぬ者に家臣は付いてきません。ただ打ち明ける相手には要注意、という所ですな」
「……ご教授、感謝します」
「謙虚で大変結構でございます。私に対するその気持ちを願わくば私が死ぬまで持っておいて頂きたいものですな」
「ローディ、めったなこと言わない!」
「ハハハ、私は200歳まで生きるつもりですよカスミ様」
しかしこの2人は本当に仲が良いな、そしてカスミが一生頭が上がらないという理由も何か分かる気がする。
その後も案内が続き、最後の部屋を残すのみとなった。
「最後、ここが旦那様の執務室兼寝室となります、私は明日からの馬車の手配等をしておりますので、何か用があればリリクランスにお伝えください」
「わかりました」
「では」
そう言い、グローディアさんは踵を返し廊下を引き返して行く。
執務室に入ると、リリクランスさんが執務机の横で待機をしていた。
失礼とは思いつつも暴力的なまでの大きさの胸が嫌でも目に入ってしまう。
「初めまして、そしておかえりなさいませ旦那様、カスミちゃ…カスミ様、クレア様、トリッシュ様、シオン様、ナギ様……リリクランスでございま……」
「リリー!!」
せっかく頑張ってたリリクランスさんの努力を台無しにするかのようにカスミがそのまま突撃して抱きついていく。
「カスミ…様!何を!」
「カースーミちゃーんー!」
「……カスミちゃん、お帰りなさい」
「よし!紹介するね!私のメイド長兼任お母さん兼任お姉ちゃんのリリクランス!リリって呼んで!」
「旦那様、よろしくお願いします……」
顔を耳まで真っ赤にしたリリクランスさんがカスミを胸に抱いたままお辞儀をする。
「よろしくお願いします、リリクランスさん。テンマです」
俺は極めて爽やかに挨拶し頭を下げる、乳はガン見している。
「じゃあリリ!とりあえず全員分のお茶とお菓子持ってきて!当然リリの分もね!」
「はい、では失礼いたします」
そのまま小さく一礼し、リリクランスさんは部屋を出ていき、足音が遠ざかるのを確認したカスミが口を開く
「……というわけで、リリをテンマの愛人にするから」
「「「「「「え?」」」」」」
カスミ以外の全員の声がハモる。
何がというわけなんだよ。
「冗談じゃないからね、これは王家も許可済みよ。本人には伝えてないけど」
本人知らないの!?ていうか王家許可済!?
「王家公認の愛人ってなんでそんな…」
「身分が低すぎてテンマとの婚姻が難しいの……それに、リリが未婚なのは私のせいだから」
「というと?」
「リリは私が生まれてすぐ私のメイドになったわ、それで本来なら10歳になる前に離れる予定だったんだけど……私が、ずっとずっと側にいて欲しいってあらゆる手立てを総動員して渋ったから未婚のままずっと私の側にいてくれたの」
皆微妙な顔をしている。
癇癪、凄かったんだろうなあ…。
「その、言い辛いのだけど結婚の事を説明とかはされたのかな」
「されたわ、されたけどママもパパも忙しくて殆ど相手をしてくれなかったし、その状況でリリを失うのは本当に嫌だったの、後々ママとパパが何度も頭を下げてリリに結婚を諦めてくれるよう頼んだって聞いたときにはもう手遅れだったわ」
国の最高権力者に言われたらまあ受け入れるしかないか……。
「この話をしたらママもパパも凄く喜んでくれて……リリはもう27よ、あの歳では貰い手も殆ど見つからないし見つかったとしても好色な商人がせいぜいなの、幸せにしてあげたいの、お願い、皆」
カスミが今までになく真剣な表情で頭を下げる。
俺も何も言えず無言の状態が続く中で、トリッシュが意を決して口火を切った。
「私は構いませんよ、そういった事情であれば同情はできますし、少なくともカスミ様がそこまで懐く人であれば仲良くできそうですしね」
え、トリッシュいいの!?
「私もリリさんならば、まあ」
クレアも同意する。
君もいいの!?
「で、でも2人ともさっき足踏んだじゃないか…」
「それはそれです」
「そういう事です、リリさんは私も何度も面識ありますし信用に足る人であるのは分かっていますから」
「私は元より文句を言える立場ではないので…」
「私もです」
シオンとナギが答える。
そう、実は女性陣5人の中にも微妙に立場の違いがある。
まずカスミ・クレア・トリッシュは正妻で、立場的には俺と対等になる。
そしてシオンとナギは側室であり、扱いとしては一段落ちる。
夫に対しても基本的なスタンスとしては絶対服従であり、正妻から側室に対する命令にも基本服従となる。
とはいえ俺は扱いに差を付ける気は微塵もないし、それに関しては女性陣も同意しているのであまり気にするべき所ではない、対外的な席で少し席次が変わるかもしれないという程度だ。
「というわけだから、学校に赴任する前ぐらいまでにセッティングするから決めちゃってね」
「いや決めちゃってねってカスミそれは…」
「大丈夫だって!私がちゃんと説明するから!ていうか本当にもう形振り構ってられないの!」
「じゃ、じゃあ一応条件つけるよ!リリクランスさんが嫌がったらやらない!これは譲歩できない!」
「……分かったわ。それでテンマの気が済むならいいわ」
よ、良かった。
とりあえず無理やりというのは避けられた。
その時、こんこんというノック音が鳴り、外から鈴を転がすようなかわいらしい声が聞こえてくる。
「テンマ様、奥様方、ご用意ができました」
「はーい!今開けるね!リリごめんね、いきなり仕事させちゃって」
「いえいえ、私はとっても嬉しいんですよ。カスミさ…ちゃんとまた一緒に過ごせるのだもの」
「リリ~♪」
リリクランスさんに常に抱きついているカスミを見て、なんていうか、俺が巻き込まれた王家の計略って、全部が全部カスミの為のものな気がしてきたな。
まあ誰も不幸にゃなってないから、いいんだけどさ。
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